免除申請は自動的にすればいいのに - 赤木智弘
※この記事は2016年12月11日にBLOGOSで公開されたものです
朝日新聞が、国民年金を滞納している人のうちの9割が、所得が低く、申告さえすれば一部、もしくは全額免除に該当すると、塩崎厚労大臣が答えたと報じている。(*1)言えることは1つで「だったら、機械的に免除するシステムにしろよ」ということだ。
ただし、現在の年金制度を確認するに、免除のシステムは「支払額が減る代わりに支給額も減る」というシステムであるために、積極的に免除を押し出すのにも問題があるとは言える。
しかし、そうした問題は「払える余裕がある月は、免除分も払う」という受け付け方をすればいいだけの話であり、せいぜい送る納付書の枚数を、収入に応じた免除額の分の納付書と、本来の年金保険料に合わせるための追加納付書の2つを送ればいいだけのことである。労働者個人の収入額は把握しているはずなので、できないことはないのに、なぜやらないのか。
たったそれだけのことをせずに、年金の滞納が増えていることを、さも「払えるのに払おうとしない、ズルい個人が増えている」かのように吹聴することは、大いなる怠慢であると言えよう。
社会保障問題にまつわる問題の中で、「低収入であったり、困難を抱えている人であればあるほど、行政の窓口に足を運びにくい」という部分に起因する問題は決して少なくない。
本来、弱い立場の人たちの相談にのるべき行政の窓口が、度重なる強い口調の納付要求の送付により「行けば、何かと文句を言われてカネを取られる恐怖の場」であるかのように認識されてしまい、なかなか窓口に足を運べない人も決して少なくはない。
また、そうした風潮を煽るのが、ネットなどに多い「立派な市民」の方々で、ネット上で納付できない人を叩けば叩くほど、払えない人が行政に相談できないスパイラルが広がってしまう。
払わない人を叩くのは簡単だが、それではいつまでたっても年金を払えない人たちが、払うようにはならない。個人的な感情でもって他人を叩くことを快楽に思う前に、実際にそうした人たちに対して免除申請をし易いような環境づくりをするほうが、叩くよりもよほど有効である。
確かに、本来払われる年金保険料を受け取ることもできない行政も被害者なのかもしれない。しかし一方で、年金保険料を払うことのできない貧困者も被害者なのである。払えない人の大半は、決して払いたくないから払わないわけではない。毎月16,260円という額を払うことができないから払わないのである。年金保険料を払わないことは決して楽ではない。楽ではなく、後ろめたいからこそ、行政の窓口に相談に行けないのである。
そしてそもそも、そうした人たちの貧困は、国の再分配が真っ当にされてないからこそ、引き起こされていることである。国の文句を言うと「なんでも国のせいにするな!自己責任だ!!」と吹き上がる人達もいるが、憲法で生存権を認めている以上、国民を養う義務は国にあるのであり、貧困は国の責任である。
個人的には国民年金など、さっさと辞めてしまえばいいと思っている。
払えば払うほど、多くもらえる保険など、社会保障ではなく保険会社が取り扱うべき「金融商品」に過ぎない。社会保障でないとともに、民業の圧迫であり、国が年金を運営するのはおかしな話である。更に少し前から、早期の一括納付による割引が行われていることもあり、金持ちほど有利な制度設計である国民年金制度に、社会保障としての意義など全く存在しないと言ってもいい。
とはいえ、今のところは老後のセーフティネットとしての役割を年金が担っている以上、それを安易に否定もできないだろう。
ならばせめても、行政は「年金保険料を支払いやすくする」という最低限の義務くらいは果たすべきである。
年金保険料を払っている払っていないにかかわらず、個人に対して、免除申請を自動的にすることは、その最低限の最初の一歩であると言えよう。
*1:年金滞納者、9割が免除対象 低所得者の強制徴収に限界(朝日新聞デジタル)