DeNAのヘルスケア情報サイト「WELQ」は立ち直れるか? 南場智子会長に期待したい「原点回帰」 - 亀松太郎
※この記事は2016年11月30日にBLOGOSで公開されたものです
DeNAが運営するヘルスケア情報サイト「WELQ」が医学的に誤った記事を多数掲載しているなどとして批判されていた問題で、同社は11月29日夜、利用者に対して謝罪するとともに、「全記事を非公開にした」と発表しました。・当社運営のキュレーションプラットフォームについてのお知らせ - DeNA
医療や薬剤といった人の命に関わる重要なテーマを扱っているにもかかわらず、専門家の監修を受けずに信頼性の乏しい記事を粗製乱造し、それらを検索エンジンの上位に表示させている――。そんな批判を多方面から受けたWELQが一時休止に追い込まれたのは、やむをえないことだと言えるでしょう。
今回のDeNAの炎上を見て、頭に浮かんだことがあります。
それは「DeNAの創業者である南場智子会長は、自社のヘルスケア情報サイトに対する批判をどう受け止めているのだろうか」という疑問です。 なぜなら、南場会長は昨年の講演で「ヘルスケア事業で社会を変えたい」と語っていたからです。
・DeNA社長退任、そしてヘルスケア事業で社会を変える決意をするまで - GLOBIS知見録
●「医療情報の重要性」を指摘していた南場会長
南場会長は2015年5月11日、経営大学院のグロービスで講演しました。そのとき「私が肝入りで頑張っている事業」としてヘルスケア事業をあげました。南場社長はがんにかかった夫を看病するため、2011年に社長を退任したのですが、そのときに医療と真剣に向き合った体験がヘルスケア事業に本腰を入れた背景にあると説明しました。ヘルスケア事業にかける思いについて、南場会長はこんな風に熱っぽく語っています。
「『自分がやっておかなければいけないことだ』と、内から沸き起こる強い気持ちを初めて感じていた。もちろん私は事業家であって経営者だから、そこできちんと、事業として成功させなければいけない。ただ、最大のモチベーションは、『病気になる前にケアする社会をつくりたい』という個人的な強い思いだった」
そのような思いを持って、DeNAライフサイエンスという子会社を立ち上げ、ヘルスケア事業に乗り出したわけです。中核は「遺伝子検査サービス」ですが、南場会長は講演の中で、医療における「情報の非対称性」の問題についても言及しています。
・MY CODE - 株式会社DeNAライフサイエンス
「健康な人だって、『自分はどんな病気にかかりやすいのか』『健康のために日頃何をしておけばいいのか』といった専門情報はなかなか入ってこない。世の中に出回っているもののなかで、どの情報に信憑性があって自分に関係があるのか、分かりにくい。結局、これほど大事な領域なのに情報の非対称性が大きい。それが問題なんじゃないかと考えた」
この医療情報の非対称性についての指摘は、その通りだと感じます。私は一時期、現役の医師たちが中心となって立ち上げた医療情報サイトの運営に関わったことがありますが、そのとき、医療に関する「適切な情報」がいかに一般の人に届いていないかということを痛感しました。
それだけに、南場会長のような実績のある経営者が、本気で「医療情報の非対称性」の解消に取り組んでくれるのだとしたら、とても頼もしいことだと感じられました。
●WELQの前身サイトは「まとも」だった!?
南場会長は当初、適切な医療情報の発信についても、力を入れようとしていたようです。2015年3月に「エンジニアtype」に掲載されたインタビュー記事では、次のような南場会長の言葉が紹介されています。・DeNA南場智子さんに聞く「新事業の作り方」~ヘルスケアビジネスの“第二幕”はこれから始まる - エンジニアtype
「病気や新薬、生活習慣病についての一般的な専門情報を知っていただくために、『Medエッジ』というオウンドメディアも立ち上げています。これは、『最先端を親切に』をテーマに運営する医療と健康の情報サイトです」
この「Medエッジ」は2014年8月にスタートしたヘルスケア情報サイトで、もともとはヘルスケア事業を手がけるDeNAライフサイエンスが運営していました(マイナビニュース記事参照)。WELQの採用面接を受けたことがあるという人のブログによれば、Medエッジは「比較的信頼性のある著者」が記事を書いていたということです。
・DeNAライフサイエンス、ヘルスケアニュースサイト「Medエッジ」を公開 - マイナビニュース
・WELQの面接で落とされ、その後WELQが炎上して、思うところ - はてな匿名ダイアリー
しかし、どのような理由かわかりませんが、Medエッジは1年半ほどで閉鎖され、後継サイトである「WELQ」に記事が移されることになりました。どうやら、ここに「変節」があったようです。
すなわち、DeNAのヘルスケア情報サイトは当初、南場会長の熱い思いに沿ったコンテンツを提供していたのに、途中で、その思いから遠く離れた「信頼性の乏しい情報」を垂れ流すサイトに変わってしまったようなのです。
その結果、「医療情報の非対称性を解消したい」という南場会長の目標を実現するどころか、むしろ医療情報の非対称性を「拡大」する事態を招いてしまったと言えるのではないでしょうか。
このような状況を、南場会長はどのように見ているのでしょうか。そこが気になっています。
●南場会長が「WELQ再生」の先頭に立て!
今回、強い批判を浴びたDeNAですが、同社が発表した対応策は「完全閉鎖」ではなく、一時的に「全記事を非公開とする」というものでした。今後は、医師や薬剤師などの専門家による監修体制を整えたうえで、医学的根拠にもとづく情報をWELQ編集部名義で掲載していく、としています。つまり、体制を立て直して、再出発をはかりたいとしているわけですが、もしDeNAが本気でヘルスケア情報サイトの再生に取り組もうというのならば、ぜひ、ヘルスケア事業全般を率いる南場会長自身に音頭を取ってもらいたいと思います。
重病にかかった家族を全力で看病した体験をもつ南場会長だからこそ、正確なヘルスケア情報の重要性がわかるはずです。南場会長の指揮のもとで「原点」に立ち還り、私たちが本当に信頼できるヘルスケア情報サイトを作り上げてほしい。そう期待します。
今回の騒動を機に、南場会長の著書「不格好経営」を読んでみました。これは、DeNA創業から社長退任まで、何度も大きな失敗をしながらそれを乗り越えてきた「DeNAの黒歴史」を率直につづった本です。その「まえがき」には、こんな言葉が出てきます。
「とんでもない苦境ほど、素晴らしい立ち直り方を魅せる格好のステージだと思って張り切ることにしている」
DeNAは今回の苦境に対して、どう立ち向かうのか。「ヘルスケア事業で社会を変えたい」という高い志をもつ南場会長のもとで、ぜひ「素晴らしい立ち直り方」を魅せてほしいものです。