待機児童は「保育園の義務教育化」で解決? 駒崎弘樹氏が語る保育士不足問題 - 土屋礼央

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※この記事は2016年11月08日にBLOGOSで公開されたものです

土屋:「土屋礼央のじっくり聞くと」、今回は病児保育の認定NPO法人「フローレンス」代表、駒崎弘樹さんをお迎えして、待機児童問題についてじっくり聞いてまいります。

今日は私と同じRAG FAIRのメンバー、奥村政佳(おっくん)も一緒です。おっくんはミュージシャンをやりながら保育士としても活動しているので、現場からの意見もビシバシと聞かせてもらいますが、まずは駒崎さんに伺います。

我が家の4歳の息子も保育園にお世話になっていますが、子供を預けるほうからすると、もっと先生たちはお給料を貰っていいんじゃないかと思う反面、認可外保育所だと利用料が高かったりして「働くよりお金かかるんじゃないの?」ってこともある。このバランスは、どうしたらいいのでしょうか。

駒崎:そこは二重の問題になっているんです。いま「認可外」というお話が出ましたが、認可外の場合は認可保育施設と比較すると非常に処遇が悪くなります。なぜならば、認可外には、国からの補助がないからです。



完全な認可外は保護者から受け取る保育料だけで切り盛りしますので、保育士さんに払えるお給料は少なくなります。そういう補助金の金額での階層があるのです。東京や横浜など場所によっては、自治体が保育所を認証し、補助金を出す制度もあります。

ただ認可だから潤沢に予算があるかと言うとそうではなくて、やはりギリギリでやらざるを得ないような補助金の体系になっています。

認可保育所(国基準) 認証保育所(自治体基準) 認可外保育所 国からの補助金 あり なし なし 自治体からの補助金 あり あり なし
それなら、「預けている保護者からもう少し貰えばいいじゃないか」「富裕層ならたくさん払えるんじゃないか」と思うかもしれませんが、それは禁じられています。保育料というのは、勝手に値上げできない。所得に応じて保育料が決められているんです。これを「応能負担」と言うんですが、こうしないと所得の低い人は保育園に子供を預けられなくなってしまう。

非常に平等だし、いい仕組みなんですけど、値上げはできないから、保育園側としてはコストを削るしかない。ただ、コストの7、8割が人件費なので、他に削れる部分なんてない。この構造が、保育園が窮乏する根本原因になっているんです。

土屋:国や東京都が、もっと予算を割くことはできないんですか。

駒崎:それが僕が常日頃から主張していることです。実際、安倍政権では少子化対策で「出生率を1.8%にあげましょう」と言っています。だったら保育士の給料を出してください、補助金を上げてください、という話なんですよ。

子育てに関する予算の割合を諸外国と比べてみると、対GDP比でスウェーデンが3.4%、フランスが2.8%、それにひきかえ日本は1.3%です。つまり、フランスの半分以下の戦力で「出生率をフランス並にしろ」と言っているんです。太平洋戦争で「物資や弾丸はないけど頑張れ、気合でいける」とやっていたのと同じようなことですよ。

◇就学前の教育がその後の人生を左右する



土屋:おっくんはどう思ってる?

奥村:もっと教育に力を入れることも必要ですよね。いま日本がやっているのは、量も質も足りていないから、まずは量を増やそうという動きですが、質の部分についてもカバーする必要があると思います。

駒崎:おっしゃるとおりで、待機児童問題もまず量が問題視されている。しかし、保育園というのは「就学前教育」と言われていて、小学校に上がる前の教育的側面もあるわけです。

この間オランダに行ってきたんですが、オランダでは4歳から義務教育が始まります。ヨーロッパでは、就学前の社会的な投資が一番投資対効果が高いというコンセンサスがあるのです。どこの大学を出たかではなく、就学前にどれだけの教育を受けたかが、将来の犯罪率や生活保護率や遊興率、職を得られるかどうかという要素に影響するというデータが出ているんです。人生の1番初期に与える教育が、何十年か後に返ってくるということが証明されているのです。

マタイ効果と言って、求める者にはさらに与えられるんですが、なきものは与えられない、こうして格差が生まれていく。生まれてくる家庭や経済力によって、その子の人生がかなり決まってしまうのは不平等であって、これを中和する装置が就学前教育、つまり保育園なんです。

土屋:よく保育園の数が足りないと聞きますが、おっくんにその話をすると「保育園の前に先生の数が足りないんだよ」って言うよね。

奥村:そう、先生の数が足りないから、「先生の質を上げろ」といってもなかなか研修や勉強の時間が作れない。

就学前教育の質の担保という部分で言うと、現在の保育士の教育の過程がもう少しよくならないといけないと思います。同じような専門学校での教育を受けている割合や、女性の割合が高いといった現状があるので、もっと多様性が出てもいいと思います。

保育園に男性保育士が1人でも入ると、雰囲気がガラッと変わることがあります。男性保育士を増やすためには、「一生の仕事」として働けるような賃金体系が必要になってくるので、ここも課題です。

誤解を恐れずにいうと、質の担保がされていない保育士には質の良い教育ができません。量だけでなく、質の確保もしていかなくてはいけない。だから現状、「量だけ確保する」という流れは怖いことなんです。質も量も、両輪として確保していかなくてはいけない。

土屋:保育士の国家資格試験、難しいんですってね。おっくんもRAG FAIRをやりながら試験を受けていて、「この日は試験があるからライブができない」と泣く泣く公演を諦めたこともあるんですよ(笑)。

奥村:たしかに試験は難しくしてあるわけ。でもそれは保育士になるための最初のハードルであって、保育園に入ってから何をするかは全然別の話。保育士試験の内容は現場でももちろん最低限の知識として生かせるけれど…。

駒崎:例えばリスクマネジメントの項目がなかったり、試験自体のありようも変えていかなければいけないですよね。

◇保育士の処遇が悪すぎる



土屋:お話を聞いていて、保育士がもっと憧れの職業になるようなステータスを与えなければいけないとも思いました。

駒崎:実は小学校までの「女の子のなりたい職業」は保育士さんが多いんです。社会人になって現実を知ると、処遇も含めて「これではちょっとできないな」となっていってしまうんですけれども。

保育士資格を持っている人が全国で70万人いるんですが、保育園で保育士として働いている人は35万人にしか過ぎないんです。つまり保育士資格を持っている人が不足しているわけではなく、その人たちが現場で働くことを選択していない。これが潜在保育士問題で、理由を聞くと6割の人が「処遇の問題だ」と答えている。

土屋:いったいどうしたらいいんですか。

駒崎:とても簡単なことです。70年代に同じように学校の先生が不足した時期があったんです。高度経済成長で、インフレもあって、民間の給料が上がったにもかかわらず、先生の給料が上がらなかった。相対的に給料が低くなったので、先生のなり手がいなくなったんです。

そこで当時の田中角栄内閣は、先生の給料を民間よりもちょっといいくらいにする「人材確保法」という案を出したんです。当時はすごく反対されたのですが、教育の自由を訴えた人たちの尽力もあって、その案が議会を通過し、給料が上がったんです。それ以来、一度も教師不足にはなっていません。教師の平均年収はいまだに結構いいんです。だから、同じように保育士の給料を上げればいい。

奥村:いまは、ヘタしたら小学校の先生のお給料の半分ぐらいですよね。

土屋:それを、同じ基準にしようという。

駒崎:これに反対する人はそんなにいないんですが、財源をどうするかという問題がある。給料上げるには何千億円かかかる、これをどこから持ってくるか。

この間、高齢者一千万人に3万円配ったんですが、これだけで3000億円ですよ。あるところにはあるんです。年金50兆円、医療が42兆円、それに比べて子供の経費は1兆数千億円。消費税を1%上げたら2.5兆円ですから、1%を全部子供のために使えば、少子化対策もかなり万全になるんです。優先順位の問題です。

不満を抱いている人が声をあげれば、すぐに変わると思います。今年前半に起きた「保育園落ちた日本死ね騒動」というのはいいモデルで、一人の匿名のお母さんがブログを書いてそれがネットで炎上した。政治家が「これはやばい」と感じて、最終的に保育士の給料が2%上がることになった。

「給料2%」って六千円くらいなのでたいしたことはないんだけど、それでも何もしなかったらゼロですから、影響力はあった。あれに類するものを毎年どこかで仕掛けるしかないんです。どこかで誰かが叫ぶ、声の大きい人が、少数かもしれないけど「怒っている」「意見を訴えている」という状況を作り出すしかない。

土屋:いまはSNSで拡散していきますもんね。

駒崎:そうすることで政治家に気づかせることが重要です。僕は、自民党にも公明党にも民進党にも呼ばれて、話をしましたけど、与党の人たちは「僕たちは一生懸命やっていると思ってた」って言うんですよ。彼らが悪人なわけでなく、子育てから離れているし、現場の支持者も集会に来てくれるのは60歳以上ばかり。そうすると「病院がない」「介護がきてくれない」という話が主体になるから、そもそも保育園の問題に気づかない。

奥村:よく政治家の保育園視察なんかもありますけど、あれは仕組まれた視察ですもんね。

駒崎:歓迎ムードになってるから、あそこで誰も怒ったりしないんですよね。誰かが政治家の胸ぐら掴んで「どうして保育士の給料上げないんだ」って言えば変わるかもしれないけど。

◇保育園を義務教育化すれば解決する



土屋:義務教育の年齢が下がればいいってことですか。

駒崎:そうです。基本的には保育園を義務教育化して全員分用意すればいいんですよ。小学校は用意できているんだから、その分用意すればいいだけなんです。小学校のスペースが空いているところもあるし、建て替えする時に保育園のスペースを作ればいい。

もっと言うなら、新しいビルを作る時に容積率が決まっているけれど、あれって実は国や自治体がいじれるんです。保育園を入れたら容積率をアップできますよって言ったら、喜んで高くするところも出てくるはず。これって政治家がすぐにできることなんです。

他にも、土地を持っている人はアパートを作ると固定資産税が減税されるんですよ。だけど、保育園を作っても固定資産税の減税はない。どっちが得かって言われたら、それはアパートを作りますよね。これは戦後、住宅が不足していた時代があって、どんどんアパートを作ってもらいたかったからできたものなんだけど、これが戦後から変わってないんですよ。

人が作った制度なんで、人が変えられるんです、東京都だけでもできるんです。知事が「やれ」と言えば、保育園を作れば固定資産税が減税できるという制度が出来る。

土屋:小池都知事はやれそうですか。

駒崎:舛添さんより10倍はマシです(笑)。一回も保育園に足を踏み入れなかった舛添さんよりはいいと思いますよ、選挙中もうちの園に来てくれましたし。ただ、小池さんがどうというより、都知事を働かせるのは都民ですから、ダメだったら舛添さんの時みたいに辞めさせて、うまくいったら拍手すればいい、これだと思います。

◇子供の看病で会社を休んで解雇される世の中はおかしい



土屋:そもそも駒崎さんは、日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを行っていますが、フローレンスを立ち上げたきっかけはなんだったんですか?

駒崎:僕の母親がベビーシッターをしていて、お客さんのひとりに双子のお母さんがいたんです。その双子のお子さんが二人続けて風邪をひいてしまった。風邪をひくと保育園では預かってくれないので、お母さんは長い間仕事を休んで看病したんですね。そうしたら会社が激怒して、事実上解雇になったという話を母から聞いたことがきっかけです。。

「子供が熱を出したから看病で休む」。そんな当たり前のことをして職を失う社会はおかしい。だから、そういう子供を、病気の時に預かることができればいいなと思ったんです。

行政も病児保育の施設を構えてはいるのですが、それだけだとカバーしきれない部分もありますし、不便だったりもします。病気の子供を移動させるだけでも大変だし心配じゃないですか。そこで、病気の子の家に行って面倒を見るという訪問型病児保育をスタートさせまして、それ自体は日本で初めてでした。

土屋:私がやっているラジオで一緒のアナウンサーも、3歳の子供を育てながらやってるんですが、やっぱり番組に穴をあけられないから病児保育を頼らざるを得ない。でも、「本当に預かってくれる場所が少なくて」と言っています。おっくんは保育の現場にいる者として、病児保育は難しいと思いますか。

奥村:この3月末まで横浜の保育園で主任保育士をやっていたんですが、保育園の朝は、子供たちが登園すると、まず検温して37度5分で預かれるか預かれないかを区切るんですよ。風邪をひいた子供を保育園で預かると、他の子に風邪がうつってしまう。お母さんも仕事で責任ある立場の人が増えていてなかなか休めないから、保育園で風邪をもらってきてしまうと、他のお母さんも同じように困ったことになってしまうんです。そんな中で、訪問型病児保育というのは大切だと思います。

土屋:保育士さんに風邪がうつったりしないんですか。

奥村:これは新任の保育士あるあるで、新人はすぐ風邪をもらって休みがちなんですが。現場に長くいるとだんだん子供の病気に対して耐性ができてきて、風邪ひかなくなるんです、本当に(笑)。

駒崎:うちは、そこは給与保証していて「業務で特定の病気をもらってしまった場合は給与保証があるからお休みできます。安心してね」というやり方です。予防接種も打ってもらっていますが。

◇保育士は保護者以上に休めない



奥村:病児保育の話をしてるけど、先生は保護者以上に休めないんですよ。先生が病気を隠して出勤せざるを得ない状況がある。だから、病気の先生の代行もあったほうがいい。

駒崎:いま、東京と仙台15カ所で保育園を運営していて、東京には13カ所あります。先生も休みたいんですが、保育業界は休めないのが基本。これはおかしいと思ったので、うちでは1~3カ所に1人、余剰人員を置くことにしたんです。

ヘルプマンと呼んでいるんですが、「ヘルプマンが行くから休んでもいいよ」と、先生が休める体制を作りました。そしたら保育士さんが「ここは休めるから素晴らしいです」って言うんですよ。印象的な言葉でしたね。

奥村:それは、複数園あるからなんですよ。普通はシフトがギリギリに組んである。だから休めるというのは羨ましいです。

土屋:複数の保育園があることで、こっちの人があっちに行くということができるんですね。

奥村:一カ所でやっている保育園だと、余剰人員をつけたらそれだけで赤字だし、先生ひとり休むだけで、人手が足りなくなって、目が届かなくなって、ヘタしたら子供が危ないですからね。

土屋:事件は現場で起きてるんですね。現場の人にもっとアピールしろと言っても難しいところもあるとは思いますが…。

駒崎:現場の人が給料上げろとは言いづらいから、僕が「給料上げようよ」と言っている。そんな状況です。僕は、現場の声を拡声する拡声器になれたらいいなと思っています。

プロフィール

■駒崎弘樹
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1979年、東京都江東区出身。NPO法人フローレンス代表理事。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、「地域の力によって病児保育問題を解決し、子育てと仕事を両立できる社会をつくりたい」と考え、2004年にNPO法人フローレンスを設立。08年Newsweek「世界を変える100人の社会起業家」に選出。10年から待機児童問題解決のため「おうち保育園」開始。後に小規模認可保育所として政策化。14年、障害児保育園ヘレンを開園。著書に「社会を変えるを仕事にする」「働き方革命」など。

■奥村政佳
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1978年、大阪府出身。筑波大学自然学類卒。高校在学中、17歳の当時最年少で気象予報士に合格。2001年にアカペラボーカルバンド「RAGFAIR」のボーカルパーカッショニストとしてデビュー。音楽活動と並行して保育士資格取得。2016年春まで主任保育士を務める。横浜国立大学大学院教育学研究科に在学中。

■土屋礼央
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1976年、東京都国分寺市出身。RAG FAIR として2001年にメジャーデビュー。 2011年よりソロプロジェクト「TTRE」をスタート。ニッポン放送「土屋礼央 レオなるど」、TOKYO MX2「F.C. TOKYO魂!」、FM NACK5「キラメキ ミュージック スター キラスタ」などに出演中。ニューアルバム「ブラーリ」が好評発売中。
・TTREニューアルバム「ブラーリ」
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・Twitter - 土屋礼央 @reo_tsuchiya
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