※この記事は2016年10月23日にBLOGOSで公開されたものです

東京都内を中心に活動しているアイドル。「魔法少女☆りりぽむ」が、すべてのタレント活動を休止すると発表した。(*1)

ファンの中にタレントを傷つける言動を繰り返す人がおり、スタッフが注意を繰り返したが止まずにエスカレート。タレント本人が身の危険を感じている状況となり、警察に相談。立件を視野に入れるとともに、警察からの指導もあり、芸能活動を休止することを決定したと、事務所側は発表している。

この件で初めて名前を聞いた女性なので、事務所側が出している活動内容から判別するしかないのだが、いわゆる「地下アイドル」のひとりであろう。ライブを中心とした地下アイドルの活動はアイドルとファンの距離が近く、親密性が強い分だけ、アイドルに降りかかるリスクも大きいと考えられている。以前にもライブを中心に活動していた女性ミュージシャンがファンの男性に襲われ重傷を負うという事件もあった。

そうしたことから、まっとうな事務所であればあるほど、所属タレントの安全には気を遣わなければならないことは言うまでもなく、一見大げさにも思える対応も、安全のために致し方ないと考えられる。

かつて、アイドル全盛の時代にも、こうした勘違いしたファンはいた。だが、アイドルも限られた存在であり、芸能界という壁の中でトップアイドルは守られることができた。

しかし、ライブ中心の地下アイドルは、ファンとの距離が近く守られることが難しい。だからこそ、こうしたファンに対する対処が、活動停止などということになってしまう。アイドルがアイドルでいられる時間は決して長いとは言えず、一時期であるはずの活動停止が、一生に変わる可能性も低くはない。魔法少女☆りりぽむさんが、また笑顔で活動できるようになる日が来ることを願うばかりである。

さて、この件に関わっているかどうかは不明だが、行きすぎた行動のためにスタッフから注意をされている、彼女のファンのブログがあった。

複数日のブログに彼女のことと思わしき記述はあったのだが、そのうちの1つ。今年7月の時点で、タレントのマネージャーから注意をされ、それについての考えが綴られている。

最初こそ、アイドルに対して精神的な苦痛を与えてしまったことを反省しているかのような言葉が出てくるものの、途中からは極めて自分勝手な自己弁護の言葉が続いていく。そして最後は「僕と結婚すれば、お金には困らない生活を送れる」という論旨で〆られている。

ざっくりと一通り読んで、その気持ち悪さを十分に味わったところで、ふと気づく。これがアイドルオタクの男性が書いている文章だから気持ち悪く見えるけど、世の中にはこれに似たようなことを主張している人が数多くいることを。

彼は言う。

「僕は彼女のことが好きで、本気で結婚したいと思っている。

だからこそ、SNSなどに、良いことも悪いこともつぶやいた。

しかし、悪いことは、彼女の将来を心配するが故の、激励でありアドバイスなのだ。」と。(*2)

強い愛情をもって、悪いことも書いた。これは激励であり、アドバイスだ。

これは虐待親や体罰を肯定する大人たちが子供に対して暴力などを振るうときに、必ずと言っていいほど通る論理である。「自分が相手をひどい目に遭わせるのは、そこに愛情があるからだ。愛情があるからそれは暴力や嫌がらせではない」らしい。

たとえ部活動での暴力で、子供を自殺に追い込んだとしても、その監督を「慕う」と称すOBや部員の親たちが、そうした暴力人間を「そこには部員を強くしたいという愛情があった」などと賛美して支えようとするのである。

つい最近、かつて傷害致死事件を起こし、また複数の不審死や自殺を起こしている「戸塚ヨットスクール」が再び注目を浴びた。それは子供たちの教育と称して、4歳の小さな子供を海に放り投げるなどの暴力を振るっていたことが、テレビの密着取材で明らかになったからだ。(*3) 恐ろしいことに、それは決しテレビがこっそり撮影したのではなく、戸塚ヨットスクールがテレビ取材に自ら応じての映像である。つまり、彼らは今もなお、虐待を教育であると錯誤し続け、またそれを容認して、子供を他人の虐待に晒して平気な自分勝手な親が、普通に存在しているという現実を明確に表しているのである。

もう一つ、こうしたことも書いている。

「彼女はアイドルを辞めたら何もできないだろう。

辞めたら実家の手伝いをするのか、ニートになるのか、AVに出演するのか、悪い道に行くのかしか選択肢はないだろう。

だから、将来のことを考えて、僕と結婚をするのが、一番賢い選択だ。」と。(*2)

暴力親や体罰を肯定する大人たちは、必ずと言っていいほど「自分たちの考えを受け入れなければ、子供たちは不幸になる」という呪いを巻きちらす。彼らにとっての暴力が向かう相手は必ず「未熟」であり、自分が導かなければ何もできなかったり、悪に突っ走る人間であると思い込む。だからこそ、過剰に他者を縛り付け、自分の価値観を押しつけようとする。

そしてこれは最も多くの人が、普段は口にしないまでも、思っていることではないか。

たとえば、結婚相手を連れてきた子供に対して、稼ぎが悪いから、家柄が悪いからと、なんだかんだと反対する。親からすれば「子供のためを思って」であるが、そこには「自分の言うことを聞かなければ不幸になるぞ」という呪いが含まれる。

東日本大震災以降、過激な反原発派は「早くフクシマから逃げなければ、子供たちが次々にガンで死ぬぞ」という呪いの言葉をかけ続けてきた。そこには自分たちの言論を受け入れないものに対する呪いの感情があった。

また、国のためと称した「中国が攻めてくる」論もそうである。日本の軍事を強くするという提案を受け入れなければ、中国が攻めてきたり、韓国に支配されたりする。そのような恐怖煽りも呪いに他ならない。

そしてそれは僕自身も例外ではない。

「政府は会社などへの給付を通して雇用を助長するのではなく、個人に向けた直接給付を行わなければ、日本経済は沈没する」というようなことを僕は主張している。根拠があって言っていることではあるが、同時に呪いとしての意味合いも有してしまっていることは、否定ができない。

このブログを読んだときに、多くの人たちは、このアイドルファンはとんでもなくキモい人間であり、自分とはまったく違う世界の人間であると考えるだろう。

しかし、よくよく読んでみると、その思考は僕たちの社会が当たり前に受け入れている「わずかなひずみ」が組み合わされた結果に過ぎないようにも思える。このひずみが、1つ1つ、バラバラな対象に向かうのであれば、それはよくある「ちょっと頑なな意見」だったり「ちょっと偏った自意識」みたいなものに過ぎない。

それこそ、テレビに出ているみんな知っているアイドルであれ、こうした地下アイドルであれ、または格好いいスポーツ選手であれ、アニメの声優であれ、そうした、自分とは異なる世界の相手に恋愛感情のようなものを抱くことは、よくあることである。しかし多くの人はそうした想像と現実の差違を受け入れて、一人のファンであることから逸脱はしない。

しかし、そうしたバラバラなものが、1つの対象に向かったときに、逸脱は強まっていく。しかし、その行き着いた先の気持ち悪い存在は、私たちとは異なる人間ではない。あくまでも私たちと「同じ人間」である。

だからこそ、僕にはこのファンの考え方が、恐ろしいのである。自分自身や、他の人がこうした思考に行き着かないとは限らないのだから。 彼もまたいつか、自身の妄執を受け止め、あまりおかしなことを考えなくても大丈夫になることを祈りたい。


*1:魔法少女☆りりぽむ 活動休止について とても大切なお知らせ(RIRIPOM.net)
*2:内容は該当ブログの内容を、私が要約したものです。
*3:戸塚ヨットスクールが幼児教育を始めていてヤバイ。3歳児にビンタ、4歳児を海に放り投げる(netgeek)