【詳報】「朝日新聞社は必ず変わります。社員の先頭に立って、必ず変えます」新社長・新会長が会見 - BLOGOS編集部
※この記事は2014年12月05日にBLOGOSで公開されたものです
5日、朝日新聞社が大阪市内で臨時株主総会を開催、「吉田調書」報道や慰安婦報道の問題を受けての新体制を発表した。合わせて開かれた臨時取締役会では、渡辺雅隆氏(取締役。管理・労務・ワークライフバランス、コンプライアンス担当)が代表取締役社長に、また飯田真也氏(上席執行役員。東京本社代表、消費税対策統括・教育事業担当)が代表取締役会長に就任した。・朝日新聞社、新体制が発足 木村前社長は顧問就任辞退 - 朝日新聞
朝日新聞は11月28日に吉田調書をめぐる記事の出稿に関係した記者など6名の処分を決定、12月5日付人事として公表していた。
同日付の人事は11月13日にも発表しており、そこでは危機管理担当や編集担当などの取締役が辞任・降格とされたほか、木村社長が辞任し特別顧問に就任することが発表されていた。さらに、木村社長は特別顧問ではなく「顧問」に就任することが今日になって報じられていたが、本人はこれを辞退したという。
夕方開かれた会見には渡辺新社長、飯田新会長のほか、高田覚・取締役広報担当兼社長室長が出席、こうした経緯についても説明が行われた。
「根底から朝日新聞を作り変える」
会見冒頭、渡辺新社長は、「弊社の報道を巡る一連の問題では皆様に多大な迷惑とご心配をおかけしており、あらためて深くお詫び申し上げますとともに、これから全力を上げて再生にとりくんでまいる所存です」、「朝日新聞の手法や意識を根本的に見直す改革が不可欠だと痛感している。責任感を持って先頭に立って、新体制のもと誠実に、再生に向けた改革を徹底的に進める。公正であること、オープンであること、謙虚であること、そして誤りは自ら速やかに正す、そういう新聞社という評価をいただけるまで身体を張ってやり抜く覚悟。スピードを重視し、再生に向けた改革を行い、根底から朝日新聞を作り変える」と述べた。慰安婦報道、吉田調書報道については、それぞれ並行して検証を行っている「第三者委員会」、「報道と人権委員会」(PRC)の報告や提言を受け、年内を目処に再生計画をまとめ、改めて渡辺社長自身が会見を行い、社としての対応を明らかにするとした。
現在、「創業以来の危機に直面し、社員一人一人に意識の変化が生まれている」と言い、飯田新会長が委員長を務める「信頼回復と再生のための委員会」でも、中堅・若手が中心となって、読者との「車座集会」や社員同士の集会を行うなどをし、課題についての議論を重ねているという。
現状では、5つの具体策として、
1.社長自らが先頭に立って、社員が読者の意見を聞く「車座集会」を全国各地で開催する。
2.多様な意見を反映しこれまで以上に開かれたメディアを目指すため、双方向性を意識し、考え方の異なる主張も掲載するなど、言論の広場としての機能を強化する。
3.誤報を防止する仕組み、訂正報道のあり方を抜本的に改革、社外の意見も反映する。
4.社会の付託に応え、公正な報道に徹しつつ、萎縮せずにウォッチ・ドッグの役割を果たし、健全な批判精神を堅持する。
5.原発事故関連の資料を独自に入手し、政府に公開をせまったことについては一定の評価を得たことを踏まえ、調査報道をさらに強化する。
を挙げ、「一丸となって新生朝日を構築、信頼回復に向け、邁進する」「朝日新聞社は必ず変わります。私が社員の先頭にたって、必ず変えます。」と述べた。
また、販売部門の経験が長いという飯田氏は、「(読者や販売所、取引先からの)厳しい意見の一言一言が胸に突き刺さり、ただただ申し訳ない気持ちで一杯だ」と述べ、「報道のあり方はもちろん、お客様とのコミュニケーションのあり方や企業経営のあり方から弊社の企業風土に至るまで徹底して一から見直す」とした。
質疑応答
JAPAN TIMES:読者は海外にもたくさんおり、日本の勉強している欧米人や研究者にとって朝日の情報は大切な材料となっている。しかし慰安婦について、アメリカはじめ、海外にどういう説明していくのか。また、一部マスコミや政府の朝日バッシングによって言論の自由は大丈夫なのかという声もある。渡辺社長:丁寧に、繰り返し、私たちの立場なり考え方も含め、どういう議論が起きているのかも含め、記事を出して説明責任を果たしていきたい。
産経新聞:ご就任おめでとうございます。先日、元記者の植村隆さんの窓口は御社の広報が務めているが、産経の取材はお受けできませんとしたのに、ニューヨーク・タイムズのインタビューでは"自分がいじめられている"と言っている。この選別の違いは何か。"開かれた言論の窓口"というが、いささか疑問に感じる。
高田取締役:植村氏に関しては本人の意向で取材を受けるかどうかを決めている。私どもは取次のみで、意志決定は本人がされているということでご了解いただきたい。
産経新聞:ご家族のこともあるので、取材に押しかけるようなことはしないが、取次だけというのでは、あまり意味が無いのではないか。
高田取締役:これまで樺太裁判で証言されたことは本社も掲載したことがある。それにつきましては第三者委員会でも検証しているので、それを踏まえて、見解が出たあとでまとめて発表したい。
産経新聞:一連の報道が国益と報道の信頼性を損ねたということについて。吉田清治氏の著作がその後「クマラスワミ報告」にも引用されたことで、慰安婦が性奴隷として認識されており、対日批判の根拠にもなっているが、こうした影響について、今後どのように是正を図っていくのか。
渡辺社長:クマラスワミ報告には秦(郁彦)さんの研究成果も、吉田さんの3倍くらいのスペースで書かれていたと理解している。いずれにしても国際的な影響という大変な問題でもあるので、社内でということではなく、厳密を期して社外委員会の提言を待って、私どもの立場、これからどうしていくのかを説明させていただこうと思っている。
産経新聞:木村前社長の処遇について、一旦「特別顧問」だったのが「顧問」になった理由について。また、そもそも特別顧問と顧問は待遇などでどう違うのか。木村前社長は顧問就任辞退の理由について。
渡辺社長:私が社長の業務を執行する上で、それまでの業務の情報を把握する必要がある。その限りにおいて、従来代表取締役に就任していた方については「特別顧問」としていたので、それを委嘱する予定でした。
しかし、「特別」という言葉が、まさに「特別」という印象を与えてしまったようだ。そもそも経営に関与することは全く無いが、誤解を与えてしまったということで、制度を見直し、職務に応じて「特別顧問」「常勤顧問」と変えていたのを「顧問」に一本化した。
処遇については、基本的に社長の必要に応じて諮問する、業務に応じた処遇をするということになっている。
また、木村前社長は臨時取締役会で「この間のさまざまな指摘を真摯に受け止め、朝日新聞社の新体制がスムーズにスタートすることを願いまして、顧問就任を辞退させていただくことにしました」と説明をした。それを私も了承した。
フリー記者:新社長の渡辺さん、飯田さんの分担はどのようになっているのか。
吉田調書報道についてPRCの報告を読むと、記事ができるプロセスにいても非常に問題がある行為があったと認定されているようだが、結果として、担当記者の処分は減給なので、処分が甘いように思う。見解が事実だとすると、記者やデスクは辞表を出さないといけないような重大な誤りだと思う。PRCの見解と会社の見解が違うということか。
また、役員人事をみていると危機管理担当の方々が責任をとって辞めるというかたちになっているが、私が取材していると、木村前社長はK&Dコンサルティングという、自民党の戦略を担っていた人たちが独立して作った会社を熱心に使っていたようだが、今も使っているのか。
渡辺社長:私は代表取締役社長として前面に立ち、CEOとしてリーダーシップを発揮する。飯田会長は長年のビジネス分野で培われた識見や要職を歴任した豊かな経験を生かして私を支えてもらう。社長として、まずは再生に向けた取り組みを全力で行い、新聞協会などの業務は当面飯田会長に一部負担してもらう。
高田取締役:PRCの見解については本社として重く受けている。ただそれぞれの行為責任、管理責任を検討するにあたっては本社としておこなった調査を踏まえて、処分したもの。事実認定の調査についてはお答えを差し控える。
さらに、PRCから本社の危機管理体制につきましては強化の提言も頂いている。今後出る第三者委員会の提言も踏まえ、本社が社内組織として立ち上げている「信頼回復と再生委員会」で強化に向け、十分な体制をとっていくよう努力したい。
渡辺社長:社内の危機管理体制は、業務上、どんな体制でやっているか詳細は公表は差し控えさせていただきたい。
日本経済新聞:一連の問題を受けて、販売についていろいろ言われているが、飯田会長はどのようにご覧になっているのか。
飯田会長:読者のみなさまから大変厳しいご叱正を頂いているので、なかなか営業現場は厳しくなっている。それは承知をしている。
読売新聞:検証作業が続いているとはいえ、吉田調書や問題慰安婦の問題、池上さんの問題について、このようなことがどうして起きてしまったと考えているのか。
また、慰安婦報道が書かれ始めた頃から記事を読んでいると思うが、当時どういう風に見ていたのか。今年8月、「慰安婦問題を考える」として掲載された特集記事をどのような感想を持ったのか。
渡辺社長:吉田調書に関しては、先だってPRCからの厳しい提言を受け、関係者の処分を行ったところで、その指摘については真摯に受け止めて、変えていかなきゃいけないところは変えなければならないと思っている。
感想については、先ほど申し上げたとおり、第三者委員会に検証をお願いをしているところで、その提言を前に何かを申し上げるのはさし控えたい。提言が出たときにはしっかりとご説明をさせていただく。特集記事について、謝罪が無かった、長年放置したということについてたくさんの方から指摘があった。これについては、当時の取締役のひとりとして大変責任を感じている。
読売新聞:特別顧問というのはいなくなった、ということでいいのか。顧問は全部で何人いるのか。
渡辺社長:特別顧問はおりません。
高田取締役:顧問の数は、計5人。
読売新聞:木村社長は一連の問題の責任を取って辞任され、いろいろな意見を受けて、役職に就くことは適切でないと判断したのか。
渡辺社長:社長としてのこれまでの業務を把握し、情報を得る必要があるということで、"それならといい"ことで一旦動き始めたが、多分、様々な方たちから木村のもとにもご意見が届いていたと思うし、そうしたご指摘を受けて、「朝日新聞の新体制がスムースにスタートすることを願って」という説明をしている。
毎日新聞:前社長の木村さんは辞任にあたって説明の機会がなかった。それについて、新社長としては辞任会見の機会は必要だったと思うか。 そういうものは不要であると思うのであれば、その理由は。
慰安婦報道問題、池上さんのコラム、そういった問題がまだ決着がついていない段階で体制を一新したわけだが、一新するにあたって引きずったまま、中途半端な体制一新ではないかという見方もあるが。
誤報を防止し、チェックを強化するということは昨日の紙面でも触れられているが、具体的にどういうことを行っていくのか。それに関連して、輪読会を行うと書いてあったが、色々な部門が記事をチェックするということによって、調査報道が萎縮してしまうような心配はないのか。慎重を期してやめとこう、ということが起こりえないのか。
渡辺社長:会見しなかったことについては、慰安婦報道や池上コラム見送り、吉田調書など、一連の報道について、9月11日の記者会見で、「私の経営トップとしての責任は逃れられない、最終責任は負う」と表明し、その時に「再生に向けた見通しが立った段階で出処進退を明らかにする」とした。11月14日には辞任のコメントを発表して、経緯についても説明をしたので、会見で責任について述べ、コメントも発表したということでご理解を頂きたい。
また、決着がついていない中での体制一新については第三者委員会の提言が一応年内に何とか出していたただける見通しがたってきた。再生に向け、木村社長の時にお願いをしたが、私たちがしっかりとこれを受け止めて誠実に実行していく。すぐに動ける形で受け取って、私の責任でやっていく、そういう判断をした。
調査報道は極めて難しい報道だと思うし、だからこそチェックは十全にしなければならない。当然その機能はあったが、それが上手く働かなかったということで今回問題が起きた。どうしてそこが働かなくなったのかを社内で懸命に点検している。 それをどういう形で補えるのか、今検討している。これについては再生プランの中でも申し上げる機会があると思うし、年内にまとめたいと思っているが、出して終わるというものではなく、これからスタートしていくので、同業他社の皆さんがどういうかたちでやっているかを勉強させていただきながらやっていきたい。
世界日報:吉田清治氏の記事16本の取り消しはすでに朝日新聞の責任で削除している。その際には、朝日新聞社としての取り消しの基準があったと思う。それ以外については、先ほどのお答えでは今後第三者委員会の報告を聞いてということだが、これはおかしいと思う。16本以外については事実だと評価したから削除しなかったのではないか。
高田取締役:第三者委員会の詳細な検討を待っている段階ですので、それを踏まえて…
世界日報:削除した基準を聞いてるんですけど。
高田取締役:今回取り消したのは済州島における従軍慰安婦に関する吉田証言についてで、それ以外についても、幅広く第三者委員会での検証を行っているので、それを踏まえてからとしたい。
中日新聞:渡辺社長の経歴は。一連の問題が起きたときに、どのような関わり方をしていたのか。当時どう思われたのかということは、検証進んでる中だとはいえ、こういう会見の場なので、少しはお聞かせ願えないのか。
渡辺社長:1982年の入社で、それから鳥取、京都、広島を担当したあと、大阪社会部で仕事をするようになった。時代で言えば昭和から平成に変わる頃。広島時代は平和や被爆者を取材したが、そういう問題が起きていた90年代は主に事件の持ち場が長かったので、触れることがなかった。
中日新聞:編集局長をやられていた当時は。吉田調書の時期は何をされていたのか。
渡辺社長:すでに東京の管理担当として仕事をしていました。編集局長は2010年ごろです。
共同通信:読者からの意見、いろいろあったと思うが、読者からの批判が高まったのにはどんな原因があると思うか。経済的な影響は。発行部数どれくらい影響が出ているのか。
飯田会長:池上さんのコラムの掲載を見送ったことについては、あのコラムは大変多くの読者の方が楽しみにしていたので、大変厳しいご意見をいただいた。早く再開して欲しいという声が届いている。
一連の問題については社長が申し上げたとおりだが、一言付け加えるとすれば、紙面づくりが社会にどう受け止められるかという姿勢が十分でなかったのではないかと思っている。
部数等々だが、この一連の問題が起きる前、部数は720数万。10月は702万ほどなので、20万強の影響だが、これはこの問題だけの影響ではないので、そのうちのどのくらいが影響しているかということは、私どものほうで詳細に検証するのは難しいかなと思っている。
産経新聞:吉田調書の記事を書いた少人数の記者と上司に、なんらかの意図があった可能性には触れられていない。普通に読むと、どう考えてもああいう報道にはならないので、何らかの意図や偏りがあったのではないか。
今回改革をするとういことだが、その"意図"をえぐらない限り、また同じことが起きるのではないかという危惧や懸念がある。
高田取締役:本社としては、記者が意図的に捏造したというような事実は無かったと考えている。意図して話を作ったわけではないと判断した理由は、吉田所長が伝言ゲームについて述べた部分なども朝日新聞デジタルの特集には掲載されていた。加えて原稿が作られていく課程を詳細に検証した結果、意図的に捏造したものではないと判断している。
読売新聞:特別報道部について、今後組織改編で形を変えるとか、無くすといった考えがあるのか。
高田取締役:PRCの委員会の提言、これから出てくる第三者委員会の提言を受け、社内組織て押して、信頼回復と再生のための委員会で本格的にまとめる方向だ。指摘された調査報道の見直しも、大きなテーマになっている。特別報道部に付きましても色々な角度で検証し、調査報道を強化する方向で議論をしていきたいと考えている。
読売新聞:慰安婦報道について発端となったのは大阪社会部。当時渡辺社長は記事になんらかの形で関わっていなかったか。
渡辺社長:そのころは社会部にいなかったので、関わっていない。
大阪スポーツ:会見は大阪でやった理由は。誤報をしないために、根本的な対策は何をすればいいと考えているか。
高田取締役:当社は登記上の本社が大阪にあるため、毎年例年の定時総会は大阪で開催している。本日の臨時株主総会も大阪で開催され、新体制が発足し、記者会見を速やかに行い渡辺・飯田両トップの初心を申し上げたいと考え、大阪で開催した。
渡辺社長:誤報というのは、本人がどれほど気をつけていても、人のやることである以上、可能性がある。思い込み等々があって記事の中身に誤りがあったとしても、それを防ぐシステムとして様々なものをメディアは持っている。その機能が、校閲とか編集部門を含め、誰でもが"おかしいんじゃないか"と言える空気、そういうもののなかでどこが欠けていたのかを懸命に見直す作業を進めている。
間違える可能性があるということを前提にして、もし間違えた時には速やかに訂正する、どうして間違えたのか、どういう部分が間違えたのか、きちんと読者の皆さんにわかりやすいかたちでお示しする、訂正報道を研究していく必要性があるのではないか。
関連リンク
・朝日新聞社 新社長・新会長による記者会見 - ニコニコ生放送・吉田調書「命令違反で撤退」の表現を取り消し/慰安婦報道検証で第三者委員会立ち上げ~朝日新聞社が会見 - 9月12日