※この記事は2014年11月23日にBLOGOSで公開されたものです

 11月14日に、日本テレビ系列で放送された「金曜ロードショー シャーロック」において、左上に表示されるテロップやCM開けの解説や人物紹介などが、邪魔であるということが、ネット上で話題になっていた。

 スクリーンショットなどを見ると、確かに左上に「黒幕はモリアーティ教授」などと表示されており、シャーロック・ホームズシリーズの関連作品を一度でも見た人であれば「そりゃそうだろ」とちょっと笑ってしまうような内容だ。

 特に気にして見ていたわけではないが、最近の金曜ロードショーで、映画中にテロップを入れたり、あらすじを流したり、登場人物を紹介するなど、そうした手法が行われていたのは、幾度か目にしていた。今回はどうもそれがあまりに目につきすぎたらしい。

 確かに映画が好きな人からすれば、あらすじも人物紹介も、最初から見ていればわかることであり、わざわざテロップなどで紹介されても、うざったいだけだろう。

 一方で、たまたま他のチャンネルから移動してきた人たちにとっては、あらすじや人物紹介があったほうがいいだろう。少なくとも、金曜ロードショーで重視しているのは、最初から映画を見てくれる、映画好きではなく、他のチャンネルからたまたま番組を見てくれるような、その他の視聴者ということになる。

 で、結論から先に言ってしまうと、僕はこの手法はありだと考える。テレビ番組は視聴率を得ることが目的であり、そのためには途中から流れてきた視聴者を的確に捕まえる仕掛けが必要である。その仕掛けが今まで映画番組にほとんどなかった事のほうが、僕としては不思議に思う。

 もともと、テレビというメディアは、映画と相性が悪い。テレビでは、あらかじめ決まった時間に押しこむために映画はズタズタに編集される。そして何よりも事あるごとにCMが入ってくるのは興ざめでしかない。しかし、それでもみんながテレビで映画を見ていたのは、かつては、新作上映が終わった映画を手軽に見る手段は、名画座でかかるのを待つか、テレビ以外になかったからだ。

 ところが、ビデオデッキが普及し、レンタルが開始され、過当競争によりレンタル料金が1回390円。更に時代が進んで100円という時代になると、映画好きはテレビ放送を待つよりはレンタルで楽しむようになった。さらにメディアがDVDになると、新作作品ですら4000円弱。古い映画であれば500円程度で買えるようになった。

 現在ではインターネットを通したオンデマンド配信により、映画を見たいときにいつでも見られる体制が整っているのだから、映画好きがわざわざテレビ放送の映画を見る必要などないのである。

 では現在、テレビで放送される映画を楽しんでいる人はいないのか?

 そんなことはない。一番わかりやすい例は、金曜ロードショーで毎年のように放送されてはツイッターのTimelineをにぎわす「天空の城 ラピュタ」だ。

 金曜ロードショーで放送されるジブリアニメは常に話題になるが、特に人気が高いのがこの作品である。作品の終盤。ムスカ大佐に追い詰められたシータとパズーは、最終的にラピュタを崩壊させることを選択する。その滅びの呪文「バルス」が唱えられるとき、ツイッターなどでは一斉に「バルス」とつぶやかれる。

 その数はなんと1秒で143,199ツイート。この数はツイッター社がわざわざ専用に集計した数値で、それまでツイッター上で最高だった2013年の「あけおめ」のツイート数を大きく上回る数字だったという。(*1)

 こうした「番組の外での盛り上がり」を見れば、番組側としては当然、その盛り上がりを番組の中に直接反映させるようにしたいであろう。

 ひょっとしたら、次のラピュタ放送時には、バルスまでのカウントダウンが番組内に表示されるかもしれない。また、ツイッター社と協力することにより、番組上でリアルタイムでツイート数を放送することがあるかもしれない。そうすれば、また金曜ロードショーは注目されるだろう。

 そうした放送を映画ファンは喜ばないかもしれないが、先程も示したとおり、テレビ局が欲しがっているのは数少ない良識的な映画ファンではなく、ぶつ切れの放送でも素直に楽しんでくれる、大勢のニワカファンなのだ。ニワカであっても、数が集まればそれは大きな話題となり、お客様であるスポンサーに喜んでもらえる結果となる。それによって、金曜ロードショーという映画枠が守られ、テレビは映画ファンを生み出す下地として、今後も映画を放送し続けることができるのである。

 考えてみれば、こうしたテロップはスポーツ中継では当たり前のこととなっている。野球場では実況中継の声は聞こえないけれども、テレビの野球中継に実況音声が入ることを誰も疑問に思わない。

 また、ニュースなどでも、テロップはもちろん、最近はツイッターのハッシュタグを利用した、間接的な番組への視聴者参加を促す番組が出てきている。

 そうした流れの中で、映画だけが工夫なく、テレビ用に細かくぶつ切りにされた作品を流す。それが果たしてテレビで放送される映画の有り様として、正しいと言えるのだろうか?

 テレビ放送の一番の強みは、電波を用いた一斉放送により、多くの人が同じ作品に同時に触れることができるという部分である。

 ビデオリサーチ社によると、関東地区の視聴率は1%あたり約40万人と推定できるという。(*2)

 仮にその映画の視聴率が関東地区で10%だとすれば、実に400万人が同時にその映画を見ていたと言えるのである。これはテレビ以外のメディアでは達成しようがない数値と言えよう。

 もちろん、今の金曜ロードショーの方式が完璧などと言うつもりはないが、少なくともこの特性を利用し、多くの人の共通体験を喚起するような手法であれば、最初は批判されながらも、徐々に「テレビの映画はそういうもの」として受け入れられていくのではないだろうか。

 個人的には、副音声で監督や主演役者などのオーディオコメンタリーとかやって欲しいんですけどね。

*1:“バルス祭り”その時Twitterの中の人たちは──日本と米本社をまたいだ舞台裏(ITmedia ニュース)
*2:視聴率からの視聴世帯・人数の推定(ビデオリサーチ)