※この記事は2014年11月18日にBLOGOSで公開されたものです

18日、有識者に来年の増税の是非についてヒアリングする「今後の経済財政動向等についての点検会合」が5回にわたる日程を終えた。すでに7月~9月のGDP速報値が発表され、2期連続のマイナスとなったことがわかり、増税先送り・解散総選挙が報じられる中での会合となっていた。全体としては賛成派が延期・反対派を上回る結果となっている。

これらの結果を受け、安倍総理は19時10分から官邸で会見を開いた。

冒頭発言

本年4月より、8%の消費税を国民の皆さまにご負担頂いております。
5%から8%へ、3%増の引き上げを決断したあの時から、10%へのさらなる引き上げを来年予定通り10月に行うべきかどうか、私はずっと考えてまいりました。
消費税の引き上げは、わが国の世界に誇るべき社会保障制度を次世代に引き渡し、そして子育て支援を充実させていくために必要です。

だからこそ、民主党政権時代、私たちは野党ではありましたが、税制改革法案に賛成いたしました。しかし、消費税を引き上げることによって景気が腰折れしてしまえば、国民生活に大きな負担をかけることになります。そして、その結果、税率を上げても税収が増えないというとことになっては元も子もありません。

経済は生き物です。昨日7月、8月、9月のGDP速報が発表されました。残念ながら、成長軌道には戻っていません。消費税を引き上げるべきかどうか、40名を超える有識者の皆さんからご意見を伺いました。そして私の経済政策のブレーンの皆さんからもご意見を伺い、何度も議論を重ねてまいりました。

そうしたことを総合的に勘案し、デフレから脱却し、経済を成長させるアべノミクスの成功を確かなものとするため、本日、私は消費税10%への引き上げを法定通り来年10月には行わず、18ヶ月延期すべきとの結論に至りました。

しかしここで皆さんに申し上げておきたい事は、3本の矢の経済政策は確実に成果を上げつつあります。経済政策において最も重要な指標は、いかなる国においても雇用であり賃金です。政権発足以来、雇用は100万人以上増えました。今や有効求人倍率は22年ぶりの高水準です。この春、平均2%以上、給料がアップしました。過去15年間で最高です。
企業の収益が増え、雇用が拡大し、賃金が上昇し、そして消費が拡大していく。そして景気が回復していくという、経済の好循環がまさに生まれようとしています。

ですから私は何よりも個人消費の動向を注視してまいりました。昨日発表された7月から9月のGDP速報によれば、個人消費は4月から6月に比べ、1年前と比べ2%以上減少しました。現時点では3%分の消費税引き上げが、個人消費を押し下げる大きな重しとなっています。
本年4月の消費税率3%引き上げに続き、来年10月から2%引き上げることは、個人消費を再び押し下げ、デフレ脱却も危うくなると判断しました。

9月から政労使会議を再開しました。昨年この会議を初めて開催し、政府が成長戦略を力強く実施するなかにあって、経済界も賃上げへと踏み込んでくれました。ものづくりを復活させ、中小企業が元気にし、女性が働きやすい環境をつくる、成長戦略を力強く実施することにより、来年の春、再来年の春、さらに翌年の年の春も所得が確実に上がっていく状況を作り上げてまいります。

国民全体の所得をしっかりと押し上げ、地方経済にも景気回復の効果を十分に波及させていく、そうすれば消費税率引き上げに向けた環境が整えることができると考えますす。そのためにも、個人消費のテコ入れと、地方経済を底上げする、力強い経済対策を実施します。次期通常国会に、必要となる補正予算を提出してまいります。

財政再建についてお話いたします。 社会保障税一体改革法では、経済状況をみて引き上げの是非を判断するとされています、今回、この景気判断条項に基づいて延期の判断をしました。しかし税制再建の旗を降ろすことは決してありません。国際社会において、わが国への信頼を確保しなければなりません。そして社会保障を次世代に引き継いでいく責任を果たしてまいります。安倍内閣のこうした立場は一切揺らぐことはありません。 来年10月の引き上げを18ヶ月延長し、そして18ヶ月後、さらに延期するのではないか、といった声があります。
"再び延期することはない"、ここで皆さんにはっきりと、そう断言いたします。平成29年4月の引き上げについては景気判断条項を付すこと無く、確実に実施いたします。3本の矢を確実に前に進めることにより、必ずやその状況を作り出すことができる、私はそう決意しています。

2020年度の財政健全化目標についてもしっかりと堅持して、来年夏までに達成に向けた具体的案計画を策定いたします。経済成長と財政再建、このふたつを同時に実現していく、そのための結論が本日の決断であります。

ただ今申し上げた内容を実現するために、来年度予算の編成にあたるととともに、関連法案の準備を進め、来年の通常国会に提出いたします。

このように、国民生活にとって、そして国民経済にとって、重い重い決断をする以上、速やかに国民に信を問うべきである、そう決心いたしました。今週、21日に衆議院を解散いたします。消費税の引き上げを18ヶ月延期すべきであるということ、そして、平成29年4月には確実に10%へ消費税を引き上げるということについて、そして、私たちが進めてきた経済政策、成長戦略をさらに前に進めていくべきかどうかについて、国民のみなさまの判断を仰ぎたいと思います。

なぜ、今週の解散か。説明いたします。
国民の皆さまの判断を仰いだ上で、来年度予算に遅滞をもたらさないギリギリのタイミングであるからと考えたからであります。 現在、衆議院において、私たち連立与党、自民党公明党は、多くの議席を頂いております。本当にありたいことであります。選挙をしても議席を減らすだけだ、何を考えているんだ、という考えがあることも承知をしています。戦いとなれば厳しい選挙となることはもとより覚悟の上であります。

しかし税制は国民生活に密接に関わっています。
「代表なくして課税なし」、アメリカ独立戦争の大義です。国民生活に大きな影響を与える税制において重大な決断をした以上、また、私たちが進めている経済政策も賛否両論あります。そして抵抗もあるその成長戦略を国民の皆さまと進めていくためには、どうしても国民の皆さまの声を聞かなければならないと判断いたしました。

「信なくば立たず」。国民の信頼と協力なくして、政治は成り立ちません。

今、アベノミクスに対して、失敗した、上手く行っていない、というご批判があります。しかし、ではどうすればよいのか、具体的なアイデアを、残念ながら私は一度も聞いたことがありません。批判のための批判を繰り返し、立ち止まっている余裕は今の日本には無いんです。

私たちが進めている経済政策が間違っているのか、正しいのか、本当に他に選択肢があるのかどうか、この選挙戦の論戦を通じて明らかにしてまいります。そして国民の皆様の声を伺いたいと思います。

思い返せば、政権が発足した当初、大胆な経済政策には反対論ばかりでした。法人税減税を含む成長戦略にも、さまざまなご批判をいただきまし。しかし、強い経済を取り戻せ、それこそが2年前の総選挙、私たちに与えられた使命であり、国民の声である。そう信じ、政策を前へ前へ進めて参りました。岩盤規制にも挑戦してまいりました。

あれから2年。雇用は改善し、賃金は上がり初めて来ました。ようやく動き始めた経済の好循環、この流れを止めてはなりません。
15年間苦しんできたデフレから脱却する、そのチャンスを皆さんようやく掴んだんです。このチャンスを手放すわけにはいきません。あの暗い、混迷した時代に再び戻るわけにはいきません。

デフレから脱却し経済を成長させ、国民生活を豊かにするためには、たとえ困難な道であろうとも、この道しかありません。景気回復、この道しかないんです。

国民の皆さまのご理解をいただき、私はしっかりと、この道を前に進んでいく決意です。 私から申し上げたいことは以上でございます。

質疑応答

―消費税の引き上げを先送りした場合、財政再建に対する日本の取り組みに疑問符がつき、マイホームローンなど、国民生活に影響が及ぶ恐れはないのか?

また、与党の現有議席を考えると、議席が減るのではないかという声が与党内にもある。勝敗ラインついては、どのように考えているか? (NHK)


財政再建の旗を降ろすことは決してありません。そして、平成29年4月に確実に消費税を10%へと引き上げてまいります。そして、2020年度の財政健全化目標も堅持してまいります。そのことによって国際的な信認の問題は発生しないと確信しております。

経済の再生なくして、財政健全化は出来ません。デフレ脱却なくして、財政健全化は夢に終わってしまいます。だからこそ、断固としてデフレ脱却に向けて進んでいくべきなんです。私は充分に国際的な理解を得られると考えています。

前回の総選挙において、自公あわせてたくさんの議席をいただいたこと、本当に感謝いたしております。しかし、税制こそ議会制民主主義と言ってもいいと思います。その税制において、大きな変更を行う以上、国民に信を問うべきであると考えました。

そして、その上で自民党、公明党連立与党によって過半数を維持できなければ、私たちの三本の矢の経済政策、アベノミクスを進めていくことはできません。過半数を得られなければ、アベノミクスが否定されたということになるわけでありますから、私は退陣いたします。

―解散については、与野党、国民からも「大義がない」という声があがっております。7‐9月のGDPが悪かったこともあり、景気条項にのっとって増税を先送りすれば、解散をする必要はないのではないか。(西日本新聞)

まず申し上げておきたいことは、何故2年前民主党が大敗したのか。それはマニフェストに書いていない消費税引き上げを国民の信を問うことなく行ったからであります。平成24年1月、我が党の総裁であった谷垣総裁の代表質問を覚えておられるでしょうか?「税こそ民主主義である」。まさに、民主主義、議会制民主主義というのは、税と共に歩んできたのです。その税において、公約に書いていないことを行うべきではない。我々は解散総選挙を要求しました。

私たちは先の総選挙において、三党合意に従って3%、そして2%。5%から10%へと引き上げるということをお約束してまいりました。18ヶ月間の延期、さらには29年4月には景気条項をはずして確実に上げる。これは重大な変更です。そうした変更については、国民の信を問う。当然ことであり、私は民主主義の王道といってもいいと思います。

そして、まさに3年後、消費税を3%引き上げていくというお約束を新たにいたしまして、その状況を作っていくためには、3本の矢を成長戦略をしっかりと推し進め、景気をしっかりと回復させ、賃金を上昇させていかなければいけません。こうした政策を進めていくためにも、国民の皆様の理解が必要です。国民の皆様のご協力なくして、こうした成長戦略のような困難な政策は前に進みません。

だからこそ、私は税制において、そしてこの成長戦略を進めていく上において、解散総選挙をする必要がある。国民の皆様の声を聞き、国民の皆様と共に進んでいきたい。そのことによって確実に3年後に私たちは消費税引き上げの状況をつくりだすことができると考えたわけであります。

―低所得者対策については、どう考えるのか?公明党からは軽減税率が提案されているが、それは29年度の引き上げ時に導入するのか?その際の品目は?(読売新聞)

軽減税率導入に向けて、自民党、公明党両党間でしっかりと検討させていきたいと思います。両党には、税の専門家がいます。この間において、両党間でしっかりと検討していくことになります。

―今総理は、会見の中で18ヶ月先送りすることにした消費税について必ずあげるということをおっしゃいましたが、個人消費などについて現状苦しいという指標もある中、この約束をどのようにして、選挙で問う場合に国民として信頼する、政権としては経済政策も含めて、これを信じるに足るということは政権として、今後何が掲げられるのでしょうか?(フジテレビ)

一昨年の12月に安倍政権は発足をいたしました。発足後、直ちにマイナス成長からプラス成長に転じました。

これはまさに私たちが進めている経済政策の成果であると思います。そして、今年消費税率を引き上げました。しかし、先程申し上げました通り、前年ながら、この消費税率の引き上げが個人消費を押し下げていくことになってしまった。

ですから私たちは、しっかりと三本の矢の政策を進め、来年、再来年、そしてそのまた翌年、賃金が確実に上がっていく。名目所得があがり、そして実質賃金も上がっていく状況をつくっていくことによって、そういう経済を作っていきたい。私は経済を作っていくことができると考えております。

有効求人倍率は22年ぶりの高水準ですし、そして本年4月には15年で最高の賃上げ率になって、そしてまた例えば倒産件数においても24年ぶりの低水準になってますね。また、高卒、大卒内定率も上がっています。特に高卒の皆さんにおいては顕著に上がっているんです。間違いなく私たちの進めている政策は成功しています。

ただ、消費税率引き上げによって押し下げられた個人消費、そこにおいて、まだ2年連続で上げていくには、デフレ脱却が危うくなると判断したところでありますが、3年間あれば、そしてこの選挙において、しっかりと信任を得て、3本の矢の政策をちゃんと前に進め行けば、必ず約束を果たすことが出来ると確信しています。

―今回は、消費税引き上げやアベノミクスの成否が問われることになるが、安倍政権は、経済政策以外にもエネルギーや安全保障など様々な課題を抱えている。今回の選挙結果を成長戦略だけでなく、原発再稼動や集団的自衛権の関連法案の信任と捉えるのか。(ウォール・ストリート・ジャーナル)

自民党は、消費税もそうでありますが、常に選挙において、逃げることなく、しっかりと国民の皆様にお示しをしています。ですから、当然エネルギー政策、原発政策、あるいは安全保障政策についても党の公約にきっちりと書き込んで、この選挙戦、堂々と戦っていきたい。有意義な論戦を行っていきたいと思っております。

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