「安倍政権は約束違反」「中間層の解体なのか、復活させるのかが問われる選挙になる」ーあの解散から2年、野田前総理が講演 - BLOGOS編集部
※この記事は2014年11月15日にBLOGOSで公開されたものです
安倍総理が外遊から帰国する週明けにも衆議院の解散、そして来月には総選挙が行われるのではないかと取り沙汰される中、11月14日、野田佳彦前総理大臣が都内で講演を行った。この日は、2012年、当時の野田総理が「十六日に解散をします。やりましょう、だから。」と述べ、安倍総理が「約束ですね、よろしいんですね。」と応え、衆院解散・総選挙のきっかけとなった党首討論からちょうど2年に当たる。講演では、自身の政権時代を振り返りながら、「社会保障と税の一体改革」を中心に、現政権を厳しく批判した。本稿では、その部分についてお届けする。
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安倍政権、重大な約束違反
ちょうど2年前の2012年11月14日、党首討論がございました。私が内閣総理大臣・民主党代表として、そして当時の自民党総裁の安倍さんと討論を行っている中で、長い間懸案であった定数削減を実現させようと、そのテーマを中心に討論を行いました。社会保障と税の一体改革のため、国民の皆さんに負担をお願いする以上、まずは自らが身を切る覚悟を示すべきである、という考えのもと定数削減の努力してきましたが、なかなか結果がでない。結果を出すには党首同士で合意をする、与党の我々と当時野党第一党だった自民党が同意をし、周りを説得することによって実現できる、こういう思いのもとで討論をさせていただきました。
ご記憶だと思いますけれど、定数削減の約束をしました。「やりましょう」と言いました。それを受けて、私は解散をするという約束を果たしました。11月14日に討論を行い、16日に解散をいたしました。それから2年が経ちます。来週、解散をするということです。しかし定数削減は実現していません。重大な約束違反だと私は思います。
公党の党首同士がテレビの前で、国民の前で約束をしました。それは、次の年の通常国家が終わるまで、今年の4月1日に消費税を引き上げるまでには定数削減をするということです。
これは口約束ではなくて、覚書も交わしているのです。伊吹議長のもとで諮問機関をつくり、第三者機関のみなさんにお考えを頂戴し、それを踏まえて選挙制度の改革含め、選挙定数削減を実現するはずでした。にも関わらず、残念ながら今日に至り、急がせることもなく、何のリーダーシップを発揮することもなく、見事に約束違反をする。極めて残念です。強い憤りを覚えています。
道徳教育を推進することに、安倍さんは熱心です。政治的同意を果たせない人が、道徳を語る資格はありません。
中間層の解体なのか、復活させるのかが問われる選挙になる
内閣総理大臣の解散権は、専権事項ですから、解散すると言われたら、私は受けて立ちます。堂々と戦います。それしかありません。それしかありませんけれども、腑に落ちないんですよ。争点がなんで消費税になるんですか。
言われている話ですから間違いないと思いますけれども、来週帰国をされて、消費税引き上げを先送りする決断をすると。先送りするということは、景気が悪い、ということですよね。
景気が悪いから消費税の再増税を延期させてくださいということを、国民に信を問う。どういう意味なんでしょうか。そのロジックが私にはわかりません。
三党合意と違うことをやり始める。三党合意から逸脱をする。新しい方針だから国民に信を問う、ということを言いたいんでしょうか。
だけど、国民はみんな誰だってもともと税金を上げてほしくないと思っていますから、政府に「景気が悪いから、今は心配だから消費税先延ばしていいですか」って言われたら、それはそうだねって言うに決まってるじゃないですか。「それはそうだね」という世論を追い風にして選挙しようというんですから、究極のポピュリズムじゃありませんか。そんな政治やっていいんでしょうか。
私は、三党合意は遵守すべきだと思っている立場です。だけど、あの三党合意に入っている法律にも、附則に景気条項があって、経済が好転できない状況ならば、延期したりできることになっているんですね。
政府は景気が悪いと思っている。そう言うんだったら、増税しろなんて野党だって言いませんよ。言うわけないじゃないですか。景気が悪いのに増税しろって誰が言います?それがなんで争点ですか。与党と野党の差って出るんですかそれ。争点じゃないですよね、それは。
三党合意の責任ある立場だった谷垣さん、公明党の山口さんは本当に国益を考えて、お互いに重たい責任を負っていただいた、まさに同志だと思っています。だって誰だって増税することなんてあまり望んでいませんから。望んでいないけれども、社会保障のため、それぞれ各党にいろんな意見があるけれども、それらを押さえて、責任を共有しあおうという、同志だったと思っています。
その同志である谷垣さんは今、自民党の幹事長です。公明党の山口さんは依然として代表です。そのお二人が再増税の延期を認めるということは、よほど景気が悪いのだと、私も思うしかありません。普通だったら、何の根拠もなしに再増税の引き上げを諦めるというなら、彼らは羽交い絞めするくらいの迫力で政治行動をやってくれると信じていました。
それもないと言うことは、本当に景気が悪いと思うしかないじゃないですか。その時になんで与党と野党の違いが出るんですか。出るわけないじゃないですか。
しかもこの臨時国会で、いろいろな法案出ていましたね。地方創生、女性が輝くとか、重要法案が。なんのため臨時国会だったんですか。重要法案だと言っていたのが、通りませんよ。解散すれば。確かにまあ女性は輝きました。閣僚がカメラのフラッシュで。二人辞任しましたよね。
そんなこと勘ぐりたくないですけど、11月下旬に直近の政治資金報告書が公表されるんですよね。また出る、という恐れを感じたんでしょうか。何かひどい内容があるんじゃないですか?
そうすると、第一次安倍政権のように、ドミノで閣僚が辞めていく。それでは持たないと思った…という、これは下衆の勘ぐりでしょうか。でも勘ぐりたくなりますよ。
だって、収支報告書が出ても、国会が閉じていれば追及の場面が無いんです。今日はメディアのみなさんもいらっしゃいますけど、特定の誰かの疑惑選挙妨害になりますから取り上げられません。だとすると、その後にリセットをするための解散なのかなと、と思わざるをえない。これはあくまで勘ぐりです。
勘ぐりではなくて、本質は何なのか。なぜ解散をするのか、そしてその争点は何なのか。それは消費税ではなくて、アベノミクスの失敗だと私は思います。景気が悪いから先送りするんでしょう?じゃあアベノミクスは失敗じゃないですか。「失敗している政策をやってもいいですか」と問う選挙ですよ。我々はそれに対しては断じて"NO"と言うしかありません。
確かに今年を振り返ってみると、1月~3月は消費税を引き上げる前の駆け込み需要です。4月~6月は反動減。今度7月~9月の速報値が出ます。天候などがあったから芳しくないと思いますが、その反動減が長引いていて、景気回復が遅れている、という判断をしたいんだと思います。
違うと思います。私は全てを消費増税の責任にすべきではないと思います。
それは、アベノミクスの本質を見誤ると思います。なぜなら、去年の10月~12月期の実質GDPはマイナスだったんですよ。
アベノミクスが本格的に始まったのは去年の4月、1発目の"黒田バズーカ砲"からだったではありませんか。
1発目をやって、そして消費活動が一番活発になってくる時期に実質GDPマイナスだったんじゃないですか。それは消費増税のせいでもなんでもないですよ、むしろその後の駆け込み需要でその話が消えちゃったんじゃないですか。
アベノミクスで株価が上がっていますし、円安にもなっていますけれども、全然実体経済に好影響・好循環を及ぼしていない、そこに最大限の原因があると思っています。
アベノミクス。安倍、横文字にするとABEですね。"Asset Bubble Economy"ですよね。最初こう指摘した時は、みんなに冷ややかに言われてました。「せっかく株価が上がってきているときに水を指すな」と。
今、この話をすると聞いてくれる人が増えるようになりました。ずいぶんと変わったなと思います。
一本目の矢、金融緩和。それは金融政策も大事だと思います。だけど、今度二発目のバズーカ砲も撃ちましたね。本当に出口があるんでしょうかね。アメリカはもう出口が見えてきた。日本は殿になりますね。
面白い局面になってきたからと、世界中の投資家が日本に注目し、いっぱい買ってますね。面白いかもしれないけれど、本当にこのやり方がいいのかどうか。
債券市場の中心は事実上日銀じゃないですか。今度は株式市場の中心がGPIFですか。これでは官製市場じゃないですか。こういうやり方がいつまでも通用するのでしょうか。極めて疑問です。
円安にはなりましたけれども、輸入物価が騰がって苦しい立場の人も増えています。原油がむしろ安くなる傾向にあったから、まだ悲鳴の声もギリギリ収まっている。通常の原油価格だったら大変だったと思います。
そういうことも含めて、一本目の金融緩和、出口がないんじゃないか。
みんなが喝采をしてるのは、これは体操で言うとE難度F難度のことを日本がやっているからです。それはみんな注目しますよ。問題は着地できるかですからね。着地して転ぶのは国民ですから、非常に博打性を感じますね。
二本目の矢。機動的財政出動ですね。
要は1990年から2009円まで200兆円の公共投資をやったんです。借金を430兆も作ってやりました。効果が無かったじゃないですか。にも関わらず、補正予算を組むたびに公共事業増やす。入札不調が続き人手不足が言われている。これも効果ないと思います。
アベノミクスにとって一番大事なのは、三本目の成長戦略のはずなんです。本当はこれに尽きると思うんです。そして成長戦略に基づいて、実体経済が良くなったときにマーケットがきちっと動くということ。経済の実勢を表すのがマーケットですから、そう持っていくようにするのが正しい経済政策だと思います。
ただし、残念ながら、成長戦略の大きな柱は法人税減税ですよね。これに期待している方もいらっしゃると思います。でも、私は違うんです。法人税減税にそんなに効果があるとは思えません。今、7割が(法人税を払わない)欠損企業で、残り3割の黒字企業が若干の減税になって、今と何か変わるんでしょうか。代替財源を何にするかによっては、むしろ景気が冷え込む可能性も大きいのではないかと思います。
そもそも、日本は今、シンガポールのような財政健全な国との国際競争力を確保するために減税競争をするような立ち位置なんでしょうか。違うと思います。
しかも何より、消費税を上げるか上げないかという議論をしてる時に法人税を下げるというのは、国民にはわかりにくい。
政府の算盤勘定では帳尻があるのかも知れません。政府の算盤勘定ではなく、国民感情としては、国民負担を増やしたら、社会保障の安定、充実じゃないの?法人優遇なの?って思っちゃうじゃないですか。
だから消費税反対の意見が未だに多いのは、時間軸を作って順番に政策を作るという感覚が失せているからなのではないか、という心配があるんです。私はアベノミクスというのは違うと思うんです。
今度の選挙は、消費税を引き上げるということが争点なのではなくて、上げる環境を作れなかったアベノミクスの失敗こそが、争点になると思うんです。
アベノミクスも小泉政権もそうですけれども、自民党は「トリクルダウン」という考え方だと思います。大きな法人が元気になれば、豊かな人がもっと豊かになれば、いずれ中小企業にも地方にも、あるいは働いている人達にも段々とおすそ分けが届いていきます、という考え方ですね。でも、この考え方が成功した試しはないと思います。
小泉政権のとき、右肩あがりの成長を遂げて、企業の収益も右肩上がりが増えたけれど、国民生活が豊かになったとは思えません。給料は右肩下がりでしたから。今も同じことが起きています。実質賃金は14ヶ月連続でマイナスですね。株がどんどん上がったことが報道されているけれど、「私の所は豊かにならないな」と思っている人がいっぱい居ます。
トリクルダウンではだめだ、むしろ格差是正を行って分厚い中間層を復活させるという路線。
中間層の解体なのか、復活させるのかが問われる選挙になるのではないかと思います。
私たちは、法人が元気になれば、豊かな人がより豊かになれば、という考え方ではなくて、子ども手当も、高校授業料の無償化も、農家の戸別所得補償もそうでしたけど、直接困っている人・頑張っている人の家計に届くように努力しました。そういう工夫をやらなければならない余地があると思っています。
中間層がこぼれ落ちないようにする。分厚い中間層が解体して、スーパーリッチが増えるけれども生活保護も増えて、二極分化する国がいいのか。国の姿が問われる選挙ではないかと思います。
そもそも、消費税を上げるための環境づくりを安倍さんはやっていないですね。「社会保障と税の一体改革」ですから、社会保障の充実と安定のためなんです。今、誰が安定と充実を感じることができているでしょうか。
肝になるのは子育て支援です。
1兆円の財源を作って、来年4月から「子ども子育て新制度」をスタートさせることになっています。財源は7000億円が消費税引き上げ、残り3000億円は恒久財源を作って、待機児童解消や子育て支援に役立てようという計画です。
これ、財源の目処が経ってないから、事業者にとっては、幼稚園を経営していたけれども、保育園の機能も持たせようとせっかく改修して「認定こども園」になったところがビジネスモデルが成り立たなくて、返上しようという動きをしたり、見送りにしたりしていますね。
「社会保障の充実と安定と」のためと言いながら、売りである充実が見えないんです。
もちろん社会保障は聖域化せず、切り込むべきところがあります。だけど充実の部分がきちっとありながら、どこかに切り込まなければいけないとう話の順番でないと、法人優遇も同時並行でありますので、何のための消費税引き上げだったのか、国民にはわからなくなってしまいます。
その意味では、消費税を上げる環境づくりとして、社会保障と税の一体改革を熱心に議論してこなかった。安全保障には熱心だけれども、社会保障の分野にはあまりにも不熱心すぎるのではないかと思います。
もうひとつ、冒頭に申し上げた通り、議員定数の削減もやらなかったということです。極めて政治的には問題だと思っています。そのことは国民も求めていました。身を切る覚悟をきちっと示す。身を切る覚悟もやらずに、二段階目の引き上げか、という議論があるんですね。
そしてもうひとつは、経済の好転に自信がない、景気条項をクリアできなかった。問われるべきはこれらの問題です。
消費税率を上げるか上げないか、延ばして良いか、じゃなくて、上げられる環境を作ってこなかったこと、それは安倍政権の大きな責任だと思っています。
抑制的にやってきたが、もうそうは言っていられない
世界の状況も心配ですね。日本の格差拡大も心配だと言いましたが、これは他の先進国、新興国でも共通して起こっています。 アメリカでは、スーパーリッチとそれ以外の人達の格差がすさまじいですね。所得階層上位10%の総所得と、残り90%の皆さんの所得が同じくらい。その格差はどんどん広がりつつある。「ジニ係数」という、格差拡大の度合いを数字で現したものがあります。1に近づくに従って格差が広がるという係数なんです。0だと完全に格差がない社会ですが、それはありえません。0.4を超えると、その社会において騒乱が起こる警戒ラインだと言われています。
2014年の数字で、アメリカでは統計を取り始めて最も高い数字が出ました。0.477。だからオバマは中間選挙で負けたんです。オバマの支持層は、貧困層、若者、女性、黒人、ヒスパニックじゃないですか。格差拡大はそういう階層を裏切ることになりますよね。
これからアメリカ国内は、格差是正に向けて大変です。どうしても内向きの議論になると思います。ウクライナで何か起こってほしくない、中東で何か起こってほしくない、ましてやアジアで厄介なことを起こしてほしくない、非常に内向きなアメリカになっていくと思います。その原因は所得格差です。
アメリカが0.477と申しましたが、ほとんど同じ数字を出している先進国があります。中国です。中国は2012年に0.474なんですね。足元の数字が公表されるとするならば、アメリカを遥かに追い越して、0.6、0.7になるのではないかと言われています。騒乱が起こる警戒ラインが0.4です。アメリカはまだ弱肉強食の国だとみんなが知っています。中国は共産党一党支配じゃありませんか。共産党一党支配の国でジニ係数が0.6、0.7になれば、国内に不満をそらすために南シナ海・東シナ海で挑発的・攻撃的なことをやって、はけ口を外に求める可能性があります。
日本の安全保障も冷徹なそうした環境を踏まえて、リアリズムに則った対応をしなければいけないと思いますが、ジニ係数、日本はどうなのか。
日本は0.3くらいで済むんです。0.4を超えない原因は何か。それは、曲がりなりにも社会保障制度があるからです。社会保障というのは、失業した時、病気した時、怪我した時、年老いていった時、困ったときに出てくるサービスです。
みなさんから消費税を頂いて、困った人たち、弱い人たちに分配するんです。この再分配機能があるがゆえに、日本はいまのところ0.4を超えないだろうと思います。アメリカは自己責任の国で、きちんと医療を受けられない人いますよね。中国は社会保障精度未成熟です。
そこが日本と中国やアメリカとの違いなんです。この制度をあまりバラ色の未来で語ってはいけません。だけど、持続可能なものに制度設計していくことが、国の安定と、中間層の不安を取り除くために最重要な政策だと思っています。
この議論をもっともっとやっていかなければなりません。そして、その先頭に立たなければいけないのは、民主党ではないかと思っています。
今、選挙で議席をどうのという現段階ではありません、私の立場は、前回、定数削減を信じて散っていった同志たちを、一人でも多く戻していくことです。全国各地を回って、一人でも多くの同志がこの永田町に戻ってきて、ぶあつい中間層を復活させる、みんなで力を併せて、環境整備に力を尽くしていきたいと考えています。
今までは2年間、敗軍の将でしたから、どちらかと言うと現代表よりは目立ってはいけないと思っていましたので、抑制的にやってまいりしたけど、もうそうは言っていられません。約束を破られた相手は私です。前面に出て、全国の同志の応援をしていかなければならないと考えています。
今持っている危機感をあえて言うなら、増税を見送ることによって、1年半後に上げますよという法律を作っても、だれが信用してくれるかということなんですよね。信用を失った国、そして二度と消費税を上げられないような国になってしまうことを一人の政治家として非常に危機感を持っています。
この危ない政治を正していくためにはきちっと与党だけではなく野党がもっと強くなって牽制してチェックしていく、多くの同志が戻ってこられるように全力を尽くして戦っていきたいと思います。
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