※この記事は2014年06月21日にBLOGOSで公開されたものです

 厚生労働省が、飲食店で豚肉を生食用として販売することを禁止する方針を固めたようだ。(*1)

 牛レバーが禁止される前後に、冗談として「次は豚レバーだな」なんてことを言っていたけれども、本当に豚レバーを生食で提供している店があって、更にそれを注文する人がいるというのには呆れてしまう。

 「豚はちゃんと火を通す」なんて、家事に疎い俺ですら、子供の頃から知っていた話なので、一体、どういう生活をしていれば豚肉を生で食べようと思いつくのか、よくわからない。

 そもそも、豚肉の生食が禁止されていない理由は「そんな不衛生なことをする人がいないから」であったはずが、なぜか豚の生肉を提供する店が増えたために、規制せざるを得なくなったようだ。

 豚肉は新鮮であっても、様々な菌を保有しており、食中毒や肝炎などを引き起こすことがある。SPF豚というしっかりとした規格で健康に育てられた豚であっても、生食は避けるようにと言われている。(*2)

 もちろん、個人が勝手に生肉を食するのは仕方ないのだけれど、それを店で提供するというのは、あまりに儲け至上主義でモラルが低いのではないかと思う。ただ、提供している店では、それがモラルの低い行為だという認識自体がないようである。

 別のTV局の報道では、生の豚レバーを提供している店が、店名とともに顔出しで出演し「新鮮であれば大丈夫」などと口にしていた。これが嘘だとわかっていれば、店名出して出演するというのはありえないのだから、本当に知識がないのだろう。そのような店で調理された料理は、本当に口にしても大丈夫なのだろうか?

 こうしたモラルの低い店に、僕はあまり入りたくないので、口コミでマンションの一室か何かで秘密裏に営業して欲しいのだが、こうした店は普通の飲食店と同じような顔をして、繁華街に暖簾を掲げて営業しているので勘弁してくれ。

 また、このテの店は常套句として「健康被害は出ていない」と口にするが、それは食べた側がお腹を壊してもその店が原因だと特定されていないか、単に運がいいかのどちらかである。そもそもハッキリとした健康被害が出てからでは遅いのである。

 実際、牛レバーでも、禁止直前にマスコミと店が駆け込み需要を煽り、結果、多くの食中毒と、O157による死亡事故が発生している。(*3)

 こうした過去の教訓があるにもかかわらず「うちでは問題が起きていないから」として、普通の飲食店と同じような顔をして豚レバーを提供する飲食店がある以上、法律で危険な食品をガチガチに規制することでしか、消費者の安全を守れないということになってしまう。

 もちろん、法の規制さえあれば、きっぱりと問題が解決するとは思っていない。

 しかし、現状で僕がいちばん問題だと考えるのは、こうしたモラルの低い店の存在が、他のちゃんとした店の儲けを奪い、貶めるということである。

 「新鮮だから豚生レバーも食べられる」と主張する店は、暗に「豚生レバーを提供しない店の豚肉は新鮮ではない」とほのめかしている。実際、牛レバーの時も、安全性をちゃんと考えて生レバーを提供していなかった店が「新鮮じゃないから生レバーを提供していないのだろう」と中傷を受けていたという話もあった。

 今回、改めて「新鮮であっても豚肉の生食はできない」という規制をハッキリと行うことで、これまでまっとうな商売をしてきた飲食店が少しでも報われるのではないかと期待している。

 なのでぜひとも、今回の規制を受けて、これまでちゃんと豚の生食を提供していなかった店は、胸を張って「うちではお客様の安全を第一に考えています」と主張して欲しい。僕も、どうせ食べるならそういう店で食べたい。「うちの豚生レバーは新鮮です」などと口にする店よりも美味しいに違いない。

*1:牛レバーの代わりに提供…豚レバーの生食禁止へ(読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140620-00050122-yom-soci25
*2:SPF豚に関するQ&A(日本SPF豚協会)
http://www.j-spf.com/Q&A/Q&A.htm26
*3:牛レバー生食禁止措置を腸管出血性大腸菌感染症の減少につなげるために(食品分析開発センターSUNATEC)
http://www.mac.or.jp/mail/120901/03.shtml