堂々とコスプレのできる社会を - 赤木智弘
※この記事は2014年06月08日にBLOGOSで公開されたものです
兵庫県で行われた、ご当地キャラクター達が集うイベントに、偽物のふなっしーが現れ、警察に取り押さえられるという騒動があったようだ。(*1)結局は、父親が子供を喜ばせるためにふなっしーのコスプレをしていたということらしい。一生懸命に作ったのだろう、それはまるで本物のふなっしーそっくりである。これでは事情を知らない周囲の人たちが本物と間違えても仕方ないといえる。
このニュースを見て僕が思い出したのは、とある「プリキュア」のことである。
妙に体格が良く、しっかりと筋肉の付いたプリキュアのコスプレをしたオッサン……いや、プリキュアが、数年前からネットの好事家の間で、注目されている。
プリキュアは岡山を中心に、デパートのプリキュアイベントや、多くの家族連れが集う場所の平和を守るために活躍しており、その活躍がネットのまとめサイト等に転載されて人気となっている。
彼……いや、プリキュアが人気なのは、ネットの中だけではない。現地でもプリキュアは子どもたちに大人気で、気さくに記念撮影などにも応じているようだ。
さて、これはどちらも、子どもたちがたくさんいる場所で、人気キャラクターのコスプレを無許可で行うという事例なのだが、前者だけが警察に取り押さえられるハメに陥った原因はなんだろうか?
それはまず、前者の格好がふなっしーそっくりであり、ハッキリと偽物と判断できなかったことであろう。
前者は本物と見間違えるようなきぐるみで全身を覆っている。一方で、後者はアニメのキャラクターだから本物ということはありえないのだが、それ以上にちゃんと顔を出して(ネットなどで公開されている写真では顔は加工されているが)活動をしている。後者がもし、よく行われているプリキュアショーのように、顔もきぐるみで覆っていたら、ショーに出る側の本物と見分けがつかず、不審者として取り押さえられることもあるかもしれない。
そしてもうひとつは、ステージ上から発見された後に、逃げてしまったことが問題だったのだろう。
ステージ上のキャラクターたちから見つけられた時に、その場できぐるみを脱ぎ「子供のためにきぐるみを作りました」とでも言えば、ちょっとしたいい話で終わったハズのことである。
しかし、ヤバイとおもったのだろうか? その場から慌てて逃げてしまったために、不審者として取り押さえられることになってしまった。不審者という点では、プリキュアのコスプレをしたオッサン……いや、プリキュアのほうがよっぽど不審ではあるのだが、堂々と演じきっているために、捕まえるような必要性がないと判断されるのだろう。
この事件について、そのプリキュア本人であるキュアまこぴーさんが、Twitterでコメントをしている。(*2)(*3)
やはり、顔を出している点と、ステージから無茶ぶりをされた時の対応に問題があると考えているようだ。
結論としては、コスプレをするときは、恥じたり臆したりすることなく、堂々と「自分はこういうコスプレをしている」と胸を張ればいいということなのだろう。
コスプレなんてしなければいいじゃないかと思う人もいるかも知れない。
しかし、それも結局は程度問題である。それこそかつての映画「君の名は」でヒロインがしていたスカーフの巻き方を「真知子巻き」と呼んで、多くの人が真似をしたが、その格好で「君の名は」の映画を見れば、それは立派なコスプレであるとも言える。
コスプレは決してオタクの専売特許ではなく、多くの人がメディアに影響されて行っていることの延長に過ぎないのだから、恥ずかしがるようなことではない。
ただ、今回この問題がニュースで取り上げられたことにより、このようなトラブルを未然に防ぐため、コスプレの類での各種イベントへの入場が禁止されるようなことがあるかもしれない。
当然、きぐるみの中に悪意のある人間が居ないとも限らないし、また今回の偽ふなっしーのような、本来であればちょっとしたいい話であるはずのことも、騒動になってしまえばトラブルであることに変わりはない。
また、TPP交渉において、著作権法違反の非親告罪化が検討されていることもあり、今後は非営利であっても、ファンによる無許可コスプレを警察が犯罪として取り締まるようなこともあるかもしれない。
現状においては、岡山のプリキュアが著作権者から注意を受けていないように、そうしたコスプレを行う人達と著作権者の関係は悪くない。しかし、こうしたニュースが増えれば、著作権者の側にしっかりとした対応を求める声も上がってくるかもしれない。
コスプレはこれまで比較的グレーゾーンでやってきた部分も多く、昨今の白黒をハッキリ付けることが正しいという風潮を踏まえるに、やりにくくなっていくのかもしれない。
しかし、コスプレは基本的には、その作品を好きなファンが行う行為である。そこに法律を持ち込んで、白黒ハッキリ付けることは、決して著作権者やファンのためになることではないだろう。
*1:ふなっしー偽物騒ぎ 警察が取り押さえ 兵庫のイベント(神戸新聞NEXT)
*2:https://twitter.com/Cure_makopi/status/473299824226213888
*3:https://twitter.com/Cure_makopi/status/473300705088770048