※この記事は2014年05月29日にBLOGOSで公開されたものです

28日、自民党の船田元・憲法改正推進本部長が東京都内で講演を行った。自民党が目指す憲法改正へ向けた今後の展開や、行使容認を巡って公明党との与党協議が続く集団的自衛権の問題について自身の考えを述べた。聞き手は政治評論家の清宮龍・元時事通信海外部長。

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解散総選挙で信を問うことも選択肢

ー今、自民党政権は集団的自衛権の行使に向け解釈の変更を目指している。なぜ解釈を変更するのか、目指していることは何なのでしょうか。また、憲法改正について、船田先生は環境権などの新しい権利の追加から入るのが有利ではないか主張している。その話との関連はどうでしょうか。

我が党では、集団的自衛権の行使について憲法改正ではなく、当面は解釈の変更によってこれを認めていこうということで、閣議決定を目指して与党内の調整を行っています。

諸外国で個別的自衛権と集団的自衛権を厳格に分けて議論しているところはそれほどないようですが、わが国では武力行使の三要件の中で、"個別的自衛権は認められるけれども、集団的自衛権はこれを超えるものであるから、憲法上認められない"、という解釈が主に内閣法制局によって作られ、今日まで国会での答弁として積み重ねられてきました。
これを元にした上で、解釈の変更によって集団的自衛権の行使もできるのではないか、という安倍総理の提案があったということです。

私個人の考えとしては、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を認めることは可能だと思います。ただ、これは解釈のぎりぎりのところを狙っているので、本来は憲法の改正によるべきである、ということを申し上げてきました。

今、憲法改正のための国民投票法を整理しようとしていますので、これからいよいよ実際の憲法改正の議論も始まるわけです。ただ、"じゃあ9条を改正しよう"と、衆・参両院の3分2以上の議員が賛成できるような原案がすぐできるかというと、なかなか難しいのではないかと思います。
憲法改正というのは何回かに分けて行われるというのが我々から見た常識となっていますので、最初の改正においては、国民の皆様や国会の中でも同意を得やすいであろう、環境権や私学助成であるとか、裁判官の給与が下げられないということが規定されている条文、つまりどちらかというと形式的な問題についてのご提案をし、国民投票にかけるというのがいいのではないかと思います(参照:自民党「憲法改正草案」)。
そうしますと、9条の改正をして集団的自衛権の行使を憲法上においても認める、ということを実現するには、やはり相当な時間が必要になるのではないかと思います。

現状の東アジアの安全保障の環境は緊張状態が続いているわけです。先日も、中国軍機が自衛隊機に異常接近をした、という事案が報告されておりますので、かなり緊急性のある問題だと思っています。ですから、解釈によって集団的自衛権を認めるということは、国益を守るためにとはむしろ当然であると思っています。

ただ、先ほども申しましたが、私は本来憲法の改正を行うべきで、解釈の変更を行うにしても、憲法の根幹に非常に関わることですので、解散総選挙で国民の信を問う、ということもひとつの選択肢だと思います。安倍総理も事の重大性はご認識されていると思いますけれど、先日そういったことを党の会合で申し上げたので、ちょっと物議を醸したかもしれません。しかしそれが私の基本的な考え方です。

ー何年かかけて憲法全体の改正にたどり着くということでしょうか。

すべてこれから先の話になるわけですが、まず憲法改正のための"土俵作り"である、国民投票法の整備について8党(自民、公明、民主、維新、みんな、結い、生活、改革)の合意をしていただきました。衆院に議席を持たない改革を除く7党で改正法案の共同提案もさせていただきました。

"共通の土俵作り"ということですので、なるべく多くの政党のみなさんに賛成していただこうということで、ある程度の妥協はしました。その枠組をなるべく壊さないように、憲法改正原案の議論もやっていこうと私は考えています。今後、当然自民党の方向性についていけない、ダメだ、と、途中で離脱する政党が出てくる可能性があります。そこをなるべく一緒にやっていくという考えです。

語弊があるかもしれませんが、"慣らし運転"が必要だと思います。我々も憲法改正の発議は一度もやったことはありません。国民の皆様も、国民投票をやったことがない。最初はどちらかといえば簡単な問題から解いていって、だんだん難易度の高い問題に移っていくのだろうと思います。

憲法改正の原案を出してから国民投票までの周知期間は、最大で半年間あります。そうしますと1年に2回原案を出すことはできない話ですので、1年に1回とか、2年に1回となります。そういうことを考えると、憲法改正の全体が仕上がるまでに10年近くかかると考えられます。
その間、国政選挙も数回ありますので、選挙の洗礼を受けながら、しかし憲法改正も同時に議論していくという非常に難しい作業がこれからどんどん出てくると思います。

しかし部分的に憲法を変えると、そのことによって全体のバランスが崩れるということも考えられなくはありません。ですから私としては、この全体の期間はなるべく短くしたいと思います。もちろん原案の提案時に、ここを直したら全体がおかしくなるというのはなるべく避けようとは思うのですが、全体を考えれば、一定のスピードで改正をすることが必要だと思います。

発議要件の変更もリーズナブルな考え方

ーしかし、毎回、衆・参両院の議員の3分の2の以上で発議して、国民投票で過半数を得る、というのは難しいのではありませんか。

昨年、安倍総理は96条、つまり憲法改正条項の改正をやりたい、例えば3分の2以上から2分の1以上に発議要件を緩和することはどうだろうかとおっしゃいました。
発議に必要な衆・参両院の総議員の3分の2以上が賛成は大変高いハードルですので、今後の憲法改正を考えると、そんなに高いハードルで果たして発議できるのか、そういう議論に当然なるわけです。
私も、今後何回か発議をしようと思っておりが、常に3分の2を超えることは至難の技だと思っております。仮に議員の3分の1の方々が反対するとしたならば、国民の皆様が改正すべきだと待ち望んでいるのに発議ができない、国民投票もできない、国民の意思が反映できない、ということが生じる可能性があります。そういう意味で、発議要件を2分の1以上にしておくというのはリーズナブルな考え方だとは思います。

ただ、最初の憲法改正で96条の改正を目指して、それを国民投票にかけるというのは相当な抵抗があるだろうと思います。たとえば一回目の改正ならば環境権などを条文に付け加える改正と併せて、発議要件も変えたいのですがどうですか、と問いかける、あるいは2回目以降に変えていくということの方が無難だと思います。

ー憲法改正のハードルが高い、というようなことも、国民にはあまり理解されていないのではないでしょうか。

世論調査では、先に96条を改正することについて、反対が多かったと記憶しています。国民の皆様も、改正手続きや"3分の2以上"の意味について、思っているところは多いのではないかと思います。

憲法教育・政治教育の充実を

ー国民投票法改正案では、投票年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げるということですが、公職選挙法の選挙権の年齢も18歳以上に引き下げるということについてのお考えはいかがでしょうか。

7年前に今の国民投票法を成立させていただきましたが、その時にすでに18歳以上というのは入れております。統計によると、普通選挙が行われている190カ国のうち、選挙権の年齢が18歳以上となっている国が172カ国もあります。国によっては16歳からというところもありますから、これはグローバルスタンダードになっていると思います。

また、私たちは、国民投票ができる方というのはどういう方なのか、ということについても議論する中で、例えば選挙違反で捕まって公民権が停止されている方々。刑務所に入っておられる方々にも選挙権を与える、ということに致しました。

憲法というのはわが国の基本ですし、将来に向け国民の生活を決めていくものですから、できるだけ多くの方々に投票していただくのが国民投票だろうと思います。そういう理由で、年齢も18歳以上に下げると、決断をしました。

ただ、選挙権の年齢は自動的には下がらないので、あらためて公職選挙法の改正をしないと、同じ投票という行為でも、国民投票と選挙によって年齢が異なり、混乱を招きかねません。直接民主制の部分と間接民主制の部分で年齢が違うというのもおかしいじゃないかということで、改正国民投票法の施行後、投票年齢が18歳に下がる4年後までに、公職選挙法の改正をやりましょうと。そのために8党でプロジェクト・チームをつくるということも同意しています。

ーしかし、18歳と言うと、まだ成熟していないではないでしょうか。成熟していない人に投票権だけ与えて大丈夫なのか、という気もします。

逆に、なぜ日本だけ18歳以上ではだめなのか、という質問もあります。どの国でも18歳以上で出来ているんです。投票率は別ですが、やはり制度として動いているわけですから、日本の若者だけが劣っているということは絶対ないわけなので、日本でもできるはずです。

ただ、18歳と言うと、高校3年で迎えることになります。高校時代の最後に、投票をする可能性がでてくるわけです。その前に、学校教育での憲法教育、もう少し広い意味では政治教育をきちんとやっていく必要があると思います。
確かに、学習指導要領の中には、国の仕組みや憲法の三原則について入っていますが、大学入試でも年齢や組織名を入れるという条文の穴埋め問題が多く、どちらかというと知識に偏った教育になっていることを心配しています。
知識を学ぶことも大事なんですけど、それだけで高校3年生になって、国民投票にちゃんと足を運んでくれるかというと、そこにはギャップがあるのではないかと思います。

偏ったものはいけませんけれども、学校の中で模擬国会、模擬選挙といった体験を中学、高校でやらせることは効果的だと思っています。実際、横浜の学校で導入しているところもありますので、私たちも勉強して、できるだけ多くの教育現場に導入できるよう働きかけをしていきたいと思っています。

与党の大筋合意は決して不可能ではない

ー集団的自衛権の行使容認について、ある世論調査では、自民党支持層と公明党支持層の間でズレがあります。公明党との協議で留意しているところもあると思います。

今の世論調査の結果は、与党協議にも色濃く反映しているなと感じています。大変難しいと思っています。ただ、私は協議を続けていけば、ある時点での大筋合意は決して不可能ではないと思っています。

現在、集団的自衛権の行使について事例を8つくらい出していますが、その議論を先に延ばして、当面は"グレーゾーン"、つまり武力行使に至らないけれども、安全保障上問題があるという事態への対応から始まって、PKOや集団的安全保障、つまり国連が関与しない多国籍軍に関与することについての在り方の議論をして、最後に集団的自衛権の行使の議論になっていくだろうと思います。"グレーゾーン"については合意しやすいと思います。

与党協議では事例の研究もやっていくわけですが、ひとつひとつ客観的に、憲法や法令の規定、解釈のあり方に従って、ひとつひとつ事例を当てはめていくことは、時間はかかるけれども、私は可能であると思っています。ただ、"15の事例"だけしか対処できないと言われても困ります。事例は事例であって、今後どういうケースが出てくるかわからないわけですから、あらゆることに対処できるように、事例研究からいわば普遍的な原理を見出す必要があります。

ー本当に公明との折り合いはつけられるのでしょうか。

緻密な議論を重ねるしかないと思っていますが、閣議決定の内容につきましても、それこそ"グレーゾーン"で、多少解釈の余地のある閣議決定を取るという形にして、自民党の解釈としてはこう、公明党の解釈としてはこう、という、まさに理論に余裕を持たせておく、というのもひとつの政治の知恵だろうと思います。
しかしその幅がありすぎると、できる・できないという非常にシビアな判断をしなければいけない緊急の現場で自衛官が迷ってしまいます。現場に迷いがあってはいけない。現場の迷いが出ない範囲で、そういうものがあればいいのではないでしょうか。

与党協議には安全保障問題のエキスパートの方々が入っておりますので、かなり緻密な議論をしていただいております。ただ、あまり細かいところにこだわり過ぎちゃって、枝ができたけれども全体の木の形、大局が見えなくなってくることもあるかもしれません。政治家として、大局を見て細部も見ていくという遠近感をきちんと持っておくべきだと思いますし、神学論争に入ってしまうというのもいかがかという気が致します。そこはやはり法制局や役人に細かいところの理論構成をしてもらって、我々政治家は全体の流れ、全体の原則に昇華していくというのが本来の仕事ではないかと思っています。

中韓にも説明の継続を

ー国民も含め、細かいところを話す人は増えてきていますが、全体の流れを話す人が政界にも少なくなっている気がします。
最後に、集団的自衛権の行使容認について、アメリカは歓迎しているようです、しかし韓国は警戒感を示しているということです。米韓を含め、諸外国との外交面ではどうでしょうか。


中国も韓国も、きちんと説明をすればわかってくれるはずだと思っております それぞれ強力な軍を持っておりますし、個別だけでなく集団的自衛権も一定の許容をし、実際の軍の運用としてやっているはずです。
わが国としても、決して新しい、諸外国ではやっていないことをやるということではありません。ある意味で普通の国になるために、集団的自衛権や"グレーゾーン"の対応について議論しているので、きちんと説明する、常に説明するということをやっていれば、よいのではないかと思います。諸外国が理解してくれないから諦めました、という選択肢はないはずです。言い続けるしかないと思っています。

わが国の国民性の問題もあると思いますが、同じアジア人であれば以心伝心で言わなくてもわかってくれるだろう、察してくれるだろうというのも日本国内では通じるかもしれませんが、やはり以心伝心はありません。言わなくても中国や韓国は日本の立場や気持ちを慮ってくれる、という期待をかけてはいけないと思います。言うべきことは言い、主張するべきは主張する、ということで対応していかないと、わが国の将来を誤った方向に持って行きかねないと思っていますので、ここはやはり我慢のしどころではないかと思っています。

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