“サッカーの奥深さ”を理解できれば、観戦はもっと面白くなる~元日本代表・福西崇史氏インタビュー~ - BLOGOS編集部
※この記事は2014年05月15日にBLOGOSで公開されたものです
2014年ブラジルワールドカップの開催が迫ってきた。日本代表の活躍が期待されると同時に、より深くワールドカップの魅力を味わうためには、どのような点に注目すればよいのだろうか。現地でグループリーグの解説を担当することが決まっており、「こう観ればサッカーは0-0でも面白い 」を上梓したばかりの元日本代表・福西崇史氏に話を聞いた。(取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)“考えて走る”ことをずっと実践してきた。
―福西さんは、今回の著書の中で現役時代の自らのポジションである「ボランチ」と、「戦術」「個の力」というキーワードを上げて、「サッカーの奥深さ」を解説しています。ただ、身体能力やテクニックと比較すると、「戦術」やそれを理解するための選手個人のインテリジェンスの部分というのはわかり辛い部分もあると思います。その重要性について改めて教えていただけますか。
福西崇史氏(以下、福西):チームというのは、選手それぞれの特徴が積み重なってチームになるわけです。なので、選手の特徴や能力をより発揮しやすい環境を作った方が、チーム力はアップします。もちろん、スーパースターやテクニシャンも必要かもしれませんが、それ以上にチームとしての“力”が発揮できれば、優れた個の力を抑えることができますし、世界的にもそうした“個の力”プラス組織という潮流があると思います。
見ている人が、そこまで理解することが出来れば、サッカーはもっと面白くなる。もちろん、個々の選手が「かっこいい」「巧い」というところから興味を持っても良いと思います。そこから、その“巧い選手”をどうやっておさえていくかというところに注目してほしいんです。
サッカーは、ゴールを守って、攻めてという争いなので、相手との駆け引きも非常に面白いポイントです。駆け引きが見えてくれば、おのずとそれが勝敗にどういう影響を与えたか、ということもわかってきます。そうやって、少しずつ個人に注目して見ていた人たちが、複数の選手のコンビネーションや、チームという単位でサッカーを見るようになると、どんどんサッカーの魅力にのめりこめるんじゃないかと思いますね。
―例えば、本の中に福西さんが「走らないボランチ像を追求していた」という記述がありますよね。戦術や“考える力”によって本当に運動量を補うことができるのでしょうか。
福西:僕が言いたかったのは、“いつ走っているか”ということなんです。「走る」と一言で言っても、「ボールが来てから走る」「ボールが来る前から走る準備をしておく」「ボールが来るであろう場所にいる」という3段階では違いがあります。
ボールが来てから「ヨーイドン」で走れば50Mの距離も、様々な情報から事前にボールが来るであろうポジションに近づいておけば、距離的にそれほど走らなくてもすみます。そうすれば体力を温存できますから、90分間通して本当に大事なところに力を注ぐことができる。僕自身は足が遅かったので、ヨーイドンをしたら負けてしまいます。だからこそ、先にその場所にいる、相手より早くスタートを切るといったように“考えて走る”ことをずっと実践してきました。
―チームの戦術が上手くはまっているときというのは、自分の能力も伸びているように感じるものですか?
福西:実際に伸びているんだと思います。そのチームの戦術によって、生かされている、力を発揮させてもらっているという部分があると思いますね。逆にチームの戦術が原因で力を発揮できない選手や、くすぶっている選手もいるでしょう。戦術が機能しているときは自分の能力がスムーズに発揮できるわけです。
―であれば、組織の中で自分をどう生かすかや、“考える力”というのは、足元の技術やフィジカルと同じように、若い頃からトレーニングする必要がありますよね。
福西:サッカーにおいては、11人の中の1人として、「特出した技術もないけれども、みんなの能力を組み合わせるのが上手い選手」がいると思いますし、そういう選手は、それが能力だと思います。
その選手の代わりに、よりテクニックのある選手を入れても、チーム全体の力としては劣ってしまうということも起こりうる。そうした能力は、プレー以外の部分、学校環境や家庭環境も含めた普段の生活の中で、生かせる部分もあるでしょうし、育てられる部分があると思います。
―みんなの能力を引き出せる選手は、その環境の中で自分も伸びていける。
福西:それぞれに長所はたくさんあるでしょうから、自分の特徴を生かしていくということが重要です。
例えば、人見知りでコミュニケーション能力があまり高くないものの非常にテクニックがあるという選手がいたとしましょう。そういう選手が周囲とコミュニケーション取りやすい環境を生み出すようにサポートしたり、盛り上げていくというのも、ほかのチームメイトの能力かもしれません。それがチームの力になるわけですから。
人見知りのテクニシャンが11人集まったチームと、技術は劣るけどコミュニケーション能力が高い選手が2人でも3人でも入ったチームとでは、どちらが力を発揮できるでしょうか。本の中でも書きましたが、このような個の力も重要ですが、組織としての作り込みも重要です。2つの要素がいいバランスになったチームが、一番強いのではないかと思います。
―会社組織でも個人のキャラクターに合わせて営業や制作といったように業務を分担していくことがあると思うのですが、そういう意味では、サッカーのチームも会社組織と似た部分があるんですね。
福西:普通に考えれば、コミュニケーション能力が高い人の方が、営業が上手くいく可能性は高いですよね。それぞれのキャラクターや能力を発揮できるように配置するのが、監督の力量、手腕です。
サッカーチームというと、特別な世界のように思えますけど、普通の人の生活とそれほど違いはありません。自分自身という「個」の特徴を理解して、それをどう生かせばいいかを考えてやれば、より自分の能力を発揮しやすくなるでしょうし、個性が生きてくれば仕事だって楽しくなるでしょう。
―そういうシミュレーションをしながらサッカーを見ていると、ご自身もゆくゆくは指導者といった希望も出てくると思うのですが。
福西:元々指導者という選択肢は自分の中にありましたし、僕自身も選手としてトップレベルでやらせてもらっていたので、そういうトップレベルの選手たちをどういう風に監督として掌握して、チーム作りをしていくのか、ということにチャレンジしてみたい気持ちは強くあります。
ただ、こればかりは自分が勝手に出来るものではないですし、僕自身も必要とされるところでやりたいですからね。
―「こういうチームを作りたい」というイメージはありますか?
福西: “自分たちがやっていて楽しい・面白い”やり方というのが一番だと思っています。もちろん、チームに所属している選手の特性によって、パスサッカーがいいのか、堅守速攻型がいいのかというのは変わってくると思うのですが、自分たちが力を発揮しやすいメンバー、チームを構成して、選手たちが面白いと感じられるサッカーをやりたいですね。
ただ僕自身が、いままで自分たちで主導権を握って試合を進めるというアクションサッカーの戦術の中でプレーをしてきたので、そういうサッカーをやりたいという思いはベースにあります。
遠藤選手は“ゲームの流れ”を読む力が優れている
―ワールドカップが近づいていますが、特に日本代表の試合を見る場合に、注目すべきポイントというのはありますか?福西:本の中でも触れているようにボランチの動きに注目するとわかりやすいと思います。例えば、相手にボールを回されているとき、ボランチの選手は、だいたいディフェンスの前で動いて守備をしています。
では攻撃に回った時は、どうでしょうか。よくあるパターンとして、FWが攻めこんで最終的にサイドからクロスを入れ、後ろからボランチが走りこんでくるという形がありますよね。そういう場面にボランチが度々顔を出してくるようであれば、チームとして攻撃に重点を置いているということがわかります。逆に、そこを行かないのであれば守備を重視している。
このようにボランチの選手を見ていれば、チームが今攻撃重視なのか守備重視なのかということがわかります。それによって“ゲームの流れ”みたいなものも見えてくるんです。なので、やはりボランチの動きに注目すると、理解が早いでしょうし、面白いですよね。
―なかでも福西さんが注目している選手は誰ですか?
福西:僕は駆け引きが好きなので、遠藤選手ですね。その時にどういうサッカーをすれば相手が嫌がるか、相手を上回れるかということを彼はわかっている。ゲームの流れを読む力という点では、遠藤選手が一番優れていると思います。
どういう時に素早く攻めなければならないのか。ゆっくり攻めなければならない時には、どういうやり方があるのか。こういった部分を一番表現しているのが遠藤選手のプレーです。
―野球であれば、エースがピンチを抑えると次の回の攻撃で点が入るといったわかりやすさがありますが、サッカーの場合は、“流れ”が変わるのは、どのようなプレーなのでしょうか?
福西:一番わかりやすいのは、攻守の切り替えの部分だと思います。例えば、バルセロナでもバイエルンでも、ボールを持っているチームがあるとします。相手チームは追い込まれて守備に追われているように見えるかもしれませんが、相手にボールを持たせておいて、奪ったら素早く攻めることを狙っているのかもしれない。
チームの戦い方として、一瞬の隙をついてインターセプトして、周囲の選手も飛び出していくという戦術を採用している場合には、“ここぞ”という場面でボールを奪うために、余計に人数をかけてチャレンジしたりします。そういうことをゲームの流れを読んで、やっている選手がいるんですよね。
ディフェンスとしては、ボールをインターセプト、パスカットする場面というのが、ゲームの流れ、リズムを変えられるプレーだと思います。いいところでボールを奪えれば、スムーズに攻撃に移行できる上に、相手は攻撃というテンションになっているので、守備の準備ができていない。相手が準備をする前に、自分たちが仕掛けられれば、ゲームの流れは変わりますし、ボールを支配されていても逆に点をとって勝つことも出来ます。
―今回初めてワールドカップを観戦するという方もいると思います。そういう読者の方にメッセージをお願いします。
福西:選手にとって応援してもらうというのは本当に素晴らしいことです。僕自身、ずっと応援してもらう立場にいましたし、今でも選手たちを応援したいと思っています。その上で、今回のような本を読んでもらって、サッカーを一歩深く踏み込んで見てもらうことができたら、もっとサッカーが面白くなると思います。
個人を応援するプラス日本の“サッカー”の部分を応援してほしいですし、そこに注目してもらえば、よりサッカーが面白くなると思いますね。
―福西さんのようなトップレベルを経験した選手でも、まだまだサッカーの奥深さを感じることはありますか。
福西:いまだに奥深さを感じますし、一つ一つのプレーの意味がわかればわかるほど面白くなります。そういうサッカーの魅力を深く理解している人が増えれば、競技としての裾野も広がっていきます。
いまサッカーに興味を持っている人が、ほんの少し、もう一歩深く興味を持ってくれるだけでいいんです。選手が好きで見ている、日本代表だから応援するという人もたくさんいると思います。そこから一歩先に進んでもらって、好きな選手をサポートしている選手の動きに注目してもらえると、もっと面白いと思います。例えば香川選手を応援しているとしたら、その横で岡崎選手が動いてたよね、本田選手も動いてたよね、というように複数の選手の動きが見えてきて、それがチーム全体の動きにつながっていきます。そういうところが見えてくれば、よりサッカーの魅力を味わうことができると思うんですよね。
ワールドカップはもっとも大きな大会ですから、歴史的な経緯も含めて楽しむことができます。今回のワールドカップを見ておけば、4年後に違うサッカーのトレンドが来た際に、その違いを楽しむことができる。そうしたトレンドがわかれば、きっと次は過去がどうだったか知りたくなるでしょう。Jリーグの歴史は20年ですが、ヨーロッパでは100年以上続いていますから、そうした歴史があってこその代表だというところまで知ってもらえれば、サッカーはより魅力的になっていくと思います。
―本日はどうもありがとうございました
プロフィール
福西崇史(ふくにし たかし):1976年生。愛媛県、新居浜工を卒業後、ジュビロ磐田に入団。ボランチとして磐田の黄金時代を支え、日本代表としても2002年日韓W杯、2006年ドイツW杯に出場。FC東京、東京ヴェルディを経て現役を引退し、現在は解説者として活躍している。関連イベント
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