※この記事は2014年04月22日にBLOGOSで公開されたものです

集団的自衛権をめぐる政府の「憲法解釈」を変更しようという動きが本格化するなか、自民党の安全保障法制整備推進本部が3月下旬に発足した。安倍晋三総裁直属の機関で、石破茂幹事長が本部長をつとめる。日本の安全保障をめぐる法制度と、憲法や国際法との関係などについて議論を進めていくという。

この安全保障法制整備推進本部の事務局長をつとめる岩屋毅・衆議院議員が4月9日、東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見をおこなった。安倍政権の安全保障政策を簡単に振り返りながら、焦点となっている「集団的自衛権」についての考え方を語った。【取材・構成:亀松太郎/高橋洸佑】

写真一覧

安倍政権は「安全保障体制の再構築」に取り組んできた

岩屋:「一昨年の政権復帰以来、私どもは日本の安全保障体制の再構築に着手しました。まず、国家安全保障会議(日本版NSC)を立ち上げました。そのNSCのもとに、国家安全保障局を設置しました。国家安全保障局は、内外から集めてくるインテリジェンス(情報)の分析をして、安全保障の司令塔であるNSCに選択肢を提示していく役割を果たしています。

その際、内外からインテリジェンス・情報を集めてくるので、情報保全体制を強化しなければならないということで、特定秘密保護法を制定しました。この法律は、これまで各省がバラバラなルールで管理していた安全保障に関する秘密情報を、統一したルールの下で管理・運用していこうというものです。一時期の報道にあったように、国民の人権を脅かしたり、報道の自由を制限するようなものでないことをご理解いただきたいと思います。

このNSCが、我が国では初めて、国家安全保障戦略(National Security Strategy)の策定をしました。そこでは、国際協調主義に基づく『積極的平和主義』というものを掲げました。もはや、どの国も自国のみで平和を守ることはできない時代を迎えています。したがって、我が国としても、地域や社会の安全と平和のため、これまで以上に積極的に貢献していこうということを、方針として採用しました。

この戦略をもとに、この10年間を見通した防衛計画の大綱を改定しました。新しい大綱のキーワードは『統合機動防衛力』です。そこには、南西重視、海空優勢の確保、警戒監視能力の強化、輸送力の強化などの方針を盛り込みました。

これに続いて、今後5年間の防衛装備の整備計画である中期防衛力整備計画も改定しました。総額でいうと、24兆6700億円になります。前回の計画よりも7000億円近く、増額しています。これまで、防衛予算については、自民党政権時代から減額が続いてきましたが、この防衛予算を増額に転じて、自衛隊の人員・要員についても現状を維持するものとしました。

そして、さきごろ閣議決定されたのが、防衛装備移転3原則です。これまでの武器輸出3原則等を改定して、防衛装備の国際共同開発や生産に、より積極的に取り組んでいくことができるようにしたほか、我が国の安全保障に資する場合と、国際平和の構築に資する場合に限り、厳格に審査したうえで、防衛装備の移転を認めていこうとするものです。

ここまでが安倍政権がこの1年3か月の間に、安全保障体制の再構築のために取り組んできた事柄であり、成果です。そして、最後に残る重要な課題が、安全保障の法的基盤の整備ということになります」

「これまでの憲法解釈では十分な抑止力を維持するのが難しい」

岩屋:「現在、政府の『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会』(安保法制懇)が、この問題について議論を重ねていて、来月にはおそらく答申が出されるだろうと思います。政府における本格的な検討は、この方針が出された後から開始されるわけですが、我が党はそれにさきがけて、安全保障法制整備推進本部という全体協議の場を設けて、議論をスタートさせたところです。

この政府の懇談会(安保法制懇)が議論している分野は、大きく分けて3つあります。1つ目は、集団的自衛権行使の可能性について。2つ目は、個別的自衛権の範囲がどこまでかという問題について。3番目は、PKOなどの集団安全保障における武器使用の権限などについて、です。それらの中で最も注目を集めている問題が、集団的自衛権をめぐる議論だと思います。

自民党は、野党時代にこの問題を3年間かけて議論して、一定のコンセンサスを得たうえで、国家安全保障基本法という法案にまとめています。そして、それを党の公約にして、2度の国政選挙を戦いました。

そのときの考え方を一言でいうと、我が国の安全に『密接に関係する事態』に限って、集団的自衛権を行使することを認めてもいいのではないか、というものです。それは、憲法の許す自衛権の範囲内なのではないかということです。他国の領土にまで出て行って、同盟国と武力行使を共にしようという話ではありません。

そのような考え方に至った理由は、一つは我が国を取り巻く安全保障環境が急激に悪化しているということがあります。もう一つ、軍事技術の進展によって、これまでの憲法解釈のままでは十分な抑止力を維持するのが難しくなってきているという事情があります。

一番わかりやすい例は、ミサイル防衛です。ご承知のように、我が国は現在、常に核とミサイルの脅威にさらされています。これに備えて、我が国はミサイル防衛システム、というものを採用していますが、実際のオペレーションは、基本的に同盟国の米国との共同対処という形をとっています。

もし仮に、日本の防衛のために公海上に展開している米国の艦船が攻撃にさらされた場合、近くにいる自衛隊の艦船がその攻撃を排除するということをしなければ、日米同盟を大きく毀損するということになるのではないか。したがって、そういう行為は、我が国の安全を確保するために必要な行為なのではないか、と考えたところです。

これ以外にも、たとえば我が国はエネルギー源の大半を海外に依存しています。そのシーレーンが武力攻撃によって遮断され、それに関係各国が対応しているときに、これを支援をすること。あるいは、我が国の周辺国が隣国から攻撃を受けて、同盟国がその攻撃を排除するために対応を行っている場合に、これを支援すること。これらのことは、たとえそれが集団的自衛権という形をとるとしても、我が国が安全を確保する上で、必要な自衛権の行使と言えるのではないかと考えたということです」

「平和国家としての方針に変わりはない」

岩屋:「ところが、これまでの政府の憲法解釈は『集団的自衛権は憲法の認める必要最低限を超えるため行使できない』というものでした。

しかし、いつまでもこの考え方に立っていたのでは、我が国の存立を全うし、地域の平和と安定を維持するための抑止力を確保することができなくなりつつあります。安全保障環境の変化によって、『必要最低限度』についての考え方も変わってきています。そこをどう考えていくかということが、今後の議論のポイントになってくるのだろうと思います

いまアジア・太平洋地域の軍事バランスが大きく様変わりしつつあります。いくつかの地域に領土・領海・領空を巡って緊迫した状況があるのも事実です。海洋・サイバー・宇宙といったグローバルコモンでも、常に一定の脅威にさらされています。

これらの問題を平和裏に解決していくためには、第一に外交努力によって相互不信を取り除き、信頼関係を醸成していくことが必要です。それと同時に、同盟国の米国のみならず、我が国と安全保障の面で密接な関係にある諸国と協力して、紛争を未然に防ぐための抑止力を構築していくことも必要だと考えます。

我が国の使命は、この地域における先進民主主義国家として、この地域を世界で最も安定した、自由で豊かな民主的な地域に導いていくことだと思います。そのためには、経済の面のみならず、安全保障の面においても、一定の役割を果たしていく責任を有していると思います。

我が国は戦後一貫して、平和国家としての道を歩んできました。海外で、ただの一発の銃弾も発したことはありません。今後もその方針に変わりはありません。

目下、私たちがこの安全保障体制の再構築に取り組んでいるのも、また、集団的自衛権を含む法的基盤の整備の問題を議論しているのも、日本の安全のためのみならず、この地域の平和と安定に貢献していくためです。ご理解いただければ、大変幸いです」

集団的自衛権に関する主な質疑応答

―集団的自衛権が認められる例として、ほかにどういうものが考えられるか。

岩屋:「集団的自衛権の例として、たとえば、第一次安倍政権の時の安保法制懇が示した4類型の中に、ミサイル防衛の話が出ていました。その時は、米艦防護というよりも、ミサイルそのものの迎撃の話だったと思います。どういう話かというと、米国のグアムやハワイに向かうミサイルに対して、我が国が迎撃能力を持っている場合に、撃ち落とすべきではないかという議論がありました。

その時は、『そういう技術はまだ開発されていないから、荒唐無稽の話だ』ということになったわけですが、もし技術が確立すれば、これもまた、できない話ではないのではないかと思います。

それから、さきほど申し上げたシーレーンの場合です。シーレーンが武力攻撃によって遮断された、閉鎖されたという時、当然、機雷などがかなり敷設されていることになるのだと思います。それを掃海することは、国際法上は武力の行使ということになるのかもしれませんが、これはやってもいいのではないかということです。

3番目は、いわゆる周辺事態です。我々はすでに、そのようなときに同盟国の米国を支援できる法律を持っています。その際、武器弾薬は運んではいけないとか、武力行使と一体になるようなことをしてはいけない、というように定められていますが、こういうものも本当にそのままでいいのかということがあります」

―世論調査では、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を認めることに反対する声も強いようだが、その点はどう考えているのか。

岩屋:「今のところ、世論調査をすると、この集団的自衛権の問題についてはかなり厳しい反応があるということを、私たちも承知しています。一つの理由は、まだ議論が始まったばかりで、具体的な中身が十分に説明できていないということがあると思います。

もう一つは、安倍総理自身は非常にバランスを保って外交努力をしていると思っていますが、ともすれば、日本が『歴史修正主義』のようなものに傾いているんではないかと思われることも過去にありました。そういうことを意図的に宣伝する勢力が国の内外にある事も事実です。そういったことから、国民のみなさんの中に、ある種の心配があるのかもしれません。

したがって、私どもが説明をしていって、最終的に国民のみなさんのご理解をいただかなければいけません。国会の中でも、できるだけ多くの党派・勢力のご理解をいただかなければいけませんので、その努力をしっかりとやっていきたいと思っています」

―公明党との認識の違いについてどう考えているか。

岩屋:「私も報道で知っているだけですが、友党・公明党さんは、分かりやすく言えば『自民党さんがお考えになっている事柄は大体理解するが、それは『集団的自衛権』と説明しなくても、『個別的自衛権』で対応できるのではないか』ということをおっしゃっていると、承知しています。

ただ、これまでの国会での長い議論を通じて、集団的自衛権の定義というのは、良かれ悪しかれ確定しているわけです。それはどういう定義かというと、『自国が攻撃されていないにもかかわらず、密接な関係にある国に対して加えられた攻撃を、実力をもって排除する権利』というものです。これが、長い間の国会の議論を通じて示されてきた集団的自衛権の定義ということになっています。

したがって、我が国自身がまだ攻撃されていないのに同盟国に加えられた攻撃を排除する権利というのは、これまでの定義・議論からすれば、やはり集団的自衛権の類型だと言わざるをえないと思います。そこに真正面から切り込んで、議論していくということが、正しいアプローチなのではないかと我々は考えています。

一方で、個別的自衛権でなんでも説明できるという考え方のほうが、場合によってはむしろ危険なのではないか、と。ワンピースのルフィの手ではないですが、ゴムみたいに個別的自衛権は伸びていくんだと、ほとんどのことはそれでできてしまうんだと考えていることのほうが、ある意味、危なっかしいのではないかと思います。

そこはたぶん、そんなに変わらないことをお互い考えていて、どう説明していくのが適切かという議論だと思いますので、時間をかけてていねいに議論していけば、おそらく合意していくことができるのではないかと思っています」

■関連記事
・日本は「集団的自衛権」を行使すべきか?~北岡伸一(安防懇座長)VS柳澤協二(元防衛官僚) - 2013年11月29日
・"集団的自衛権行使に反対を"…福島みずほ、山本太郎議員が会見 - 2014年3月28日
・集団的自衛権について(石破茂本部長) - 2014年4月17日