※この記事は2014年04月09日にBLOGOSで公開されたものです

STAP細胞をめぐる一連の騒動について、理研のユニットリーダー小保方氏が会見を行った。同日午前中、理研の野依理事長が衆議院文部科学委員会に出席し、民主党の笠浩史議員からの質問に応じた。この様子を野依氏の答弁を中心にダイジェストで紹介する。なお、答弁の様子は「衆議院インターネット審議中継」で確認できる。

わが国の科学研究が信頼を損なうかもしれないというくらいの問題

笠浩史(民主党・無所属クラブ。以下、笠):たまたま今日の午後、代理人を通じて不服申し立てをした小保方さんが記者会見でお話をされるということです。この不服申し立てが出たことを受けて今、野依理事長がどのようにお考えか?また、再調査等々に対しての希望もあるようだが、どのような対応をしていくつもりなのか?

野依良治理研理事長(以下、野依):昨日、調査結果に対する不服の申し立てを受理したところです。申し立てがなされたことおよび、その内容については、小保方さんが4月1日に公表したコメントに沿ったものという風に理解している。今後、不服申し立ての内容を調査委員会が審査して、再調査する、あるいはしないということを決定することになっている。

その上で再調査となれば、さらに50日以内に、その結果を報告するということになっているので、その結論を待ちたいと思っている。

笠:捏造、不正といったものがあったのかどうか。あるいは、それが悪意によるものなのかどうか。それは専門家がしっかりと客観的に、国民の納得のできるような調査をしていくことに任せるべきだと私は思う。ただ、やはりこれだけの大きな、わが国の科学研究が信頼を損なうかもしれないというくらいの問題なので、しっかりと再調査も含めた検討をしていただきたい。

今日は、そのことよりも、こうした問題が何故起こったのか。理化学研究所の組織としての問題点についての議論をさせていただきたい。今回の件について、本人は別として、組織としての責任をどのように考えておられるのか?

野依:今回の事態は残念ながら、若手研究者の倫理観、研究の不足とそれから著者間の責任分担の不明確さ、研究所の組織としてのチェック機能に不十分な点があったという複合的な要因によって生じたものという風に認識しており、これを重く受け止めている。

まず、基礎的な科学研究においては、研究者たちが自律的に研究の立案、実施、成果発表を行っており、科学論文の発表の責任は基本的に自らが負うべきだということに国際的にもなっている。

一方、所属機関だが、これは研究活動が総合的にもっとも円滑に行われるよう、また研究不正を抑止するための組織体制の管理責任を負うところである。したがって、私としては調査の結果を受けて、こうした問題が再び発生しないように十分な対策を講じなければならないと強く認識しているところです。

今回の事案を真摯に受け止め、理研においていったい何が不足していたのか。外部の有識者による委員会を立ち上げまして、再発防止策を早急に取りまとめてまいりたいと思っている。これらの取り組みを通じて、理研全体の組織、この運営を点検いたしまして、科学技術イノベーションを推進する観点から、よりよいものに改め、高い規範を再生することが私の責務であると考えています。チェック体制とともに倫理教育が極めて大切と考えておりまして、最善を尽くしてまいりたいと思っています。

笠:実は、これまでも研究活動の不正行為というものについては、理研の組織の中でも、再三検討もされてきた。あるいは、文科省のほうでもガイドラインを示している。

さらにこのガイドラインを見直すべきじゃないかという検討をされていると承知もしている。平成24年9月13日に、理研でも科学研究上の不正行為の防止等に関する規定というものを1年半前に定めている。この中の第4条に、所属長が、その所属する組織における研究不正防止するために、やらなければいけない、チェックをしなければいけないことが4項目にわたって定められています。

昨日、名前は申し上げませんが、私が党の会議でこのことを理事の方に、「この今回の小保方さんの所属長というのは、センター長になるんですよね」と尋ねたところ「そうじゃないんだ」と。「ユニットリーダーなので、小保方さん自身なんだ」と。何度かそこで「本当ですか?」というやりとりをしても「そうなんだ」という答弁でした。これは事実ですか?

野依:小保方ユニットリーダーが勤めます細胞リプログミング研究ユニット。これは2013年の3月1日に発生・再生科学総合研究センターのセンター長戦略プログラムに設置されております。従いまして、研究不正を防止するという観点からのご指摘にありました第4条の規定による所属長は、研究ユニットにつきましては小保方ユニットリーダーでございます。小保方ユニットリーダーについては、センター長戦略プログラム長がそれに相当しておりまして、発生・再生科学総合研究センター長が兼務しています。

理化学研究所におけるガバナンスについて、一言申し上げますけれども、理化学研究所は自然科学の総合研究所で、2800人程度の研究系の職員がいます。そして、13の研究センターから構成されており、その目指すところはきわめて多様です。

例えば、今回の生命科学、あるいは物質科学等の基礎研究もありますが、その他にスーパーコンピューター、あるいは加速器。また、バイオリソースセンター等の研究基盤の構築、あるいは利活用をするところがあり、それによってマネジメントのあり方と手法というものは異なってきます。そういうことで機関といたしましては、それぞれの特色を最大限にいかすとともに全体的に整合することが求められているところです

そこで様々な事業を遂行するに当たり、もっともふさわしい人材をセンター長に任命いたしまして、センター長に裁量を与え、事業遂行にもっとも適切な最適の運営携帯を組織し、自立的に運営してもらっています。そして、彼らに対しては、同時に理研の使命に照らしまして評価を行っているということをご理解いただければと思います。

経験が不十分であるがゆえに有するリスクに対する認識が相当に甘かったのではないか

笠:不正防止に関する規定を読みましたが、きちんとこの通りにやっていれば、これほど大きな問題にならなかったのではないかと思います。これほど大きな発見であれば、発表する前に、疑問を呈する人間はいなかったのでしょうか?実験ノートの話もわずか2冊しかないなんてことは考えられませんよね。10冊、20冊あるのが当たり前でしょう。そのことは本人も認めている。そういうことが事前にわかったんじゃないでしょうか。その点理事長の率直なご感想をお聞かせください。

野依:研究不正あるいは過失を未然に防止するための規定を整備するなどしてまいりました。しかしながら、その衆知、運用に改善すべき点があったと考えております。これらの課題につきましては、研究不正再発防止のための改革委員会におきまして、研究所の外部の視点からもご助言いただきまして、実効あるものにしていきたいと考えております。

若手の研究者につきましては、経験が不十分であるがゆえに有するリスクに対する認識が相当に甘かったのではないかと思います。若手からベテランに至る前で博士というものは科学者としての基本的な指導訓練が完了されているという認識の下に研修、体制作りを行ってまいったところ。ここが研究所としての反省点でございます。このため、研究所といたしましては、現状の研修や体制を改善することによりまして、チェック体制の機能の改善をしてまいりたいと思います。

例えば、若手研究者に対するシニア研究者からの教育支援。また、若手研究者が分野を超えて、意見交換し、そして視野を広げるようなそういった制度を実施していきたいと考えております。

笠:改革委員会はいつ発足する予定で、どういう専門性を持った方々を委員として選考するつもりなのでしょうか?

野依:研究不正の防止および高い規範の再生のために4月8日付けで私自身を本部長とする研究不正再発防止改革推進本部を立ち上げたところです。また、研究所の体制等につきまして、外部の視点で改善策の提言を行う研究不正再発防止のための改革委員会を今週中にも立ち上げることとしております。

この委員会の委員につきましては、研究倫理や研究不正の専門家、法曹関係者、会計士といった多様な分野の有識者の方々にも参加をお願いし、適切に検討をお願いしたいと思っております。

-この質疑の中で笠議員は、後藤田内閣府副大臣に「理研の特定国立研究開発法人への指定について」、また今回の一連の騒動に関する下村文部科学大臣の見解についても質問を行っている。

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