※この記事は2011年04月11日にBLOGOSで公開されたものです

　４月１０日に投開票された東京都知事選挙は、石原慎太郎都知事が４選を果たした。これまでの都知事選で現職が敗れたことはなく、その不敗神話は崩れなかった。

今回の東京都知事選は３月１１日に発生した東日本大震災が大きな影を落とした。自粛ムードが求められるなかで、各候補者たちは思うような選挙活動ができなかった。投票率こそ前回より向上したが、有権者は立候補者の政見を吟味する時間も機会も少なかった。そこから改めて現行の公職選挙法の問題点が浮き彫りになった――

　２０１１年２月、ハローワークにいっぷう変わった求人広告が出された。仕事内容は政治活動のポスター貼り。年齢・性別・経験・学歴を問わないという条件は、この不況下にあって破格な求人だった。求人を出した主は、東京都知事選に出馬した杉田健候補。東京都知事選に出馬することは伏せられていた。労働政策にひときわ関心を持つ杉田さんは、職にありつけない人たちに少しでも仕事を提供できればと考え、この求人募集を思いついた。実際、求人に応募した人には、ケータイ電話さえ持っていない人もいた。

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ハローワークでポスター貼りのアルバイトを募集する、斬新な選挙を展開した杉田健候補

　従来、選挙スタッフの大半はボランティアが占める。ポスターは人海戦術で東京の隅々まで貼られるが、これらを担当するのはボランティアのスタッフだ。インターネットが普及した現在、選挙掲示板なんて誰も見ていないのでは？といぶかる有権者もいるだろうが、投票所となる小中学校前に設置された掲示板は、最後の最後に誰に投票するかを判断する材料になることもしばしば。今でも選挙掲示板持つ力は大きいのだ。

　ところが、政党や支持団体を持たない候補者が選挙に出る場合、ポスター貼りから選挙公報やチラシの作成、配布、街頭演説の準備をすべて自分でしなければならない。公職選挙法は街頭での選挙活動を８時～２０時まで制限しているが、選挙ポスターを貼る作業は２４時間可能。それでも都内に約１万５０００ヵ所もある選挙掲示板にひとりでポスターを貼るのは不可能だ。

　姫治けんじ候補はそうした作業をすべてひとりでこなし、古川圭吾候補は選挙を手伝ってくれる友人数人と手分けして都内を回っている。駅前や投票所となる小中学校、市街地といった人の目につきやすい場所から優先して貼っているが、かなりの数の選挙掲示板にポスターが貼られていない。谷山雄二朗候補も友人に手伝ってもらいポスター貼りや街頭演説をこなす。

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銀座で選挙チラシを配る姫治けんじ候補者

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古川圭吾候補は選挙最終日に初めて新宿で街頭演説を実施した

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友人たちの手伝いによって、街頭での演説の回数は多かった谷山雄二朗候補

　こうしたインディーズ候補たちは「近い将来、インターネット選挙は実現する。そうなれば、今のような資金力・組織力で戦う選挙スタイルは必要なくなるし、組織や地盤がなくても政見を広められる機会が出てくる」と、口々に言う。現行の公職選挙法では、告示後のＨＰやブログ、ツイッター、facebookの更新は認められていない。そのため、新聞・テレビといったマス媒体に登場して政見を広められなければ、有権者にアピールができる機会は皆無に等しい。

　例えばマック赤坂候補は奇抜な政見放送がyoutubeにアップされて、話題を集めている。本人もそのことは熟知しており、４月７日に花見客でにぎわう上野公園に現れて「youtubeでは１７万クリックもされている、１０度、２０度、３０度！のマック赤坂です」とネットで話題にされていることを大々的にアピール材料にした。マック赤坂候補の動画は１６万近くのアクセスをたたき出しており、視聴した有権者はかなりの数になる。しかし、結果は４５００ほどを獲得したにすぎない。選挙における新聞・テレビの威力がいまだ健在であることを見せつけられることになった。

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マック赤坂候補は桜が咲きほこる上野公園で絶大な人気を博した　そこまで選挙結果を左右する新聞・テレビは建前上、候補者を平等的に扱うように装っている。しかし、今回の都知事選に立候補した全１１名のうち、きちんと取り上げられたのは４、５名だけにとどまる。

　今回の筆者はＢＬＯＧＯＳで記事を全５回書くことになったが、都知事選に出馬しているすべての候補者に会いに行き、話を聞き、記事で紹介した。しかし、新聞・テレビではこうした候補者たちは“泡沫候補”として扱われ、決して取り上げられることはない。唯一、政見放送で政策を訴える機会が与えられるだけだ。

　こうした不平等な扱いに腹を立てた雄上統候補は、「公共放送であるＮＨＫはきちんと紹介するべきだ」と告示後に抗議をしに行っている。新聞・テレビのまやかしの平等に不満を抱いているのは雄上候補だけではない。選挙戦最終日となった４月９日、マック赤坂候補は有楽町駅前で街頭演説をしていた。同じ場所で１６時から石原慎太郎都知事が街頭演説する予定になっており、テレビ各局のカメラクルーが有楽町駅前に勢ぞろいした。ところが、石原都知事だけを撮りに来ており、マック赤坂候補を取材しようとする報道陣は皆無だった。あからさまな態度に、マック赤坂候補は「同じ３００万円の供託金を払って立候補しているのに、扱い方がまったく違うのは不平等だ」と居並ぶ取材陣を一喝した。

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雄上統候補は候補者全員を平等に扱えとＮＨＫに抗議した

　その石原慎太郎都知事は、震災対応を理由に街頭での選挙活動はいっさいせず、最終日に立川駅前と有楽町駅前に姿を現した。ところがこの街頭演説の名目は復興支援街頭集会であり、選挙活動ではない。いわば、石原慎太郎都知事は選挙活動をまったくしないで圧勝したことになる。震災対応が大事な公務であることを否定するつもりはない。ただ、前述したように新聞・テレビといったマスメディアは建前だけは平等性を装う。石原慎太郎都知事が選挙活動をしなければ、当然ながら新聞・テレビは平等性を理由にほかの候補者の選挙活動を取り上げない。結果、有権者に情報が行き渡らない闇選挙になる。やると決まった以上、闇選挙で不利益をこうむるのは有権者にほかならない。

　２０１０年の参議院選挙でインターネット選挙活動の解禁が俎上に上がった。いま情報を得るツールは新聞・テレビだけではない。当然、インターネットも重要な情報源だ。ところが、選挙活動におけるインターネット利用の解禁は立ち消えになり、統一地方選でもおあずけになった。

　しかし、東日本大震災が発生。電力不足・ガソリン不足に陥り、選挙カーを走らせることもままならない事態になった。インターネットが活用できれば、電力やガソリンを必要最小限に抑えて選挙が実施できるし、情報も増えるから有権者の投票を判断する材料が増える。闇選挙にはならない。もはや、選挙活動にインターネットを使ってはいけない理由が見当たらない。実際、今回の都知事選では、ある候補者の選挙スタッフと思しき人物が、その候補者とは無関係者を装いながら、連日の街頭演説の日程やその候補者の政策がどんなに優れているのかをツイッターでハッシュタグまでつけてアピールしていた。他人が勝手に情報を流しているという体裁をとっているので、関係者がやっているわけではない、ということなのだろう。これでは“公職選挙法は正直者がバカを見る”だけのものでしかない。

　今回の統一地方選は、期せずして大震災によって公職選挙法が内包していた問題点を露呈する結果となった。そして、次の大きな選挙は衆議院選になるか参院選になるか――民主主義の根本である選挙は民意を最大限反映させることが望ましい。だとしたら有権者の判断材料は多いにこしたことはない。

　選挙活動におけるインターネットの使用を禁じる公選法はいつになったら改正されるのだろうか？

（寄稿：小川裕夫）

・都知事選への関心高まらず　明日投票日
・投票日まであと2日　候補者たちが訴える「斬新な政策」とは
・大きな争点となる"防災対策"
・選挙活動にも”自粛ムード”を求められる候補者たち
・４月１０日投票　都知事選スタート
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