メタバース。

インターネット上に3次元の仮想空間を作ることができるテクノロジーで、自分の分身であるアバターがバーチャルの世界を自由自在に移動できる、話題のバズワードです。

メタバースの今後の可能性に早期から着目していたのが、著書『お金2.0』が20万部を超えるベストセラーとなり、2018年のビジネス書で売上日本一を記録した起業家・佐藤航陽さん。

そんな佐藤さんが解説する、「“今”メタバースに注目するべき理由」とは?

担当編集者・箕輪厚介さんも絶賛する新著『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』より、一部抜粋してご紹介します。

佐藤さんアイコン:
バスワードは「のったもの勝ち」

バズワードに対する人間の態度は、だいたい3つに分かれるのではないでしょうか。

第1に、シニア層に多いのが「こんなチャラチャラした言葉はけしからん」「インターネット上にもう一つの世界が生まれ、その世界を中心に人間社会が回っていくなんてことは起こり得ない」という態度です。

過去の常識が染みついてしまっている人は、全く新しいパラダイム(世界観)に対応することができません。

第2に、若者に多いのが「自分にとってプラスになるのであれば、新しい流れに乗っかって活かしてみよう」という態度です。

チャレンジ精神に溢れる若者は、バズワードに対して中高年ほど否定的にはなりません。

第3にミドル層に多いのが「メタバース? 一応知ってはいるけど、それってくだらないものでしょう」という斜に構えた態度です。

シニア層ほど新しいものに否定的ではありませんが、若者ほど前のめりにチャンスをつかみにいくわけでもありません。冷めた目で遠くから様子をうかがっています。

経験則上、2番目の態度以外に得られるものは何もありません。

そして3番目の態度が最も後悔を残します。

なぜなら、3番目の態度を取る人は表面上は否定的ですが、「もしかしたら自分にもチャンスがあるかもしれない」と心のどこかで考えているからです。

そのため、変化が誰の目にも明らかになった時点で態度を180度コロッと変えます。

しかし、そのころには2番目の態度を取った人がチャンスを総取りしたあとなので、何も残っていません。

競争の世界では、中途半端な日和見のスタンスを取る人にチャンスが与えられることはないのです。


巨大IT企業の新たな主戦場

ビジネスの側面から見ても大きな変革が起こります。

2021年7月から、FacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグが「メタバース」という言葉を連発し始めます。

同年10月28日には、社名を「Meta」に変更して世界を驚かせました。

さらに2021年だけでメタバース事業に100億ドル(約1.1兆円)を投資し、以後10年間で総計10兆円を投資しまくるというのです。

裏返して見ると、ザッカーバーグが、メタバースで世界を制するためにはそれだけの時間と資金が不可欠と考えたということの証左でしょう。

同年9月、Facebookの元スタッフが6000ページ以上もの内部文書を報道機関に公開して大騒ぎになりました。

Facebookがアカウントの個人情報をいじくり回していたことがバラされ、広告収入は頭打ちになります。

Facebookは社会的な非難にさらされ、ザッカーバーグはアメリカ議会の公聴会に呼び出しを食らってしまいます。

さらにFacebookは、WhatsAppやInstagramの買収が独占禁止法違反に当たると難詰され、アメリカ連邦取引委員会から提訴までされてしまいました。

IT業界の風雲児だったはずのザッカーバーグは、プライバシーと独占禁止法の問題によってアメリカ中から責め立てられています。

ザッカーバーグとしては、ここで社運を賭けてメタバースの市場を押さえたいと必死になっているはずです。

必死なのはFacebookだけではありません。

ディズニーにしても、ディズニーと激しいつば競り合いを繰り広げている中国のテンセントも同じです。

今やアメリカや中国の巨大IT企業では「スマホとソーシャルメディアの次の大きなイノベーションはメタバースだ」という認識が共有されています。

メタバースに何兆円もの巨大な投資がなされ、総計数十兆円の市場規模になるであろうことは、もはや不可避な流れです。

これまでは浦安やカリフォルニア、フロリダやパリ、香港や上海のディズニーランドまでわざわざ来てもらい、お客さんにチケットを買ってもらわなければなりませんでした。

空間的な制限がありますから、東京ディズニーランドでも1日4万人程度しか入れません。

しかしメタバース上にバーチャル・ディズニーランドを創れば、空間的な制限は取り払われます。

何億人だろうとログインできるようになり、アトラクションの前で何時間も行列を作る必要はありません。

『アベンジャーズ』や『スパイダーマン』『ハルク』などMarvelの人気映画も、おそらくこれからメタバースのアミューズメント・パークとして展開されるでしょう。

もはや映画は、客席にじっと座って2次元の画面で観る時代ではなくなります。

自分が映画の主人公として冒険したり、モブキャラ(その他大勢の群衆)の一人として、Marvel映画に参加したりしてしまう。

映画もゲームもアクティビティも一緒くたになった、全包囲系のエンタメ産業が生まれようとしているのです。

メタバースは、かつてズッコケてしまった『セカンドライフ』と同じ轍を踏むことはありません。

メタバースブームは一時的なバブルではなく、世界の巨大企業が必然的に向かう本流なのです。


生まれた瞬間から「当たり前」になる時代

「メタバースなんて(笑)」とバカにする人がいます。

2022年1月現在、日本社会にはメタバースに関する3種類の誤解が渦巻いています。

第1に「コンテンツがない状態でメタバースを創ったところで失敗する」という誤解。

第2に「『FF(ファイナルファンタジー)』が昔からあったじゃん。メタバースなんて、それの名前を変えただけでしょう」「ソーシャルゲームなんて、結局メーカーがカネを稼ぎたいだけのものでしょう。そんなものはくだらないよね」という誤解。

第3に「VRの端末を頭にかぶってウロウロするなんて、重いし疲れるから流行らないよ」という誤解。

さてmixiやFacebookが誕生したころ、日本の中高年がなんと言ったかご記憶でしょうか。

彼らは「これってダイヤルQ2と同類だよね」と非難しました。

今の若い人は「ダイヤルQ2」なんて言われても知らないかもしれません。

1980年代終わりから90年代初めにかけて、NTTが「0990」から始まる有料電話番号を開設していました。ここに電話をかけると、テレクラや出会い系・アダルト系のサービスにアクセスできるのです。

もちろんmixiやFacebookを、出会い系やナンパの草刈り場として活用した不届き者もいるかもしれません。

でも99.99%以上の大多数は、mixiやFacebookを新たなコミュニケーション・ツールとして有効活用していったのです。

人は新しく出てくるものを常に、すでにある何かを引き合いに出して強引に考えて本質を見誤ります。

「VRのデバイスを頭にかぶるなんて面倒くさい」と言う人もいるでしょうけれども、3〜4歳のころからそれをかぶるのが当たり前の生活を送っていれば、違和感なんてありません。

昔の人たちにとってみれば「スマホを片手にもって首を曲げている」「あんなに小さな画面をずっと指でこすっている」「コンピュータの前に何時間もずっと座っている」「ヘッドフォンをつけている」といった行動がすべて不自然です。

でもこれからの世界を担っていく若い人たちにとって、これらの行動様式に違和感なんてありません。

生まれた瞬間から当たり前であれば、人間にとってスマホやコンピュータは肉体の一部になるのです。

新しいテクノロジーに触れてみたくなる一冊

『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』は、メタバースを中心とした新たなテクノロジーを丁寧に噛み砕き、理解しやすくまとめられた一冊。

そして、それらが「人格」や「価値観」といった「個」と密接に関わっていることを学べます。

最新技術に抵抗感を覚える人も少なくないと思いますが、人生観にきっとよい影響をもたらしてくれるはず。ぜひ読んでみてください。