初任給が大幅に上がって、やる気もアップ!(写真はイメージ)

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「3%の賃上げ」の攻防戦が続くさなか、なんと大学卒初任給を「約30%アップ」という景気のいい話を打ち出した企業があらわれた。「機動戦士ガンダム」シリーズやプラモデル「ガンプラ」などでおなじみの、玩具大手バンダイナムコ(バンナム)グループだ。

大学卒新入社員の初任給を2022年4月に5万8000円〜6万6000円引き上げて29万円にする。また、社員の基本給も月平均5万円アップするという。インターネット上では「ほかの企業も見習ってくれ!」という称賛と「もともと安いのでは」という声が交錯しているが......。

基本給も全社員月平均5万円引き上げる

報道やバンダイナムコエンターテインメントのプレスリリースによると、バンナムグループは2022年2月28日、今年4月から社員の収入安定による働きやすさ向上を目的に、年収における基本給の比率を高め、基本給を全社員月平均5万円引き上げる新報酬制度を導入する、と発表した。

また、バンダイナムコエンターテインメントは23万2000円から29万円に引き上げる。これは25%アップに相当する。一方、グループ会社のバンダイとバンダイスピリッツもプレスリリースによると、大学卒初任給を従来の22万4000円から29万円に引き上げる。これは29%アップに相当する。グループ内の主な企業の初任給を29万円に統一するわけだ。

この大幅な賃上げの理由について、バンダイナムコエンターテインメントのプレスリリースをみると、次のように説明されている。

「当社は、2022年4月からの新中期ビジョンとして『Connect with Fans』を掲げており、IP(キャラクター等の知的財産)を軸に世界中のファンのみなさまとつながることを目指した新しい仕組みの構築に着手いたします。このビジョンの実現にあたっては、さまざまな分野における多様な人材の活躍推進が必要不可欠であり、このたびの改定に至りました」

バンナムグループは今年2月8日の決算発表の場で、IPメタバースの開発に合計400億円を投資し、データ基盤の構築やコンテンツの開発、新規IPの創出などを目指すと明らかにした。そのための人材確保が狙いのようだ。

「IPメタバース」とは、仮想空間の中で「機動戦士ガンダム」や「アイドルマスター」など同グループのIP(知的財産)キャラクターごとに世界をつくり、幅広いエンターテインメントが楽しめるというもの。デジタル世界の中でそれぞれのキャラクターのファン同士が商品を売り買いしたり、交流したりできるという。

好業績では増えるが、悪化すれば減るボーナスが中心だった

もっとも、今回の大幅賃上げの背景には同グループ独特の「給与体系」があるようだ。

朝日新聞(3月1日付)によると、「年収に占める月給の割合を増やす報酬制度の見直しに伴うもの。収入を安定させることで優秀な人材の確保につなげたい考えだ」とある。また、「ボーナスは業績に連動して金額が決まる仕組みで、好業績のときは増えるが、悪化すれば減る」という仕組みで、これまでは変動が大きかったようだ。しかし今後は、収入を安定的にしたいということらしい。

今回の「新入社員の給与30%アップ」にはヤフーニュースのヤフコメ欄でも大いに盛り上がっている。

千葉商科大学国際教養学部准教授で、「社会格闘家」の常見陽平氏はこう指摘した。

「バンダイナムコグループとして、どのような企業を目指すのか、旗幟を鮮明にした施策だ」「メーカー的な考え方から、プラットフォーマー、コンテンツプロデューサーを志向したものに明確に舵を切った」「ヒット商品があった場合は外資系企業や、総合商社も驚くような利益分配金が出る企業グループではあった」「これは必ず約束されるわけではなく、年による振れ幅も大きかった。基本給を上げることは従業員、求職者に安心感を生むし、リスクのある挑戦、中長期の取り組みもしやすくなる」

今回のねらいを評価しながらも、こう疑問を呈した。

「エンタメ企業だけにもっと驚きのある人事制度を期待したかった。5年遅い(中略)。ちょうど新しい中期経営計画が始まる。第二、第三のサプライズを期待」

「初任給23万円って、30年以上前の私と同じ」

ほかにもヤフコメ欄では、さまざまな意見が飛び交っている。まず目につくのが、企業規模や業績のわりに「そもそも初任給が安すぎるのでは」という疑問が相次いだ。

「(バンナムの)初任給23万円って、私の30年以上前の初任給と同じなんですが、そっちがびっくりだ」
「初任給23万円は正直安すぎますよね。やはり優秀な人材を確保したいならそれなりに給料上げないと、いまや来てくれないですからね。ただでさえ、最近は育てたらみんな転職してしまう時代ですから、しっかり定着してもらうのが企業側からしたら、最優先課題でしょう」

一方で、「29万円の初任給」をうらやむ声も多い。

「ウチの会社は東証一部のIT系だが、給与規定に沿った定昇(年齢による昇給分)を実施し、各社員の前年比昇給率の平均を取った数値を、政府が求めている3%の賃上げと比較して『達成した』or『していない』を議論している」「ちゃんとやっている感をすごく出しているのだが、(中略)ベースアップは何年もなく、物価が上がっても初任給が変わらない新入社員の人はどんどん生活水準が低くなっていく」「初任給引き上げにともなうベースアップは、社会的責任を負うような大企業には責務だと思って身の丈に合わせてやってもらいたい」
「採用をしていますが、10年20年後に若手の労働者人口がさらに減ることを考えると、今確保していかないとどんどんスカスカな会社になってしまう」「ここで躊躇していると、外国人労働者に頼る未来しかないから、どれだけ日本人を確保できるかが勝負」「あとあわせて今取り組んでいるのはシニア層の確保ですね。まだまだ元気な60代の労働力をどう生かすか、(中略)製造現場の仕事を見直して60代以降の方にも負担なくできる業務を切り分けて新しい部署を作っています」

ITツールを構築する「無名の人たち」にビッグな報酬を!

人材活用に賭けるバンナムの姿勢を評価する意見も多かった。

「ITツールを利用して億を稼ぐ、例えばYoutuberばかりに富が集中する仕組みではなく、ITの根本的なシステムのツールを構築する『無名の人たち』にも報酬がそれなりに配分されるという当たり前の仕組み。これがスタンダードになるべき。バンダイさんの取り組みが多くの企業でもそうなる世の中に(なってほしい)」

ただし、冷ややかな意見もある。

「これはナムコがよりいっそう少数精鋭体制で会社を運営しますというメッセージだと思う。使えなければ退社せざるを得ない環境だと思いますよ」
「初任給引き上げは大賛成だが、40歳過ぎて働きが落ちてきた社員へのあからさまな減給や解雇には反対。社会人であれば40歳を過ぎる頃には育児や介護といった家庭の事情で働きが落ちることもある」

なかにはこんな意見もあった。

「ガンダムでいう地球連邦のエリート部隊、ティターンズのような雰囲気がしてきた会社になってきましたね(笑)。エゥーゴではないな(笑)」

わかる人にはわかるオチが決まり......お後がよろしいようで。

(福田和郎)