Amazonプライム・ビデオで全10話配信中の婚活サバイバル番組『バチェラー・ジャパン』シーズン4は「過去最低のモラル」から「過去最高の感動」へと視聴者の評価が大きく変わる(写真:Amazonプライム・ビデオ)

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

4代目バチェラーは再生の旅

Amazonプライム・ビデオの看板番組の1つ、婚活リアリティショー『バチェラー・ジャパン』の最新シーズンは「過去最低」から「過去最高」へと視聴者の評価が変わるほど見せ場十分の全10話でした。その分、視聴者の反応も熱狂的になりがち。4代目バチェラーを務めた中国出身の実業家である黄皓(こう・こう)さん本人はリアリティショーそのものをどのように捉えているのでしょうか。


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バチェラー・ジャパン』はアメリカの人気番組の日本版。「バチェラー」と呼ぶ、成功を収めた1人の一般独身男性を巡って、パートナーの座を勝ち取るために、結婚適齢期の女性たちが競い合う「婚活サバイバル番組」です。制作費をかけて、非日常的な環境を作り出し、デートの舞台はヘリコプターやクルーザーなど豪華さも売り。各々正装で決めたカクテルパーティー後に執り行われる「ローズセレモニー」ではコマを進む女性にバチェラーから番組を象徴するローズが渡されるというお決まり事があります。わかりやすいルールが詰め込まれた番組フォーマットであることも人気の理由にあります。

2017年2月のシーズン1の配信からシーズンを重ねるたびに反響を呼び、バチェラーはもちろんこと、一般参加の女性ひとりひとりにも注目が集まり、リアリティショーの中で知名度の高さは1、2位を争います。出演後の動向まで報じられることも多々あり。2019年秋公開『バチェラー・ジャパン』3に出演し、番組初の“バチェラー婚”にまで発展した実業家の友永真也さんとブドウ農家の岩間恵さんは“しんめぐ夫妻”として今もなお話題を提供しています。そして、バチェラーファンを着実に増やしてきたわけです。

シーズン4に突入した最新シーズンは2021年11月25日からAmazonプライム・ビデオで独占配信がスタートし、12月16日に最終話が配信されたところ。4代目バチェラーの黄皓さんと言えば、既にバチェラーファンの間では知られた人物でした。バチェラー男女逆転版の2020年秋に配信された『バチェロレッテ・ジャパン』シーズン1に出演し、バチェロレッテの福田萌子さんに最後の最後で振られてしまった方だったからです。「あのときの後悔を活かして、自分にとって再生に繋がる旅にしたい」という気持ちで臨んだ黄さん。バチェロレッテのときとは印象さえ変わるような弾けた姿を見せていました。

あざとい女性たちの恋愛戦略

バチェラーファンの一部から「過去最低のモラル」と言われてしまうほど、物議を呼んだシーンも満載でした。複数の女性と交わすキスやハグ、お泊まりがこれまでのバチェラーとは異なる流儀だったことが要因です。海外のリアリティショーでは当たり前の光景ですが、紳士的な男性像を求めがちの日本では少々刺激が強かったのでしょうか。これについて黄さんに直接尋ねたところ、率直な答えが返ってきました。

「自分が思った通りに動くのが正解なのか、向き合ってくれるすべての女性のことも考えながら進むのが正解なのか、そして番組としての正解は何か、葛藤は多かったです。でも、自分の素を見せて、隠し事なく出し切るからこそ、人間っぽい。キレイなものを見たければ、韓国ドラマを見ればいいわけで、非合理性をそれぞれの価値観で楽しむのがリアリティショーの醍醐味だと思っています」

そもそも恋愛は非合理的。嫉妬や不安を見せる場面は視聴者が感情移入しやすく、モラルに対する考えの違いは大きく出やすいのです。

一方、このキス事件を取り巻くゴタゴタはかえって参加女性の中から“推し”を生み出しやすい構造が作り出されていたとも言えます。キャラクターが強調され、各々の恋愛戦略の考え方さえも見えてきたからです。バチェラーに選んでもらうために待ってばかりの作戦だけでなく、引き技や攻め時の狙いなど、女性たちのあざとい心理戦も楽しめるものになっています。


バチェラー・ジャパン』最新シーズンで4代目バチェラーを務める黄皓さん(写真右)。白川理桜さんら参加女性と向き合う旅を展開する(写真:Amazon プライム・ビデオ)

そんな恋愛上手な女性から恋愛未経験者まで、バチェラー4に出演した参加女性は過去最多の応募数約1700名から選ばれた15名(後から2名追加、計17名)で構成されています。あざとい女性代表は元アイドルのパン教室講師の休井美郷さん(30歳)とマツエクサロン経営の中野綾香さん(29歳)のツートップ。「どうせ、私がナンバーワン」がキャッチフレーズのインフルエンサー桑原茉萌さん(23歳)のキャラクターの強さも目立ちます。鍼灸師の藤原望未さん(25歳)やアニメーション会社勤務の白川理桜さん(27歳)、建設事務所事務の青山明香里さん(24歳)、パーソナルトレーナーの秋倉諒子さん(30歳)は内面からも醸し出される美しさゆえに推しが多そうです。


4代目バチェラー黄皓さん(写真左)と「どうせ、私がナンバーワン」がキャッチフレーズのインフルエンサー桑原茉萌さん(写真:Amazon プライム・ビデオ)

番組のキャッチではサバイバルバトルを謳っていますが、回が進むほど、蹴落とし合いよりむしろ、最近のリアリティショーで傾向が高い参加者同士の友情も育まれていきます。バチェラーだけでなく、参加女性も主役となって映し出されていることに好感を持てます。そして、これら参加女性17名から黄さんに選ばれた3人が実家の家族を紹介するまで進み、さらに残った2名は黄さんの家族と対面した後、最終的な判断が下されます。すでに最終話まで公開済みですが、結末に向けて「過去最低」から「過去最高の感動」に変わっていきます。

「見る側のリテラシーも上がっていくべき」と指摘

バチェラー・ジャパン』シリーズは番狂わせも付き物。黄さんが最後にローズを渡すのか、もしくは渡さないのか。そんな臆測も飛び交いながら、ここではあえて結末は伏せますが、誰もが納得の婚活リアリティショーにふさわしいラストを迎えます。恋愛戦略以上の誠実さが勝利を収める結果に心が洗われてしまうほど。この着地点にバチェラー人気はまだまだ続いていきそうな勢いさえ感じます。


4代目バチェラー黄皓さん(写真左)と鍼灸師の藤原望未さん。参加女性も主役となって映し出される(写真:Amazon プライム・ビデオ)

興味関心が集まれば集まるほど、一般参加者が主役のリアリティショーにはリスクも伴います。過去に不幸な事故も起こり、参加者のメンタルケアの重要さも問われています。リアリティショーに参加した当事者として、黄さんにこの辺りについても思いを聞きました。

「僕の場合は多少の誹謗中傷は気になりません。エゴサをするといろいろと書かれていることもありますが、1つの声だと捉えて、見たくないものは無視します。ただし、誰でも当たり所やタイミングが悪いと何が起きてもおかしくない。ケアのしようがないこともあります。だからこういう状態を作らないように周りがサポートする必要はありますね。リアリティショーが増えていくと同時に見る側のリテラシーも上がっていくべき。見る側もモラルを持って楽しんでほしいと思います」

制作側もSNS監視などで被害を最小限に抑える体制も必要でしょう。ちなみに、中国「三国志」に登場する武将は黄さんと同姓同名。諸葛孔明死後に現れた小悪党として扱われているため、この武将に関するネガティブワードは多そうです。

「最低」から「最高」まで評価の幅が広い分、今シーズンはバチェラーファンの熱も入りやすかったのかもしれません。感情が揺れ動く恋愛のリアルをショーとして楽しめると、ラストに行き着いたときの感動の共感を大いに味わえそうです。