激動2021年「視聴者に刺さったCM」納得の共通点
au「三太郎」シリーズ(写真:KDDI)
長期化するコロナ禍により、私たちの生活スタイルや働き方が見直された2021年。テレビCMにもさまざまな変化が見受けられた。以下、人々の心を捉えたヒットCMを中心に、この1年のCMシーンを振り返ってみる。
2021年度(2020年11月度〜 2021年10月度)に東京キー5局でオンエアされたCMの総数は2454社、6737商品、1万4742作品を数え、企業数、商品数、作品数はいずれも前年度を上回った。
またこの1年にCMを開始した新参入企業数は4年連続で増加し、観測を開始した2002年度以降、最多を記録した。ニューノーマルに対応した商品・サービスを中心に、CMを活用した広告活動の活性化を象徴する結果となった。
KDDI『au』が7年連続トップに
2021年度の銘柄別CM好感度ランキングでは、KDDI『au』が7年連続の首位に輝いた。松田翔太、桐谷健太、濱田岳らが出演する「三太郎」シリーズ、神木隆之介らが出演する「意識高すぎ! 高杉くん」シリーズを中心に多くの支持を集めたほか、オンライン専用の料金プラン『povo』のCMなどを展開した。
KDDI『au』「つながる歌」篇(動画:auのYouTubeチャンネルより)2位はソフトバンク『SoftBank』。ブルース・ウィリス、広瀬すずらが出演する『ドラえもん』を実写化したシリーズをはじめ、NiziU、V6らとコラボしたコンテンツ配信サービス『5G LAB』など多彩な展開で好評価を獲得した。
3位はNTTドコモ『NTT DOCOMO』。綾瀬はるかが「あなたと世界を変えていく。」という新ブランドスローガンをアピールするCMや、森七菜と神尾楓珠を起用したオンライン手続きプラン『ahamo』のCMなどが快走した。以下、通信系のCMが6位までを占めたほか、フードデリバリー関連のCMも上位に入った。
本年度のCMの傾向を見ると、“withコロナ”といった新しい生活様式の中で奮闘する人々を温かくねぎらい励ますCMが多くの支持を集めた。大塚製薬『カロリーメイト』のCMは「見えないものと闘った1年は、見えないものに支えられた1年だと思う」などの語りとともに、受験生と教師の心の交流を描いた。
CM総合研究所はCM好感度年間No.1ブランド「BRAND OF THE YEAR」、および優れたCM展開で業績の向上に貢献した「消費者を動かしたCM展開」を12月9日に発表した
ゼスプリ インターナショナル ジャパン『ゼスプリ キウイフルーツ』は“キウイブラザーズ”が筋トレに挫折した“バナナ先輩”を「ヘルシーは楽しもう」などと励ますCMがヒット。
アサヒビール『アサヒ生ビール(通称マルエフ)』は新垣結衣が「日本のみなさん、おつかれ生です。」と呼びかけるCMで好評価を獲得した。花王は上野樹里らが会社員を演じる『めぐりズム』『バブ』のCMを放送。「休み、休みで、いきましょう。」などのコピーで展開し、休息や休憩を取り入れた働き方を提案した。
多様性やSDGs関連のCMに共感が寄せられた
また、多様性やSDGsなどの社会課題を生活者に寄り添う視点で描くCMにも共感が寄せられた。『GU』は中条あやみら8人の女性がSNSでの心ない発言を前向きな言葉で切り返すCMを国際女性デーである3月8日に1回限定で放送した。『UNIQLO』は女性同士のカップルの日常に「ふたりがしたいことは、みんなが普段着でしていること。ただ、それだけなのだ」という綾瀬はるかの語りなどを重ねたCMをオンエア。
サントリーホールディングスは「#素晴らしい過去になろう」をスローガンに、スギちゃんや横澤夏子らが自身の子どもを慈しむ姿を映すCMを展開。未来の象徴である「わが子」と「やがて過去になる親」を温かく描き、未来に向けて水を育む同社の水源涵養活動について伝えた。
大王製紙『アテント』は草磲剛が紙パンツや介護について語るCMなどを引き続き展開。P&Gはバリアフリー活動家でYouTuberの高橋尚子氏を起用して『パンテーン エフォートレス』のCMを開始した。手が不自由で寝ぐせ直しに苦労していた彼女が、洗うだけで寝ぐせがつきにくくなるという使用感を語る内容だ。『メルカリ』は草磲剛らが「♪それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」などと歌うCMをオンエア。
東京2020大会関連では、三井不動産が「どんな世界になっても、スポーツは私たちを夢中にさせる」といった語りのもと、広瀬すずやアスリート、さまざまな人種、地域の人々がスポーツを楽しむ様子を描くCMを放送し、多く支持された。
CM総合研究所は消費者3000人を対象とした月例CM好感度調査に基づき、優れたCM展開で業績の向上に貢献した「消費者を動かしたCM展開」130銘柄を発表した。また、そのうち「時代性」「話題性」「影響力」に優れ、本年度を象徴する17銘柄を「消費者を動かしたCM展開 特別賞」に決定した。
若年層に支持された「イカよけダンス」CM
今回は同賞より、2ブランドのCMを紹介したい。
まずひとつ目は日清食品『カップヌードル』。早見優の『夏色のナンシー』のメロディーで「♪イカかな?」などと繰り返す歌をBGMにしたアニメーションCMがヒットし、2020年11月度にはカップヌードルブランドとして23年ぶりのCM好感度総合1位に輝いた。
このほか、天井や壁などから飛んでくるイカをよけながら踊る人物を描いたアニメーションCMも好調でブランドのスコアを牽引。また分割された画面で8商品のCMを同時に流す作品や、“チーズ星人”が自身の頭を削るCM、SNSで話題となった人物やキャラクターなどをモチーフとしたキャッチーな作品を次々に展開し、若い世代を中心に高く評価された。
カップヌードルCM「イカよけダンス 篇」30秒(動画:日清食品グループ公式チャンネルより)同社によると発売50周年を迎えたカップヌードルは4期連続ブランド最高売上を更新中で、さらに100年続くようなブランドにすべく、主に次世代ユーザーとなる若年層に向けてカップヌードルの“選べる楽しさ”をバリエーション商品などのCMでアピールしたという。
続いて紹介するのは、BASEが運営するネットショップ作成サービス『BASE(ベイス)』。CMを開始した2018年より香取慎吾を起用し、2020年11月からは香取が「ネットでお店を開くならBASE」という言葉を聞き間違えるCMを放送。2021年6月度には香取が“BASE 利用者”、山本舞香や角田晃広が“BASE 偏見派”に扮してダンスバトルをするシリーズがヒットして初のCM好感度トップ5入りを果たした。
山本率いる偏見派に「♪ネットでお店を開くのは面倒くさいの?」と攻められるも、香取ら利用者が「♪超カンタン!」と応えるCMで、角田出演作も同様に展開。主婦層を中心に得票し、前年度の9倍以上のスコアを獲得した。
【BASE】偏見派と利用者の抗争・角田晃広篇(動画:BASE公式チャンネルより)本年度のCMについて同社に聞いたところ、コロナ禍で高まるECサイト開設のニーズを受け、認知拡大を狙ったとのこと。過去のCMで好評だったメロディーを軸に記憶に残る表現を作り、SNSなどでの展開も強化。媒体に合わせて効果を最大化するためABテストで表現の検証を繰り返すとともに、放映枠も解析を行いながらプランを構築し、前年比で認知度は170%※、指名検索数は192%を実現したという。(※インターネット調査会社調べ。期間:2021年5月〜10月)
“おうち時間” を心地よく過ごすためのCM
本年度の「消費者を動かしたCM展開」には “おうち時間” を心地よく過ごすための商品・サービスのCMが目立った。フードデリバリーサービスをアピールした『Uber Eats』『出前館』をはじめ、テイクアウトも積極的に訴求した日本マクドナルド、ゼンショー『すき家』などのファストフード、『BASE』や『メルカリ』といったEコマース関連のCMが選出されている。
また飲食店の営業時間短縮などを背景にキリンビール『キリン ホームタップ』、サントリースピリッツ『こだわり酒場のレモンサワー』の瓶タイプの商品など、“家飲み”関連のCMも顔をそろえた。またNiziUがビーズソファでくつろぐウェブシャーク『Yogibo』のCMなど、“巣ごもり需要”を狙ったCMが多かった。 このほか滝藤賢一と横澤夏子が経理部員を演じるラクス『楽楽明細』のCMといった業務のDX化を目指したBtoB向けサービスのCMも見受けられた。