科学を信頼している人ほど「疑似科学を信じてしまいやすい」ことが判明、一体どうすれば偽情報から身を守れるのか?
新型コロナウイルスのパンデミックは、専門家の意見に耳を傾けて対策を徹底することがいかに重要かを浮き彫りにしました。しかし、新しい研究により、科学への信頼感が高い人は疑似科学にだまされて偽情報を拡散してしまう可能性が高いことが判明しました。この結果から研究者は、「科学を信頼するのは大切なことだが、やみくもに科学を盲信せず、時には自分で考えたり批判的な観点で見たりするのも大事」と指摘しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022103121000871
Misplaced Trust: When Trust in Science Fosters Pseudoscience | Annenberg
https://www.asc.upenn.edu/news-events/news/misplaced-trust-when-trust-science-fosters-pseudoscience
Research: Trusting science makes Americans vulnerable to pseudoscience
https://journalistsresource.org/health/trust-science-pseudoscience-misinformation/
「科学を装ったうそは、人を簡単にだましてしまいます」と語るのは、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の心理学者であるドロレス・アルバラシン教授です。例えば、「新型コロナウイルスのワクチンには汚染物質や危険な成分が含まれていることが判明した」といった主張が、科学を装った偽情報の好例とのこと。こうしたフェイクニュースの中には、論文や専門用語を巧みに使って科学的であるかのように偽装したものがあるため、科学を信頼している人がだまされてしまう危険性があると、アルバラシン教授は指摘しています。
科学を信頼する人が疑似科学の影響を受けやすくなるのかどうかを確かめるため、アルバラシン教授らの研究チームは、合計約2000人のアメリカ人を対象に2本の科学記事を使った実験を行いました。実験の中で被験者は、「アメリカ政府が『ヴァルザウイルス』という生物兵器を秘密裏に開発したと著名な科学者が告発している記事」と「遺伝子組み換え作物を食べたマウスに腫瘍ができたとする論文を取り上げた記事」を読んで、それが事実かどうかや拡散すべきかどうかの質問に答えました。
なお、「ヴァルザウイルス」は存在しない架空のウイルスで、遺伝子組み換え作物に関する論文は内容の不備で撤回されたものでしたが、いずれも被験者には伏せられていました。また、被験者の科学に対する信頼度を測定するため、「科学者は真実に基づいて行動するので研究結果がねつ造されることはほとんどない」といった文章にどの程度同意するかのアンケートを実施したほか、科学をどの程度理解しているかを測定する選択式のテストも行われました。
一連の実験の結果、科学への信頼度が高い被験者は、科学的な内容が含まれている偽情報を信じる可能性が高く、疑似科学の記事を他の人と共有しようとする割合も高いことが分かりました。一方、科学的な方法論について精通している人は、偽情報の中に科学的な記述があっても、それを信じたり共有しようとしたりする可能性が低かったとのことです。
この結果について、アルバラシン教授は「科学への信頼は、科学分野への投資についての国民の理解を高め、科学教育を強化し、信頼できる情報源とそうでない情報源を区別する上で重要です。しかし、科学を信頼すれば全ての問題が解決されるわけではありません。なぜなら、信頼しすぎて批判の精神を忘れてしまうと、疑似科学の影響を受けやすくなってしまうからです」と述べました。
科学についての理解度が高かった人は疑似科学にだまされにくかったことから、研究者らは科学リテラシーや批判的思考を身につけることの重要性を強調しています。「人々は科学がどのように機能し、どのようにして結論を導き出すのかをよく知る必要があると思います。大切なのは、むやみに科学を信じるのではなく、批判的な観点から情報の真偽を吟味する方法を理解することなのです」とアルバラシン教授は話しました。
また、論文の共著者であるイリノイ大学のトーマス・オブライエン氏は「科学について取り上げる記事を書くジャーナリストには、学術的な文献に頻出する用語を勉強することを推奨します。例えば、『無作為化』とは何なのか、論文の査読にはどんな限界があるのかといった事柄は、間違いなくジャーナリストがよく知っておくべきことです」と述べました。