「問い」が「答え」よりも大事な理由

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政治について、筆者は無党派層です。そんな筆者でも、9月の自民党総裁選から10月の衆議院選挙は、なにか面白い変化が起こるのではないかと期待したのですが、残念ながら大山鳴動してねずみ一匹という印象でした。

結局、ラディカルな改革派として活躍してきた河野太郎氏は総裁選に敗れて、リベラルでありながらも安倍元首相の意向を忖度しがちな岸田文雄氏が自民党総裁となりました。

立憲民主党と日本共産党の歴史的な妥協ともいうべき選挙協力も不発に終わり、政権交代もならず、立民の顔ともいうべき枝野幸男氏の代表辞任となりました。

自民党の現役幹事長だった甘利明氏の小選挙区敗退や、初代デジタル大臣の平井卓也氏、かつてキングメーカーと豪腕を振るった小沢一郎氏、野党の顔の一人だった辻元清美氏の落選など、「世代交代」が話題にはなりましたが、全体的には、大きな変化は無かったと感じています。

大きな変化を期待する理由

画像:Dmitry Demidovich/Shutterstock

いまの日本は完全にジリ貧状態にあります。1997年を100とした実質賃金の比較で2020年は韓国:157.9、スウェーデン:139.6、フランス:131.7、イギリス:129.7、ニュージーランドが127.7、ドイツ:124.7、米国:122.2、スペイン:120.4、イタリア:117.6といずれも上昇しているのに対し、日本だけが90.3と大きく減退しています(※1)。

普段生活をしていると、さまざまなデジタルサービスが無料で利用でき、宅配便はすぐに届き、公共のトイレはキレイで、100円ショップで何でも買える、などなど昭和の頃に比べると私たちの暮らしはとても便利で快適になっていると日々感じます。

しかし、一方で世界中を席巻したメイドインジャパンの魅力はかなり減退していると言えます。もはや、日本の製品が安くて優秀すぎると国際摩擦になることはありません。身近なテクノロジー製品の代表であるスマートフォンの世界シェアを争っているメーカーは、サムスン(韓国)、Xiaomi(中国)、Apple(米国)、OPPO(中国)、vivo(中国)などで、日本メーカーの名前が存在したことは過去ありません。ソニーですら、日本国内で細々とやっているローカルメーカーに過ぎないのです。

「失われた10年」が「失われた20年」「失われた30年」になってジリ貧の日本において、大きな変化が必要ではないかと思い、期待をしたのですが、岸田首相の就任時の所信表明には「改革」の2文字がまったくなく、弱者への分配を重視する姿勢は評価しつつも、今後日本に大きな成長があるのか、不安を感じる部分でもあります。

チャンレンジャーが成功する理由、失敗する理由

河野太郎氏が総裁選に負けた理由も、立憲民主党が政権奪取に失敗したのも、専門家によれば様々な政治的な力学があるのでしょう。しかし、端的に言えば結果だけを求めすぎたのではないでしょうか。

河野太郎氏も立憲民主党も、既存の権力に挑むという点ではチャレンジャーでした。 チャレンジャーとはつまり、不利な状況に置かれつつも明確な課題を設定し、それを解決すべく挑戦する人たちです。

過去の日本の政治シーンで言えば、郵政民営化を争点にしたり「自民党をぶっ壊す」をキャッチフレーズにして大ブームを巻き起こした小泉純一郎氏や、高速道路無料化や沖縄の基地返還を掲げて一度は政権を奪取した民主党、 やはり出身母体である自民党との対決姿勢をウリにした東京都知事の座を手にした小池百合子氏などは、チャレンジに成功した例だと思います。政権奪取のチャレンジの成功者たちの特徴は、争点が明確に見えたことです。課題設定がうまくできていたと言えます。

素人視点からで大変恐縮ですが、河野太郎氏も今回の立憲民主党も政権を奪取すると言う「結果」にばかりフォーカスして、きちんとした争点を提示することができなかったように見えます。

例えば、河野太郎氏は原発反対を長く唱えてきたのに、総裁選になった途端に舌鋒が鈍くなってしまいました。それ以外もトーンダウンが多く、期待された党員票が伸び悩んだとされます。第一回投票での岸田文雄氏との差はわずか1票差でしたから、党員票がもっと伸びていたら勝てていたはずです。

民主党と共産党の選挙協力は、小選挙区制度の宿命として候補者が増えると死に票が多くなる問題があり、前回衆院選の得票数を単純計算すると、自民党より野党の合計の方が多かったという事実から、根本的に政策が異なる点もある2党が協力に到ったそうです。

河野太郎氏も立民・共産も、「政権を取る」という結果にばかりフォーカスして、チャレンジの大前提である、「日本をどう変えるか」という部分が明確にできなかったのが敗因だったと思うのです。政権という結果=答えを出すこと急ぎ過ぎて、「日本はどう変わるべきか」という問い=争点を明確にできなかった。それが、彼らが選ばれなかった理由なのではないでしょうか。

ビジネスも「問い」が大事

画像:Peshkova/Shutterstock

上記のようなことを考えたきっかけは、佐渡島庸平さんの『「問い」があると、企画はおもしろくなる。』という文章を読んだことがきっかけです。日本テレビのバラエティ番組『世界の果てまでイッテQ!』が不動の人気番組になる課程において、番組作りのテーマに「答え」から「問い」への転換があり、そこから佐渡島氏が手がけた人気漫画『宇宙兄弟』や『インベスターZ』の企画にも大きな「問い」が設定されていた、という話です。

結果を急いで提示するよりも、みんなが熱く考えたくなる「問い」を立てることが大事というのは、政治や作品作りだけの話ではなく、普段の僕らのビジネスでも大切なことです。なにかを売る、売上を上げるという結果や成果を出すことにばかり囚われていると、逆に結果を出せないことがあります。

筆者は、WebメディアのPVを増やす施策を考え、実行するコンサルティングを本業としていますが、短期間で数字を出すことに拘って、世間で流行っていることを追いかけても、一定以上の数字を出すことはできません。なぜこの記事が読まれているのか、なぜこの分野がいま人気があるのか、という理由をきちんと考え、その理由を元に次の手を打っていかないと、常に後手後手になって大きな成果を得ることができません。

人気があるとわかっている分野はみんながこぞって参入するレッドオーシャンです。そこで無理な体力勝負の競争をするより、自分たちだけのブルーオーシャンを先に見つけたり、作り出したりすることが、現代の超成熟社会を勝ち抜いていくために必要なのだと考えています。

そのために、売上やPVという結果=答えよりも、なぜ売れているのか?と問い続け、仮説を立て、実行して結果を検証するPDCAを確実に回していくことが大事なのです。

(文/根岸智幸)