サン宝石のカタログには小遣いの範囲内で買えるプチプラ雑貨が並ぶ

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「非常にありがたいことに、注文が殺到してサーバーダウン。1日800万円もの売り上げが立つほどでした。ニュースをみて、『買って応援しよう』と思っていただいたおかげです」

そう語るのは、「株式会社サン宝石」専務の渡邊駿さん。

’65年に創業し、女子小中学生向けにアクセサリーや雑貨、ファンシー文具などの通信販売を手掛けてきたサン宝石。1円代から購入できるアクセサリーや文房具などが並んだカラフルなカタログが代名詞だ。

しかし、そんなサン宝石に危機が訪れる。

8月27日、民事再生の申し立てを行ったのだ。渡邊さんによると“女性の7割が認知”していると言われる同社の経営危機はたちまち大きな話題となり、冒頭のように“元少女”たちによる買い支え運動も巻き起こったという。

渡邊さんに強固なブランド力を持ちながらも経営危機に陥った経緯と、今後の見通しについて話を聞いた。

渡邊さんも「雑誌に掲載された広告をみてサン宝石を知った人が多いのでは」と語るように、サン宝石と読者を繋ぐ最大の“タッチポイント”がティーン向けファッション誌やマンガ誌に出稿された雑誌広告だ。

しかし、歯止めの効かない出版不況によりこれらの雑誌の部数が減少し、それにともなって新規顧客が激減していく。

「雑誌の発行部数の減少に伴い、メインの顧客である小中学生の子供たちへの周知が難しくなったのです。2度の値上げも行ったのですが、顧客が減った分の穴埋めにはつながりませんでした」(以下、カッコ内はすべて渡邊さん)

日本雑誌協会によると、少女向けコミック誌発行部数トップの「ちゃお」(小学館)でさえ、’08年の92万部(4月〜6月期)から、’21年4月〜6月期には約20万部とその部数は13年間で4分の1以下に減少。サン宝石も苦境に立たされる。

「’20年には顧客獲得の重要な手段となっていた雑誌への広告出稿も停止しました。通販の売上減少が続く中、’11年に誕生したキャラクター・ほっぺちゃんの人気で、一時的に売り上げが持ち直したのですが、顧客減少に対する根本的な解決策にはなりませんでした」

’02年より展開していた直営店「ファンシーポケット」での販売にも苦戦した。

「最盛期には、全国に44店舗を展開していました。当時は、ファンシー雑貨を身近で購入できない地方都市で、弊社への需要が高かったんです。しかし今は、どの町にも大型ショッピングセンターや100円ショップがある。わざわざ弊社を利用する意味がなくなってしまいました」

■子供向けネット販売に立ちはだかった“お母さまフィルター”

同社も時代の変化に応じて従来の雑誌や店舗中心の販売から、インターネット主体の販売への転換は図ってきた。しかし、顧客の特徴上その流れに乗るのにも限界があったようだ。

「そもそもスマホを持っているかも微妙な小中学生に、ネット広告でサン宝石の存在を広めるのは難しかった。ECサイトへの流入も、デジタル広告ではなく紙のカタログからの流入がメイン。そのため、紙媒体に触れる顧客数が減ると、ECサイトでの売り上げも減少しました」

さらに、かつてのハガキに商品番号を記入しての注文に対し、ネット上での注文は、メイン顧客である小中学生にとってハードルが高かったという。

「お子さまが商品を注文する場合、お母さまのスマホで注文することになるため、“お母さまフィルター”がかかります。弊社の商品の多くは、大人にとっては実用性のない”くだらないもの”。そのため、“こんなもの買わなくていいんじゃない”と言われてしまうようで……。ハガキで注文する際にも、16歳未満の場合は、保護者のハンコが必要でしたが、その際に細かく注文内容をチェックする方は少なかったのではないでしょうか」

時代の変化に押され、民事再生に踏み切ることとなったサン宝石。しかし、ピンチをきっかけに、チャンスの萌芽も出てきているという。

「民事再生は世の中的に倒産手続きという捉え方でしょうから、ブランド価値を損なうのではという危惧をしていました。しかし、お客様から多くの応援メッセージや商品購入をしていただいたおかげで、かえって事業の価値が高まったんです」

今後は、クラウドファンディングを通じて、事業継続のための資金調達にも挑戦する。民事再生手続きの申し立てから再生計画の承認までのあいだにクラウドファンディングによる資金調達をするのは、国内で初めての試みだという。このクラウドファンディングに踏み切ったきっかけも、ニュースを知ったかつての顧客からの問い合わせだったそうだ。

「今回の報道を知ったお客様から、『私がクラウドファンディングしてお金をお渡ししたいと思うんですが、できますでしょうか?』とのお問い合わせをいただきました。それはさすがにできませんので、『お気持ちだけで十分です』と申しあげたんですが、そのことが実施のきっかけになったんです」

細かな実施内容は確定していないが、事業継続ための資金調達を目的に、9月中もしくは10月初旬からの実施になる可能性が高いという。返礼品として、昔のカタログを送付するプランも検討しているそう。

「“なくならないで”とか、“思い入れがある”というお声をたくさんいただいています。ありがたいご声援を受けながら、このまま終わらせるのはもったいないと、いろんなスポンサーの方も手を上げていただいております。皆様のご協力を基に、必ず事業を正常運転できるよう再生していきたいと思っています」

大人にとっては“くだらない”かもしれないが、子供にとっては宝石のように価値がある商品を、昭和・平成と日本中の女子に届けてきたサン宝石。今回の出来事は、令和の子供たちにも、そんな喜びを届けるための新たな門出となるだろう。