14万年〜12万年前の「未知の人類」の化石を発見、現生人類と文化的交流があった可能性も
2021年6月24日、イスラエルのテルアビブ大学やヘブライ大学などの研究チームが、イスラエルのラムラ近郊にある「Nesher Ramla(ネシェル・ラムラ)遺跡」で発見された14万年〜12万年前の化石が、これまで分類されていなかった「未知の人類」のものであると発表しました。「Nesher Ramla Homo(ネシェル・ラムラ・ホモ)」と研究チームが呼んでいるこの人類は、ネアンデルタール人と類似した生物学的特徴を持っているほか、ホモ・サピエンス(現生人類)と文化的交流があった可能性も報告されています。
https://science.sciencemag.org/content/372/6549/1424
Middle Pleistocene Homo behavior and culture at 140,000 to 120,000 years ago and interactions with Homo sapiens | Science
https://science.sciencemag.org/content/372/6549/1429
A new type of Homo unknown to science | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2021-06/tu-ant062321.php
A Previously Unknown Type of Ancient Human Has Been Discovered in The Levant
https://www.sciencealert.com/scientists-have-found-hints-of-a-previously-unknown-type-of-ancient-human
'Homo' who? A new mystery human species has been discovered in Israel
https://theconversation.com/homo-who-a-new-mystery-human-species-has-been-discovered-in-israel-163084
問題の化石は、ヘブライ大学のYossi Zaidner博士らがネシェル・ラムラ遺跡で発掘したものであり、地面を8メートルも掘り下げた地点から動物の骨や石器などと共に発見されました。化石は頭蓋骨のうち上半分の丸い部分である頭蓋冠の一部と、ほぼ完全な歯根付きの臼歯を含む下顎骨からなっており、研究チームは14万年〜12万年前のものと推定しました。
研究チームはソフトウェアを用いて発見した化石の仮想的な再構築を行い、ヨーロッパやアジア、アフリカで発見されたさまざまな人類の化石と比較したとのこと。その結果、下顎骨や臼歯はネアンデルタール人と似た特徴を持っていたものの、頭蓋冠はネアンデルタール人よりさらに古いヒト属の特徴を持っていることが判明。また、ネアンデルタール人や初期のホモ・サピエンスより骨の厚みがあったことも指摘されています。
14万年〜12万年前、イスラエルを含む東部地中海沿岸(レバント)に住んでいた人類はホモ・サピエンスかネアンデルタール人だけだと思われていましたが、この化石はどちらでもない未知の人類が同時代、同地域に生息していたことを示すものです。研究チームはこの化石を「ネシェル・ラムラ・ホモ」と名付け、約40万年前からこの地域で暮らした最後のヒト属の一種ではないかと推測しています。
かつて、ホモ・サピエンスがアフリカを出たのは12万年前頃だと言われていましたが、2018年にはイスラエルのミスリヤ洞窟で19万4000〜17万7000年前と思われるホモ・サピエンスの化石が発見されるなど、近年は約20万年前にレバントへ進出した証拠が集まっています。Zaidner博士は、「これは驚くべき発見です。古風なヒト属がホモ・サピエンスと並んで、人類の歴史の後期にこの地域を歩き回ったとは想像もしていませんでした」とコメント。
ネシェル・ラムラ・ホモの化石からはDNAが採取できませんでしたが、研究チームは今回の発見がヒト属の進化における「空白のピース」を埋める、重要な意味を持つと考えています。これまで、ネアンデルタール人はヨーロッパに起源を持つと考えられており、寒冷化に伴い南下してレバントに到達したと推測されていました。ところが今回の発見は、従来の説に疑問を投げかけ、ネアンデルタール人の祖先がはるか40万年前からレバントに住んでいることを示唆すると、テルアビブ大学の人類学者であるIsrael Hershkovitz教授は指摘。「私たちの調査結果は、西ヨーロッパのネアンデルタール人が、レバントに住んでいたさらに大きな人口(ネシェル・ラムラ・ホモ)の生き残りであり、その逆ではないことを示唆しています」と述べました。
また、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが数十万年前に交配していたという研究結果に対する、「ヨーロッパに住んでいたネアンデルタール人とアフリカに住んでいたホモ・サピエンスがどうやって交配できたのか?」という疑問が、ネシェル・ラムラ・ホモの存在で説明できる可能性もあるとのこと。テルアビブ大学のHila May博士は、20万年以上前にホモ・サピエンスと交配したとされる「行方不明の個体群」こそが、ネアンデルタール人の祖先であるネシェル・ラムラ・ホモかもしれないと主張しています。
さらに研究チームは、ネシェル・ラムラ遺跡で発見された化石以外にも、すでにネシェル・ラムラ・ホモの化石が発見されている可能性があると考えています。たとえば、イスラエルのタブーン洞窟で発見された16万年前の化石や、Zuttiyeh洞窟で発見された25万年前の化石、ケセム洞窟で発見された40万年前の化石など、考古学者が分類に悩んできたこれらの化石がネシェル・ラムラ・ホモのものである可能性があるとのこと。
研究チームは、ホモ・サピエンスとネシェル・ラムラ・ホモが数万年にわたり同じ地域に住んでいただけでなく、文化的な交流も存在したのではないかと推測しています。ネシェル・ラムラ・ホモと共に発掘された石器は、岩を打ち欠いて先のとがった剥片石器を作る「Levallois(ルバロア)技法」で作られていたそうで、これは同時期にホモ・サピエンスが作った石器と同じだとのこと。実際に両者の石器に使われたルバロア技法は見分けが付かないほど似ていることから、研究チームはネシェル・ラムラ・ホモとホモ・サピエンスの集団間に文化的相互作用があったと考えています。
また、ネシェル・ラムラ・ホモはガゼルやオーロックス、イノシシ、ダチョウ、カメなどを狩猟し、火を使って食べていたことも判明しています。洞窟の外で長時間にわたり火を燃やし続けていた痕跡も見つかっており、ネシェル・ラムラ・ホモが火を管理する能力にも優れていたことが示唆されているとのことです。