1961年登場のキッコーマンのしょうゆ卓上びん | 食楽web

 家庭で使うしょうゆさしは、日用品店・雑貨店で数多く取り扱いがあり、デザイン性に優れたものもありますが、実際に購入し使ってみると、しょうゆがタラタラと液ダレしてしまったり、注ぎ口がすぐ詰まったりと、機能面で不満が残るものもあります。

 一方、デザイン面・機能面双方を高め、これまで多くの日本人に愛されてきたのが『キッコーマン』のしょうゆ卓上びん。今から60年前に同社から登場したものです。

 この造形を目にするだけでしょうゆの風味が口の中に広がる錯覚を覚えるほどですが、実際、2018年には「ロゴや文字がなくても、ひと目見ただけで認識できる」立体商標に登録。食品容器としては数少ない事例だそうです。

キッコーマン食品(株)プロダクト・マネジャー室しょうゆ・みりんグループの伊藤夏大さん。同社の容器の歴史について話をお聞きしました

 今回は、このしょうゆ卓上びんの60年を振り返りながら、キッコーマンのしょうゆの味や品質を守るための容器への試みについてご紹介します。話をお聞きしたのはキッコーマン食品(株)プロダクト・マネジャー室しょうゆ・みりんグループの伊藤夏大さん。それではさっそくいってみましょう。

液だれしにくく・持ちやすく・倒れにくい

1961年、発売当時のしょうゆ卓上びん

 日本人にとってとても馴染み深い、真っ赤なキャップのしょうゆ卓上びん。この登場以前は、しょうゆさしの材質は陶器を使ったものが多く、液だれがよく起こるため受け皿が添えられるものが多かったそうです。

 そんな中、登場したのがしょうゆ卓上びんだったわけですが、注ぎ口を上向きではなく、下向きにカットすることで液だれを解消させました。さらに持ちやすく、倒れにくい画期的な容器だったそうです。

「工業デザインの先駆者として世界的に有名なデザイナー、故・榮久庵憲司氏によってデザインされたものです。液だれを解消できたほか、従来多かった陶器ではなく、透明ガラスを採用し、しょうゆの残量を可視化できるようにした点が斬新だったと聞いています」(伊藤さん・以下同)

1964年、東京オリンピック開催時に選手村で使用された際の広告

 同容器は発売以降、基本的なデザインは変わっていないとのこと。

「ただ、日本だけでなく海外用のしょうゆ卓上びんもあるんですよ。現在、世界約100カ国以上の食卓で親しまれています」

日本だけでなく世界中でも立体商標がなされたしょうゆ卓上びん

1968年頃のキッコーマンしょうゆ商品のラインナップ。しょうゆ卓上びんも、どこかかわいげに陳列されています

 しょうゆ卓上びんはこれまでに日本および世界で5億本を出荷したほか、1993年には旧通産省よりグッドデザイン商品に選定され、2018年には立体商標として、特許庁に登録されました。この他、アメリカ、EU諸国、ウクライナ、ノルウェー、ロシア、オーストラリアでもすでに立体商標登録がなされています。

「文字や図形がない食品容器が『立体商標』として登録されたものは、コカ・コーラさんの“コンツアーボトル”(ガラス製ボトル)や、ヤクルトさんの“ヤクルトプラスチック容器”などがありますが、弊社のしょうゆ卓上びんも登録されたことは本当に嬉しく誇らしいことでした」

しょうゆ卓上びんのイノベーションを引き継いで

今では当たり前のように使われている密封ボトル

 他方、『キッコーマン』ではしょうゆ卓上びんの素晴らしさにおごることなく、2011年に次世代卓上容器として「やわらか密封ボトル」を開発。しょうゆが空気に触れない構造のため、開封後も90日間、しょうゆの味、色、香りを常温で保てるようになったそうです。

「やわらか密封ボトル」は、容器を二重構造にすることでしょうゆを空気に触れさせません

「画期的だったしょうゆ卓上びんのフォルムにできるだけ近づけながら、2011年に誕生させた『やわらか密封ボトル』はしょうゆ業界にとって大きな革命でした」

醤油の酸化を防ぐ「やわらか密封ボトル」の仕組み

「白をベースにしたパッケージで、しょうゆの種類をわかりやすく表示しました。このことで、例えばスーパーマーケットでは、しょうゆ棚が『黒から白に変わった』と言われるほど影響があったようです。

 また、『やわらか密封ボトル』登場以前は、流通上おいしさを維持したまま、加熱による殺菌をしていない『生(なま)しょうゆ』を全国にお届けするのはなかなか難しかったのですが、『やわらか密封ボトル』によって、それが可能となりました。しょうゆの未来を切り開いたという意味でも、大きな一歩だったと思います」

時代に合わせて進化するしょうゆ

さまざまな種類のしょうゆ

 食を取り巻く世界では、とかく「味」のことばかりがフォーカスされがちですが、「しょうゆにとっては『鮮度』も重要だ」と伊藤さんは言います。

「このように『密封ボトル』の登場で、さまざまなしょうゆを市場に送り出すことができました。今後も現代の味覚に合わせた商品を開発し、容器を進化させ、より多くの方に『おいしい』と思っていただける商品を作っていかなければいけないと考えています」

 60年前に誕生したしょうゆ卓上びんのイノベーションは、今の『キッコーマン』の姿勢にも受け継がれていると言っても良いかもしれません。しょうゆを美味しく感じる理由は、醤油そのものの製法だけでなく、使い勝手の良い容器にもあります。改めてお手元の容器にも注目してみると、新しい発見があるかもしれませんよ。

(撮影・文◎松田義人)

●DATA

「キッコーマン」

https://www.kikkoman.co.jp/