近年、耳にすることが増えてきた「発達障害」。ネガティブなものに受け取られがちなこの特性を「個性」と捉え、資産として活用しようと提唱するのが、発達障害(ADHDとASD)を公表し、キャリアアドバイザーとして、転職サポートを行っている銀河さんです。

発達障害であると自覚がなかった幼少期に自身が感じた「違和感」や、職場でのいじめの末、自殺を考えた20代。また、発達障害だと診断を受けてから取り組んできたさまざまな処世術を伺いました。


職場のいじめで自殺も考えた(※写真はイメージです)

社会人になるまで、発達障害と気づかなかった



かつては製薬メーカーでMRとして働いていた銀河さんですが、社会人として働き始め、病院でASDの診断を受けるまでは、自分が発達障害だとはまったく気がついていなかったそうです。

●人づき合いが苦手で「変わり者グループ」にいた小学校時代



「今思えば、違和感はありました。発達障害の人は『空気が読めない』などの特性をもち、人づき合いが苦手な人が多い傾向があります。それが如実に露見したのが、小学校時代のことです。友達をつくるのが苦手で、よく一人でいました。『寂しいなぁ』とは思っていたものの、どうしたらいいのかわからない。次第に、自分と同じようにどこのグループにも所属していない、いわゆる『変わり者』の子たちと遊ぶようになりました」

友達づき合いは下手だったものの、一度集中すると没頭できるという特性を生かし、有名私大へと進学。大学時代から、周囲の人に「あまり空気が読めないよね」「個性的な性格だね」と言われていたものの、就活は見事に成功し、無事に製薬メーカーへMRとしての入社を果たしました。

●「上司や先輩の言っている言葉の意味がわからない」という悩み



順風満帆な日々を送っていた銀河さんですが、入社以降、人生で経験したことがないほどの地獄の日々が待っていました。

「入社してみると、さまざまなトラブルが続出したんですね。まず直面したのが、『上司や先輩の言っていることがよくわからない』という致命的な悩みでした。『あれやっといて』『これやっといて』と言われるたびに、なにを指しているのかわからない。また、当時の上司は『営業は察するのが命』というタイプの人だったので、『お前のように何度も聞き返すような空気の読めない人間は、営業として通用しない。終わっている』と何度も叱られました」

あるとき、悩んだ末に上司に「空気ってどうやって読んだらいいんですか?」と聞いてみると、上司からはこんな返答が。

「自分の中では悲痛な叫びだったのですが、こんな質問をしたこと自体が嫌味と受け取られてしまったのか、上司からは『感覚だ! その感覚がわからないやつは向いていないんだ!』と怒られてしまいました。今考えると自分の行動は問題だらけだったとよく理解できるのですが、定型発達という普通の人には当たり前のことが、発達障害の人にとっては当たり前じゃないことも多い。当時は自分が発達障害だとは知らなかったので、『ほかの人にはできるのに、どうして自分にはわからないんだろうか』と、とにかく毎日悩み続けていました」

●「お前、友達いないだろう」と心ない言葉の連続から、出社恐怖症に



こうした日々が続き、上司や先輩たちからは「お前はいつまで経っても成長しない」「同期のAと比べて、お前はどうしようもないな」「お前には人間の心がない」「お前、宇宙人だろ?」「常識が通じない。友達いないだろ?」などという言葉を日常的に浴びせられるように。

「当時は『なんでがんばっているのに、理解されないんだろう』というジレンマに押しつぶされそうでした。そんな日々を半年ほど経たら、身体に異変が起こりました。まず、朝起きられなくて、家から出られない。帰宅後は、『また明日職場に行きたくない』という気持ちが高ぶって、いつまでも寝つくことができません。深夜の3時頃になってからようやく寝ついて、3〜4時間睡眠をとった後、出社ギリギリのタイミングに起きて、慌てて会社へ行く。

日中も眠気がひどく、外回り中にコンビニの駐車場などに営業車を停めて寝ていました。暇さえあれば眠る。今思うと、起きているのがつらすぎて、現実逃避をしたかったのでしょう」

●職場いじめから自殺を考え、精神科へ駆け込み、発達障害が発覚



また、社内での人間関係の悪化から、仕事内容そのものにも大きな影響が出るようになっていったのだとか。

「営業としての仕事はそれなりにできていたはずなのに、得意先に行ってクライアントを目の前にしても、言葉が出てきません。焦りながら接客するので、当然営業成績も不安定に。次第に生まれてきたのが、『もう死にたい。会社に行きたくない』という思いでした。
あるとき、目の前に走るトラックを見つめて『飛び込めば楽になれる』と自殺を考える日々が続いた末、『これはまずい』と思って精神科に駆け込むと、診断結果はうつ病。診察を受けている最中、先生から、『君は多分、ほかにもなにかもっていそうだから、別の診断もしてみようか?』と言われ、WAIS−3という発達障害の検査を受けた結果、数週間後にASDだと判明したのです」

発達障害があることが判明してから



しばらくは「今後自分はどうなってしまうのだろう」と落ち込んだという銀河さん。ですが、その後、自らの発達障害の特性を知ることで、その攻略法を編み出すことが可能だと気がついたそうです。

●発達障害の攻略はゲーム攻略と同じ



「発達障害の人は臨機応変に対応することは苦手ですが、パターン化することは得意です。ゲームと同じで、難しいことは考えず、TPOに合った対処法をひたすらやり込み、繰り返すことで、成果を出すことはできる。たとえば、私のようにASD傾向が強い人は、コミュ力が高くないので、『人に頼れない、頼りたくない』と考える傾向が強いです。

実際私も「人に頼る=弱い人・できない人」というイメージが強く、一人でなんでもやりきろうとしていました。言ってしまえば、プライドが高かったんですね。ですが、定型発達と呼ばれる普通の人の動きをみて、一人でやることには限界があると気がついてからは、『自分にできないことを、人に頼ることが大事だ』と学びました」

●発達障害になってから、仕事ができる人ほど頼るのが上手だと学んだ



そして、銀河さんが周囲の人を注意深く観察するようになってから、新たに気がついたのは「仕事ができる人ほど人に頼るのが得意である」ということ。

「以前は、『人に頼る=できない人』と思っていた私ですが、観察を続けた末、仕事ができる人ほど、人に頼るのが上手であると気がつきました。それ以降、できないことは他人にまかせる。頼むときも、できるだけ『その人だからこそ、これをやってほしい』という理由を丁寧に伝えるようになりました。

さらに、重要なのは、相手とよい関係性を構築していること。人に上手に頼る人ほど、人に頼られる人でもあります。もしも、自分が他人から頼られた場合は、基本的には二つ返事でOKします。発達障害の人は、あれやこれやと条件を考えて、受けていいか悩んでしまいがちなため、なにかを頼まれたとき、最初の返事の歯切れが悪くなってしまう傾向があります。

しかし、頼む方は、急ぎで困っているから頼んでいるので、歯切れの悪い返答はいちばん対応に困ります。だから、最初に気持ちよく『あなたの頼みなら大丈夫です!』とOKして、相手に『自分は仲間であって、相手に好意を持っている』ということを暗に伝えるようにしています」

その後、細かな状況を聞いてみて、どうしても自分の手にあまりそうな頼みごとだった場合は、「ここまでならできます!」と自分から代案を提案するようにしているとか。

「発達障害の人は、一度覚えたパターンをやり込むのは得意な傾向があります。だから、トラブルが起こりがちなケースの対応策をパターンとして認識して、それを自動で繰り返せば、『仕事ができる人』という評価をもらうことも可能です。ぜひ、自分の発達障害を『弱点』と考えず、『強み』ととらえて、日々の生活に活かしてほしいです」

銀河さんの初の著書『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本
』(扶桑社刊)では、銀河さん自身が実践する、発達障害ならではの個性を強みに変え、日常生活や仕事などに活かしてきた秘訣が、数多く記載されています。ぜひチェックを。

●教えてくれた人
【銀河さん】



上智大学卒。新卒で営業としてキャリアをスタートするも、約1年でうつ病を発症。復職し、発達障害の強みを活かして営業成績2位をおさめる。入社満3年で退社し、会社の同期が設立したCare Earth(株)に誘われて入社。現在ではキャリアアドバイザーとして、転職サポートを行っている。また、キャリアや生活で悩む発達障害の人へのアドバイスなどを中心に、コーチングも行っている。Twitter:@galaxy_career