コロナ禍で人と会いづらくなって久しい昨今、「ひとり時間」「ソロ活」が注目されています。未婚、既婚に関わらず、最終的には誰もが「ひとり」。たとえ配偶者がいても、離婚や死別などで急にひとりになって戸惑う、といったケースもあるようです。

そこで、ブログを中心に「ひとり」について発信し、『50代、もう一度「ひとり時間」
』(KADOKAWA刊)を上梓した中道あんさんに、50代からのソロ活についてを語っていただきました。聞き手は、テレビ東京系で連続ドラマが放送中の、『ソロ活女子のススメ
』(大和書房刊)の著者である朝井麻由美さんです。


ひとり時間を上手に楽しんでいるブロガーの中道あんさん

50代からのソロ活。ひとり時間がとにかく楽しいワケ



30代でソロ活を楽しむ朝井さんが、中道あんさんに50代ならではのひとり時間の楽しみを伺いました。

26歳で結婚し、2男1女を授かり、家事と育児、お小遣い稼ぎの仕事とママ友ライフを幸せに送ってきた中道あんさんは、やがて子どもの成長とともに自分自身の将来に目を向けるようになり、正社員として働き始め、結婚22年で夫と別居へ…。現在は、フリーランスとして50代女性の輝く生き方をブログを中心に発信しています。

●50代ではまだひとり時間を楽しむ人は珍しい?



朝井:今回、50代以降のソロ活についてや、ひとり時間を楽しむための考え方を中心に伺いたいと思っています。ただ、あんさんのご著書を拝読したら、じつはソロ活の内容自体は、若い世代とそこまで違いはないのではないか…、とも少し思いました。

あん:私も、朝井さんの『ソロ活女子のススメ
』を拝読して、そのまんま私やん、と(笑)。ひとりでラーメン食べたり、あちこち行ったり、やっていることはほぼ同じですよね。ご著書で紹介されていた「ひとりせんべろ」が楽しそうだったので、先日挑戦してみました。

朝井:嬉しいです! ありがとうございます。


ソロ活の達人として、さまざまな場所にひとりで挑む朝井麻由美さん

あん:ただ、読んでいて驚いたのは、「空気を読む」とか「同調圧力」についてです。私の世代だと「ひとり時間」を楽しむ人はめちゃくちゃ珍しいんですけど、朝井さんの世代(30代)って、そういうのはないと思っていたんですよ。でも、そんなに違いはないんですね。

朝井:そうですね。「同調圧力」などは学校に通っている頃に特に感じていました。もちろん学校によると思いますが、ほかの学校出身の人の話を聞いていても、大差はなさそうです。社会に出てからは、学校の延長上のような環境もあれば、お互いにわれ関せずな環境もあり、選ぶ職種や会社によってかなり差が出るかと思います。

あん:世代が違っても同じなんだなぁ。教育環境は全然違うはずなんですけどね。私たちの世代は、女や子どもは黙ってろ、といった感じで、意見を言う場もなくて。「みんなで仲よくなにかをしましょう」、「みんな一緒じゃないといけない」という風潮でした。
でも、「ひとり」についての話が本になるってことは、まだまだ世間的には珍しいってことなんですよね。

●家族のためだけに生きていて、自分のことを考える時間が一切なかった



朝井:あんさんがソロ活に目覚めたのはいつ頃のことなのでしょうか?

あん:思い返せば、高校生の頃から、みんながお昼にパンを買いに行くところを、ひとりで喫茶店に行って食べていました。当時からとにかく、毎食おいしいものを食べたいポリシーがあって。なんでもいいからおなかがふくれればいい、というのは嫌だったんですよ。食いしん坊なんだと思います。

朝井:高校生のときにやるのは勇気がありますね。みんなに合わせないことで、もし「なに、あの子」と言われて仲間外れにされたら高校三年間しんどいじゃないですか。

あん:たぶん、協調性とかを全然気にしていなかったんですよね。浮いていたとしても、浮いていることにすら気づいていなかったのかもしれない(笑)。


もともとひとりで過ごす気質があったというあんさん

朝井:一方で、そのままソロ活街道をひた走るかと思いきや、ご著書によるとその後ひとり時間を楽しむようになるのは50代くらいからなんですよね。

あん:20代、30代はいわゆる「永久就職」という…ホームドラマに出てくるような「お母さん」をやっていました。がんばってそれを演じていたわけではなく、それこそが私の幸せだと思っていたんですよね。私は母が“毒親”だったので、この場所から逃げるには結婚しかない、と思って。母の家庭のつくり方への反発から、テレビドラマみたいな家庭にしたかったんです。

朝井:そうだったんですね。なにがきっかけでソロ活を始めるように?

あん:40歳くらいのときに、このまま歳を重ねていっていいのかな、と思ったんです。具体的なきっかけとなるような出来事や事件があったわけではないんですけど、本当にふと。

朝井:ふと思った。

あん:ふと思いました。この先の人生、子どもは大きくなって独り立ちして、夫と二人になって…、ゴールが見えてしまっているな、と。それはそれで別にダメなことではないですが、私はそれを変えたい、と思ったんですよね。とはいえ、そのときやったのは些細なことで、お気に入りのコーヒーカップを買ってきてコーヒーを飲んでみたり、お花を飾ってみたり、家の中で自己表現をしていました。

●自立を決めてから生活も変化。まさかの別居に




ひとり時間にたくさん読書をするようになったというあんさん

朝井:それまで家族のためにだけ使っていた時間を、少し自分のために使ってみる、という感じでしょうか。

あん:そうそう、そういうことです。あとは、カフェに行っていろいろな作家さんの小説やエッセイをたくさん読みましたね。ロールモデルを探すためでもありましたし、私が今この文章を読んで惹かれているのはなぜだろう、と考えてもみました。これ、「メタ認知」と言って、自分がやっていることを客観視して、自分がどう思っているかを認識するんです。

朝井:それ自然とやっていましたが、繰り返すことで自分の好きなものがはっきりしたり、快・不快の感覚が鋭くなったりする気がします。

あん:そうそう。なにかを食べて「おいしいなー」と思ったら、もう一人の自分が「私はこういうものにおいしさを感じるんだな」と認識する。温泉に行って、「ああ、お湯が気持ちいい」と感じるだけでなく、「お風呂に入ると心がこんなふうになるんだな」とさらに深堀りするとか。

朝井:そういうのって、日々忙しく生きるのに必死だと、スルーしてしまいがちですよね。

あん:とくに私が長年主婦をやっていて思ったのは、家族のために生きていると、自分のことがよくわからなくなるんです。夕飯の支度にしても、子どもや夫の好きなものを作るわけで、自分の好きなものを入れることはほとんどありませんでした。自分の感情にどんどんフタをして、だんだん自分はなにが好きで、「好き」という感情がどういう感情だったのかもわからなくなっていって。

朝井:自分のことを考える隙間が一切なかったんですね。

あん:そうです。ひとつひとつは細かいことでも、それが積み重なることによって、なにに喜びを感じて、怒りを感じて、悲しみを感じていたのか、本当にわからなくなります。

朝井:先ほど、40歳くらいのときに「このままではいけない」とふと思った、とおっしゃっていましたが、もしかしたら、そういった積み重ねで無意識にそう思うようになったのかもしれないですね。

あん:そうかもしれません。その後、45歳で働いてみることにして、そうこうしているうちに夫との関係性が悪くなって別居。そこから本格的に自立することになります。
おもしろいのが、別居したから自立したわけではなく、自立しようと少しずつ動いていた途中でたまたま別居することになったんですよね。

――結婚22年目にして別居を選んだあんさん。これから後悔しない60代を迎えるため、ひとり時間をどんどん充実させているようです。

<取材・文/朝井麻由美>

【中道あん】



1963年、大阪府生まれ。26歳で結婚し、2男1女を授かる。家事と育児、お小遣い稼ぎの仕事とママ友ライフを幸せに送るが、やがて子供の成長とともに自分自身の将来に目を向けるようになり、正社員として働き始める。結婚22年で夫と別居。2019年正社員からフリーランスに転身。3歳になるイングリッシュコッカースパニエルと日々の暮らしを楽しんでいる。ブログ「女性の生き方ブログ! 50代を丁寧に生きる、あんさん流
」主宰。著書に『50代、もう一度「ひとり時間」
』(三笠書房)がある

【朝井麻由美】



フリーライター・コラムニスト。著書に『ソロ活女子のススメ
』(大和書房)、『「ぼっち」の歩き方
』(PHP研究所)、『ひとりっ子の頭ん中
』(KADOKAWA)。「二軒目どうする?」(テレビ東京系)準レギュラー出演中。ひとりでの行動を「ソロ活」と称し、ひとりスイカ割り、ひとりバーベキュー、ひとり流しそうめん、ひとりナイトプールなど様々なことをひとりで楽しむ。趣味は食べ歩きとゲーム。twitterは@moyomoyomoyo