テレワーク中の食事費は?

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 東京都などに発令された3度目の緊急事態宣言が延長となり、テレワークの徹底が再度呼び掛けられていますが、テレワークをすることによって、出社時に利用していた福利厚生が使えなかったり、会社出勤者の方が高く評価されたりと、テレワークによる不利益を感じる人もいるようです。

 テレワークと出社の人が混在している場合の不平等な扱いの問題点について、社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。

自宅に食事配達、コンビニ利用補助も

Q.テレワークをしている社員と出社している社員がいる職場の場合、社員食堂の利用などで不平等になってしまうことがあります。本来、社員は平等に扱われるべきだと思うのですが、問題はないのでしょうか。

木村さん「社員食堂は企業が社員に対する福利厚生の一環として運営しているもので、会社に出勤していれば利用可能ですが、テレワーク社員はそもそも、会社に出勤していないので、ほとんどの場合、利用は物理的に不可能となります。その処遇の差について法的な罰則はありません。しかし、特にテレワークが長期にわたった場合、社員食堂を利用できないことに対して待遇面での不満が生じ、テレワークをしている社員の間で、仕事に対する士気が低下することも考えられます」

Q.そういった不満を解消しようという動きはあるのでしょうか。

木村さん「不平等感をなくすために、福利厚生が利用できなくなったことやテレワークにかかる経費の補填(ほてん)として、テレワーク手当(企業によって名称が違う)を支給する企業もあります。また、在宅勤務やサテライトオフィス等の出先で勤務することによって、社員食堂を利用できない社員のために、社員の自宅や出先に食事・総菜を配達したり、食費を一部補填(ほてん)したり、食事購入用にコンビニ等で利用できるチケットを配布したりしている企業もあります。

社員食堂は会社に出勤することで利用できる福利厚生の制度ですが、働き方改革の推進や新型コロナの影響でテレワークを導入する企業にとって、これからは、各社員の働く場所によって受けられるサービスに差が出ないような内容の福利厚生が求められることになるでしょう。これは社員食堂に限らず、ほかの福利厚生についても同様といえます」

Q.テレワークのための費用(自宅の作業環境整備等)を当初は会社が負担したものの、テレワークが長期化してきたことで、通信費など社員が手出しする部分が多くなっている会社もあるようです。定期的にテレワーク用経費を出さないことに問題はないのでしょうか。

木村さん「厚生労働省が3月25日に公表した『テレワークの適切な導入および実施の推進のためのガイドライン』(以下『ガイドライン』)によると『テレワークによって労働者に過度の負担が生じることは望ましくない』としており、企業が負担する費用の一例として『労働者個人が契約した電話回線等を使って業務を行うことで通信費が増加する場合や、労働者の自宅の電気料金等が増加する場合は、実際の費用のうち業務に要した実費の金額を在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえて合理的・客観的に計算し、支給することも考えられる』と記しています。

テレワークにかかる経費を必ず会社が負担しなければならない』という法律上の決まりはありませんが、社員に費用を負担させる場合、その旨について就業規則等への記載が必要(労働基準法89条5号)で、費用の分担、請求方法などの内容についてはあらかじめ、労使で話し合って決めることになります。なお、費用の負担について就業規則等に定めのない場合は、テレワークにかかる経費は企業が負担しなければなりません」

Q.厚労省が示した新たなガイドラインで、テレワークをしている社員に時間外や休日のメールなどに対応しなかったことを理由に、不利益な扱いをしないよう求めているとも聞きました。

木村さん「テレワークでは、社内勤務に比べて、労働時間の適切な管理が難しい傾向があります。例えば、社内勤務では、労働契約等で決められた本来の労働時間以外や休日の電話・メールに対応する義務はなく、もし、対応が義務化された場合は残業扱いとなり、残業代が発生します。

しかし、テレワークでは労働時間の扱いが曖昧な場合も多く、『社員の勤務状況が分からないので、みなし労働時間でやっています』と答える企業もあります。しかし、『事業場外みなし労働時間制』は労働者が事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定することが困難なときに適用される制度です。

特に、新型コロナの影響で移行したテレワークはその多くが、企業側で業務開始時と終了時の確認ができ、また、業務面に関しても上司が随時指示を出せる状態であるため、『事業場外みなし労働時間制』は原則として適用されません。

従って、テレワークをしている社員に時間外や休日の業務対応をさせる場合、労使間で労働時間に関する特段の取り決めがある場合を除き、社内勤務の社員と同じ扱いになります。その取り決めがないのに、テレワーク中の社員に対して、時間外や休日のメールなどに対応しなかったことを理由に人事、給料面等で不利益な扱いを行った場合、その扱いは無効となる可能性が高いでしょう」

「出勤者を高評価」は不適切

Q.テレワークをしている社員と出社している社員がいる場合について、出社している労働者を高く評価することなど、厚労省が新たなガイドラインで「不適切」としている不平等な扱いについて教えてください。

木村さん「日本の企業内において、新型コロナの感染対策としてテレワークが注目されていますが、まだ全体的に浸透しているとまではいえず、多くの企業では『会社に出勤することをよし』とする風潮が残っている部分があります。

その理由としては、従来の人事考課方法は上司が直接、部下の仕事ぶりを見て判断していたのに対し、テレワークは原則、非対面のため、上司が部下の業務遂行状況の把握が難しいことがあります。極端な話、『テレワーク中にサボっているのではないか?』と考える上司も中にはいるのです。

そのため、テレワーク中の社員より、出社している社員を高く評価してしまうことにつながると考えられます。ガイドラインでは、そのような扱いは『不適切』であるとしており、企業はテレワーク中の社員に対して、正しい人事評価を行うことが必要になります。

例えば、上司がテレワーク中の部下に対してあらかじめ、評価対象の期間を設け、その中で求める業務内容や達成目標などを具体的に提示した上で、その進捗(しんちょく)状況によって評価するといった(成果主義的な一面もある)企業の実情を踏まえた方策を考え、実行することが重要です」

Q.福利厚生の扱いの差やテレワーク手当の不支給、評価での差といった問題について、会社に改善を求めても受け入れられない場合、どのようにすればよいのでしょうか。

木村さん「企業内でのテレワーク労働者の増加に伴い、厚労省の新たなガイドラインにも書いてありますが、出社社員と比較しての、福利厚生、業務経費負担、人事評価面における扱いの不平等さが問題視されています。テレワーク労働者がこれらの問題に直面した場合、勤務先のテレワークに関する就業規則等や労使間の取り決めに関する明示内容を確認した上で、企業に対して不平等な待遇の改善を求めることができます。

それでも改善が見られない場合は、各都道府県の労働局や労働基準監督署内に設置されている『総合労働相談センター』に相談するのも一つの方法です。総合労働相談センターは面談、もしくは電話で相談を受け付けており、事前予約不要、無料で利用できます」