スライドの文字サイズは10%縮小せよ。元任天堂デザイナーが教える“資料作り”のコツ
元・任天堂デザイナーの前田高志さん。
大阪芸術大学を卒業後、任天堂で15年間にわたり宣伝広告デザインをしてきたプロのグラフィックデザイナーです。
2016年に独立し、現在は株式会社NASU代表、オンラインコミュニティ「前田デザイン室」オーナーとして活動しています。
有名企業を経て起業した前田さんですが、もともとは周りの人たちの才能に打ちひしがれていたそう。著書『勝てるデザイン』の中で、「凡庸でセンスもない、その筆頭が僕だった。でも必死に努力をし試行錯誤を続けた結果、“勝てる”デザインの真髄がわかった」と言います。
ビジネスパーソンにも通ずる、これからの個人の戦い方と仕事術を、デザイン視点から教えてくれる同書より抜粋してお届けします。
「文字」は全体的に縮小するとスッキリ見える
これは僕がデザイナーに指示する時によく言うことです。
デザイナーじゃなくても資料を作ることはあるでしょうから、すぐに取り入れることができるテクニックです。
居酒屋や、街のお店などで、きっとお店の方が作ったのだろうなという印刷物を見て、圧倒的に多いのが「文字が大きすぎる」ことです。
とにかく伝えたい、その気持ちの強さゆえかもしれません。
とにかく往々にして文字が大きい。
文字が大きすぎることの問題は、一見伝わるようで、実はそうとも言い切れないことです。
試しに、今入力している文章の文字列のサイズを10%小さくしてみてください。
どうでしょう? まるで風の通り道ができたかのようにスッキリしませんか?
「文字が小さくて読めないんじゃないか?」という不安があるかもしれませんが、そういう時は、文章の中の要旨から見出しの言葉を出して、その文字だけ大きくします。
見出しを読んでもらえさえすれば、その後の文字が小さくても人は読んでくれる可能性が高い。
本当に伝えたいことはワンメッセージにとどめ、それだけドンと大きな文字にします。
それ以外はもっと小さくて良いのです。
こういう文字のメリハリは「ジャンプ率」と呼ばれ、デザイナーは日々この見やすさに心血を注いでいます。
ヒューマンスケールで造形視力を鍛えよう
デザインする時、作っているもののサイズを意識するのはかなり重要です。
というのも、同じ造形でもサイズによって見え方は大きく違いますし、そもそも余白もデザインなのです。
ですから、印刷物は必ず製品となるものと全く同じサイズで出力し見え方を調整します。
デザイナーは日々こうしてサイズを意識し仕事をするので、メジャーやものさしでものを測るのは当然ですが、それ以前に「目分量を養う」ことも僕はよくします。
例えば、僕の人差し指から中指の間はだいたい10cmです。
腕の長さは90cmくらいなので、両手をまっすぐ平行に伸ばせば2m弱であることが即座にわかります。
こんな風に自分の体を使ったヒューマンスケールを活用してみてはどうでしょう。
こういう習慣をつけておくと何がいいかと言うと、作業が素早く合理的に進められるだけでなく、造形のサイズに敏感になります。
「造形視力」とでも言いましょうか。
そのため、僕は、デザインのサイズ100%の大きさと101%の大きさの違いが瞬時にわかりますし、長体といってフォントが縦に伸びている状態にも即座に気づきます。
これはひとえに日頃から造形の感覚を養っているからに他なりません。
ぜひ自分の体を使ってサイズを測るくせをつけてみてください。
「パラレルワールド」を想像するクセをつける
デザインの上達が早い人の条件って、何でしょうか。センス? 技術?
その答えは「素直であること」です。
ある意味、才能と言ってもいいでしょう。
普通すぎて拍子抜けしたかもしれません。でも、あらゆる仕事と同じようにデザインにおいても、センスや技術以前に素直な人が一番伸びます。
僕は、今まで様々なコミュニティで、デザインについて知っていること、経験してきたことを伝えてきましたが、実際にやる人は本当に少ないのです。
やってみたら、自分に革命が起こるかもしれないじゃないですか。
そういう「これをこうしたら、もしかしたらこんな世界が待ってるかもしれない」という並行世界、パラレルワールドを想像することが大事なのです。
デザイナーの仕事は、デザインの力で、世の中にあるものの価値を最大化すること。
デザインの力で、今よりもっと良い未来を作ることです。
そこで必要なのは、パラレルワールドを想像する力です。
パラレルワールドを意識できていないというのは、厳しい言い方をすると想像する力が弱いってこと。
さらに言えば、デザイナーとして向上しようという意識が足りていないってことになります。
もっともっと上を目指したいなら、自分だけで全部をやろうとせず、ぜひ素直に可能性をどんどん試してみてください。
デザインは、デザイナーだけのものではない
昔から絵が好きだった前田高志さん。
5歳にも満たなかった前田少年は、ある日、忍者ハットリくんの塗り絵をしていたところ、お父さんがカラーペンで簡単な斜線を引いただけで全体が見事に彩られ、強く感動したことを鮮明に覚えているといいます。
そんな「視覚ジャンキー」な著者が語るデザイン論には、デザイナーだけでなく、あらゆるクリエイター、ビジネスパーソンにとっても学びになる知見が豊富に詰まっています。
ぜひプロのデザイン思考、デザインの知見を、あなたの仕事にも取り入れてみてください。
「一歩、次に進みたい」、そんな思いを抱く人に、おすすめの一冊です。