子どもを伸ばす言葉、苦しめる言葉。高濱正伸さんと乙武洋匡さんが伝えたいこと
キャッシュレス化やオンライン化、リモートワーク…。コロナ禍を機に、それまでの“当たり前”が大きく揺らぎ、時代の流れはますます加速しています。たとえばAI(人工知能)化にともない、ついこの間まであった仕事が姿を消すなど、大きな“淘汰の波”は絶え間なく押し寄せています。新しい時代は、私たちの生き方がより強く問われる時代でもあるのです。
「十年後はどうなっているかわからない。そういう未来をたくましく生き抜く大人に育てましょう」と、子どもを育てている保護者の方に向けて繰り返し伝えてきたのが、教育者の高濱正伸(たかはま・まさのぶ)さん。
ここでは同じく教育者としての経験ももち、現在は作家、コメンテーターとして活躍する乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)さんとの対談の一部をお送りします。
高濱正伸さん・乙武洋匡さん
高濱さんは、年中〜小学生を中心とした学習塾『花まる学習会』を主宰した当初から、「メシが食える大人に育てる」「魅力的な人に育てる」ことを第一とした教育方針を掲げています。
まさにその「どうなっているかわからない未来」が現実となった今、高濱さんが発してきた言葉の数々が、あらためて注目されています。
乙武さんは生まれもったハンディキャップをものともせず、厳しい現実を前にしても常に自分らしく自らの進む道を切り開いてきた人。自身の手痛い失敗もまた糧にして、常に先へ先へと前を向いています。高濱さんとのつき合いも長きにわたるそうで、高濱さんいわく、「ダメを自信に変えていく象徴」なのだとか。
高濱さんが強調するのは、どんな時代においても、ピンチをチャンスに変えて強くなれるのは「状況を見て、変化し対応すること」。
従来の考え方にとらわれず新たにチャレンジができる、ないものに執着せず、あるものに感謝してそれを最大限生かす――。これが、今後さらに求められる人物像だといいます。
乙武さんは子どもの頃から、手足がないことに引け目を感じたことはなく、他人の視線に負けることもなかったといいます。嘆くのではなく、自分が今できることを増やすことに集中する。この精神がこれまでも、これからも乙武さんを支えています。
小学2年生の頃、同級生にからかわれたときも、相手に毅然と言い返していたそう。なぜ、ここまでポジティブでいられるのでしょうか。
高濱さん:
「そういう魂に育った要因を知りたいですね。それはやっぱり、家族がポジティブに受け入れていたということだと思うんですけど。どう思います? 普通は言い返せないですよ、だいたいは気にして」
乙武さん:
「ポジティブになれた理由は、おそらくふたつあって。ひとつは、生まれ持った性格ですね。私は生来の目立ちたがり屋だったんですよね。だから(すれ違う人、すれ違う人にじろじろ見られても)『俺、今日も目立っているな』って(笑)」
高濱さん:
「もっとほかになにかがあると思うんだけど(笑)。やっぱりお母さんとの関係がむちゃくちゃよかったとか。だって、なかなかそうはいかないもの」
乙武さん:
「もうひとつは、最初の親の想定が『一生寝たきり』だったこと。ほとんどの親御さんは子どもを授かったとき、『せめて五体満足であってくれたなら』と願うわけですよ。ところが私の場合、そんな親としての最低限の願いさえ叶えられず、いわゆる『最低スペック』で生まれてきた。だから、親も一生寝たきりかもしれないと覚悟した。ところが母に言わせると、それが子育てにおいて、いい方向に作用したんじゃないかというんですね。最初の想定が『一生寝たきり』だったので、私がなにをしてもプラス評価だったから。
ほとんどの子は『せめて五体満足であってくれたなら』という願いを満たして生まれてくるのに、親はさらなる高望みをするわけですよ。親から『あれができない、これができない』とマイナス評価を積み重ねられると、子どもは『ああ、自分はダメな子なんだ』となってしまう。ところが私の場合は、プラス評価を積み重ねてもらうことができた。それが、やっぱりポジティブな性格につながっているのかなと思いますね。だからこんな鼻持ちならない、自己肯定感の塊のような人間になってしまったんですね(笑)」
両親の自分への接し方が、人格形成に大きな影響を受けたと話す乙武さん。だからこそ、親として“ついやってしまいがちなある行動”について、こう警鐘を鳴らします。
乙武さん:
「子どもって、親の発言とか、親の感情というものに、大人が思っている以上に敏感ですよね。日本人は謙虚の文化、謙遜することが美徳なんて言われますが、子育てにおいては絶対やめたほうがいいと思っていることがあるんです。
たとえば、ママ友同士でおしゃべりしているとき、自分の子どもが褒められたりしますよね。そんなとき、日本ではつい謙遜したり、なんならかえってけなすような発言をするじゃないですか。『いやいや、うちの子なんてこんなにダメなところがあるんですよ』とか。あれは絶対にやめたほうがいいと思いますね。とくに子どもがいるところでは。子どもはちゃんと聞いてます」
高濱さん:
「お母さん同士が挨拶するときって、相手に失礼のないように、『いえいえ、うちの子は国語ができないんですよ』とかサラッと言っちゃう。いちばんつらいのは、その子が気にしていることを言っちゃうことなんですよね。『運動音痴だから恥ずかしくって』とか。それを聞くと子どもは『それってお母さんは恥ずかしいんだ』ってショックを受けちゃうんですよ。母のひと言って、その子の世界観をバチーンと決めちゃうんですよ。そして、いきなりネガティブな世界に入っちゃうんですよね」
私たち親の言動は、それほどまでに子どもの成長と結びついています。振り返ると、悪気はないけれど、つい子どもを否定していた…という方も多いかもしれません。でももちろん、今から十分修正はできます。子どもたちの個性やいいところ、つまり「あるもの」に気づいて、たくさんのプラスを与えていけばいいのです。
高濱さんと乙武さんが繰り広げる教育論は、けっして難しいものではなく、今、すぐに気持ちを切り替えて実践できるものばかり。
高濱さんと乙武さんの共著『だから、みんなちがっていい
』(扶桑社刊)では、対談の全内容を掲載。「普通ってなに?」「優秀ってなに?」をテーマに、これからの時代を生き抜く子どもの育て方が熱く語られています。親として、ひとりの人間として、これからの時代を生き抜くヒントがたくさん詰まった必読の一冊。ぜひ手に取ってみてくださいね。
<取材・文/ESSEonline編集部>
「十年後はどうなっているかわからない。そういう未来をたくましく生き抜く大人に育てましょう」と、子どもを育てている保護者の方に向けて繰り返し伝えてきたのが、教育者の高濱正伸(たかはま・まさのぶ)さん。
ここでは同じく教育者としての経験ももち、現在は作家、コメンテーターとして活躍する乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)さんとの対談の一部をお送りします。
高濱正伸さん・乙武洋匡さん
高濱正伸さん・乙武洋匡さんが対談。状況を見て、変化し対応することのできる子を育てるために
高濱さんは、年中〜小学生を中心とした学習塾『花まる学習会』を主宰した当初から、「メシが食える大人に育てる」「魅力的な人に育てる」ことを第一とした教育方針を掲げています。
まさにその「どうなっているかわからない未来」が現実となった今、高濱さんが発してきた言葉の数々が、あらためて注目されています。
乙武さんは生まれもったハンディキャップをものともせず、厳しい現実を前にしても常に自分らしく自らの進む道を切り開いてきた人。自身の手痛い失敗もまた糧にして、常に先へ先へと前を向いています。高濱さんとのつき合いも長きにわたるそうで、高濱さんいわく、「ダメを自信に変えていく象徴」なのだとか。
高濱さんが強調するのは、どんな時代においても、ピンチをチャンスに変えて強くなれるのは「状況を見て、変化し対応すること」。
従来の考え方にとらわれず新たにチャレンジができる、ないものに執着せず、あるものに感謝してそれを最大限生かす――。これが、今後さらに求められる人物像だといいます。
●乙武さんがポジティブな理由
乙武さんは子どもの頃から、手足がないことに引け目を感じたことはなく、他人の視線に負けることもなかったといいます。嘆くのではなく、自分が今できることを増やすことに集中する。この精神がこれまでも、これからも乙武さんを支えています。
小学2年生の頃、同級生にからかわれたときも、相手に毅然と言い返していたそう。なぜ、ここまでポジティブでいられるのでしょうか。
高濱さん:
「そういう魂に育った要因を知りたいですね。それはやっぱり、家族がポジティブに受け入れていたということだと思うんですけど。どう思います? 普通は言い返せないですよ、だいたいは気にして」
乙武さん:
「ポジティブになれた理由は、おそらくふたつあって。ひとつは、生まれ持った性格ですね。私は生来の目立ちたがり屋だったんですよね。だから(すれ違う人、すれ違う人にじろじろ見られても)『俺、今日も目立っているな』って(笑)」
高濱さん:
「もっとほかになにかがあると思うんだけど(笑)。やっぱりお母さんとの関係がむちゃくちゃよかったとか。だって、なかなかそうはいかないもの」
乙武さん:
「もうひとつは、最初の親の想定が『一生寝たきり』だったこと。ほとんどの親御さんは子どもを授かったとき、『せめて五体満足であってくれたなら』と願うわけですよ。ところが私の場合、そんな親としての最低限の願いさえ叶えられず、いわゆる『最低スペック』で生まれてきた。だから、親も一生寝たきりかもしれないと覚悟した。ところが母に言わせると、それが子育てにおいて、いい方向に作用したんじゃないかというんですね。最初の想定が『一生寝たきり』だったので、私がなにをしてもプラス評価だったから。
ほとんどの子は『せめて五体満足であってくれたなら』という願いを満たして生まれてくるのに、親はさらなる高望みをするわけですよ。親から『あれができない、これができない』とマイナス評価を積み重ねられると、子どもは『ああ、自分はダメな子なんだ』となってしまう。ところが私の場合は、プラス評価を積み重ねてもらうことができた。それが、やっぱりポジティブな性格につながっているのかなと思いますね。だからこんな鼻持ちならない、自己肯定感の塊のような人間になってしまったんですね(笑)」
●親としてやってしまいがちな行動とは
両親の自分への接し方が、人格形成に大きな影響を受けたと話す乙武さん。だからこそ、親として“ついやってしまいがちなある行動”について、こう警鐘を鳴らします。
乙武さん:
「子どもって、親の発言とか、親の感情というものに、大人が思っている以上に敏感ですよね。日本人は謙虚の文化、謙遜することが美徳なんて言われますが、子育てにおいては絶対やめたほうがいいと思っていることがあるんです。
たとえば、ママ友同士でおしゃべりしているとき、自分の子どもが褒められたりしますよね。そんなとき、日本ではつい謙遜したり、なんならかえってけなすような発言をするじゃないですか。『いやいや、うちの子なんてこんなにダメなところがあるんですよ』とか。あれは絶対にやめたほうがいいと思いますね。とくに子どもがいるところでは。子どもはちゃんと聞いてます」
高濱さん:
「お母さん同士が挨拶するときって、相手に失礼のないように、『いえいえ、うちの子は国語ができないんですよ』とかサラッと言っちゃう。いちばんつらいのは、その子が気にしていることを言っちゃうことなんですよね。『運動音痴だから恥ずかしくって』とか。それを聞くと子どもは『それってお母さんは恥ずかしいんだ』ってショックを受けちゃうんですよ。母のひと言って、その子の世界観をバチーンと決めちゃうんですよ。そして、いきなりネガティブな世界に入っちゃうんですよね」
私たち親の言動は、それほどまでに子どもの成長と結びついています。振り返ると、悪気はないけれど、つい子どもを否定していた…という方も多いかもしれません。でももちろん、今から十分修正はできます。子どもたちの個性やいいところ、つまり「あるもの」に気づいて、たくさんのプラスを与えていけばいいのです。
高濱さんと乙武さんが繰り広げる教育論は、けっして難しいものではなく、今、すぐに気持ちを切り替えて実践できるものばかり。
高濱さんと乙武さんの共著『だから、みんなちがっていい
』(扶桑社刊)では、対談の全内容を掲載。「普通ってなに?」「優秀ってなに?」をテーマに、これからの時代を生き抜く子どもの育て方が熱く語られています。親として、ひとりの人間として、これからの時代を生き抜くヒントがたくさん詰まった必読の一冊。ぜひ手に取ってみてくださいね。
<取材・文/ESSEonline編集部>