【特集】「償い」胸に祈る毎日 栃木県と震災10年の歩み
大自然の猛威により未曽有の被害をもたらした東日本大震災から11日で10年です。
家族を亡くした人、ふるさとを追われた人、ボランティアの人、この大地震を経験した私たちは様々な思いを抱いてこの10年を過ごしてきました。
「償い」という言葉を胸に、今も祈り続ける1人の男性を取材しました。
奥日光の中禅寺湖です。今から1200年以上前に荒々しい山々を越えて、この地にたどり着いた僧侶、勝道上人が発見したとされています。
湖を囲む山を信仰の対象に一帯が神聖な場所として、崇められてきたこの場所に、その人はいます。
日光山輪王寺の僧侶、畠山 慈朋(はたけやま じほう)さんです。
一身に祈りを捧げるさまは、長く修行を積んできたように感じさせますが、仏門に入ったのは8年前の2013年。
それ以前の職場は、東京電力でした。震災の日は、東京本社で広報を担当していました。
誹謗中傷を浴び、会社自体も混乱を極めた中、2年間、原発事故後の対応などに奔走しましたが、ある思いから、仏の世界への扉を叩きました。
輪王寺の僧侶を父に持つ妻の縁もあり、この道に進んでから毎朝のお勤めで必ず震災で犠牲となった人たちに祈りを捧げます。
さらに僧侶として高みを目指したいと寺では37年ぶりとなる苦行にも挑みました。
修行の様子を再現してもらいました。
「大千度行」(だいせんどぎょう)と呼ばれる山岳修行、本堂の周辺、1周およそ4.5キロをその名の通り1000回廻る、文字通りの苦行です。
神仏へ真言を唱えるあいだ、人と話すことは禁じられているため、修業は人気のない深夜から早朝を選んで、ひたすら同じ道を歩き続けます。
140日かけて4500キロを踏破したのが、2017年。僧侶として一つの区切りになりました。
自然の力強さや美しさ、そして厳しさを感じさせてくれる日光連山や中禅寺湖。
毎年春には亡くなった人たちを弔う「地蔵流し」が行われます。
あれから10年がたちました。大自然がもたらした地震は紛れもない天災。ですが、原発事故が天災なのか、人災なのか、いまだにその争いは続いています。
その真ん中にいた畠山さんは、ただ1人の個人としてはあまりにも重い言葉を背負いながら一日一日を重ねています。