近年、数多くの動物の「意識」に関する研究が行われており、ロブスターを生きたままゆでる方法が禁止されるなど、無脊椎動物にも痛覚がある可能性が指摘されています。新たに、サンフランシスコ州立大学で生物学を研究するロビン・クローク氏によって「タコにも痛覚があり、痛みを嫌う傾向がある」ことが判明しました。

Behavioral and neurophysiological evidence suggests affective pain experience in octopus: iScience

https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(21)00197-8

Octopuses Not Only Feel Pain Physically, But Emotionally Too, First Study Finds

https://www.sciencealert.com/scientists-identify-the-first-strong-evidence-that-octopuses-likely-feel-pain

過去には、「痛みを感じるには、複雑な神経構造が必要」と考えられていたため、「複雑な神経構造を持たない魚類や無脊椎動物は痛みを感じない」という考えが一般的でした。しかし、近年の研究により、魚類が「苦痛を感じている」様な反応を示すことが明らかになり、「魚も痛みを感じている」という考えが研究者の間で広がっています。

「魚も痛みを感じている」という見方が研究者の間でも広がりを見せている - GIGAZINE



しかし、無脊椎動物のような単純な神経構造の生物については、痛覚に関する研究はほとんど行われていなかったとのこと。そこで、クローク氏は無脊椎動物の中で比較的複雑な神経構造のタコを用いて、痛覚の有無を確認する実験を行いました。

クローク氏は、「何も投与しない部屋」「何かを投与する部屋」の2部屋に分かれた水槽を準備。タコは模様を意識的に見分けることが可能だと確認されているため、それぞれの部屋は壁面はタコ自身がどの部屋にいるかどうかを判別できる特徴的な模様が描かれました。

実験に用いられたタコはまず水槽に入れられて一定時間慣らされた後、仕切りによってどちらか一方の部屋に隔離されます。その後、「何かを投与する部屋」にいた場合のみ痛覚を刺激するとされる「酢酸」をタコに注射しました。

その結果、酢酸を注がれたタコは水槽の壁紙を学習し、その後は同種の壁紙を避けるようになると判明。「酢酸を嫌がる」という傾向が確認されました。一方、「生理食塩水」を投与するという対照実験においてはこうした行動は確認されなかったため、「痛覚を刺激する酢酸を避ける」ことが示唆されました。



この実験に加えて、麻酔薬を用いることで、タコが「麻酔によって痛みを和らげることを好む」かどうかが確認されました。同様の水槽を用いて酢酸の投与後に麻酔薬を投与した結果、タコは麻酔薬を投与した際の壁紙を好むようになったと判明。「痛みを和らげられることを好む」、つまり、「痛みを嫌う感情を有している」ことが示唆されました。

実験の結果はこんな感じ。横軸は左から「生理食塩水を投与したグループ(Saline paired)」「酢酸を投与したグループ(AA paired)」「生理食塩水の投与後に麻酔薬を投与したグループ(Analgesic control)」「酢酸の投与後に麻酔薬を投与したグループ(Analgesic paired)」を示し、縦軸は正の数が「何かを投与する部屋に」移動した回数、負の数が「何も投与しない部屋」に移動した回数を示しています。結果を見ると、酢酸を投与されたタコは、酢酸を投与された部屋を避けるようになり、酢酸の投与後に麻酔薬を投与された(痛みが緩和された)タコは、麻酔薬を投与された部屋を好む傾向が確認できます。



また、クローク氏は、タコを「生理食塩水を投与し、麻酔薬を投与しないグループ(S)」「酢酸を投与し、麻酔薬を投与しないグループ(AA)」「酢酸の投与し、麻酔薬も投与するグループ(L)」「生理食塩水を投与し、麻酔薬も投与するグループ(LC)」の4グループに分けて、投与後24時間の行動を観察しました。その結果、「酢酸を投与し、麻酔薬を投与しないグループ(AA)」では、クチバシで投与された部位にかみつき、表皮の一部を削り取る行動が確認されました。



さらに、電気生理学的調査を実施した結果、酢酸を投与されたタコが何らかの反応を示し、麻酔薬を投与することでその反応が抑制されることが明らかになりました。



クローク氏は上記の結果から、「タコには痛覚が存在することが示唆されました。また、タコは痛みを嫌い、痛みの緩和を求める傾向があります」と述べ、タコには、痛みを嫌う感情があると主張しています。

なお、タコと同じく無脊椎動物であるイカには、人間と同様の自制心が備わっていることも判明しています。科学メディアのScienceAlertは「タコに痛覚があることや、イカに自制心があるといった研究結果は、動物の感情に関する新たな知見をもたらします。同時に、倫理的な問題も提起します」と述べ、動物の感情に関する研究の必要性を語っています。

イカには自制心が備わっていることが判明、無脊椎動物では初 - GIGAZINE