56歳夫が突然死。虚無感のなか、背中を支えてくれたものとは…
家族やパートナーなど大切な人を亡くした方に接するとき、どのように寄り添うのがよいか判断するのはとても難しいことです。
ここでは、新型コロナウイルス禍で最初の緊急事態宣言措置が実施されていた、2020年5月に、単身赴任中の夫(当時56歳)が突然死するという経験をされたライターの佐藤由香さん(当時52歳)に、ご自身の経験のなかで実感した「大切な人を亡くした人への接し方」についてつづっていただきました。
夫婦2人だけの家族で夫を突然亡くしたとき、支えになったのは…
50歳が見えてきた頃から、身内が亡くなったり、急な訃報に接する機会が増えてきました。そんななか昨年、56歳の夫が単身赴任先で急逝(死因は致死性不整脈の疑い)。自分のベッドで眠ったままの突然死でした。
わが家は夫婦2人家族。人生でこれ以上ない悲しい出来事でしたが、そのさなかに心身の支えになったのは、たくさんの人の気遣いでした。お香典やお悔みの言葉、お供物といった葬儀中のことだけではありません。ある人は仕事を引き受けてくれ、ある人は夫の話をしてくれ、ある人は食べ物を差し入れてくれて。さりげない優しさに、どれほど助けられたかわかりません。
不幸があった人に寄り添うことは、とても難しい。
もし逆の立場だったら、自分はなにをしてあげられるだろうかという思いも込めて、「してもらってうれしかったこと」をまとめてみました。
倒れたという知らせを受けて、真っ先にどうしようとなったのが仕事とペットの世話です。
私はフリーランスで働いているので忌引きの公休もないし、締めきりのある仕事で納期を厳守しなければいけません。そんな状況を察して、同じフリーランスの編集者やライターが何人も「仕事、手伝えることがあったらするよ」と申し出てくれたのは本当にありがたかった。
抱えていた原稿や撮影の現場を請け負ってくれる方がいて助けられた
当時、書き残した小さな原稿や撮影の現場がいくつかあったのですが、信頼できる人にお願いできたので、仕事上の心配ごとはまったくありませんでした。病気や介護などのピンチのときに、仕事を肩代わりするというのはものすごく大きな力になりますし、頼める信頼関係を普段から築いておくことも、とても大事だと実感しました。
東京の自宅で飼っていたセキセイインコ。一羽は、夫のあとを追うように後日亡くなりました
もうひとつの心配ごとだった、ペットの存在。夫は遠く離れた単身赴任先で倒れ、連絡をもらった直後は何日留守にするかわからない状況でした(私は東京に暮らしていて、実家もありません)。
そんななかで、わが家のペットである、きょうだいセキセイインコのことをよく知っていて、インコの飼育経験がある人に餌やりを頼めたのはなによりの安心でした。
預かってくれた知人が頻繁に送ってくれていたインコたちのLINE
ふだん留守にするときはペットシッターにお願いしていますが、急に頼めるとも限らず、鍵を受け渡す時間もない。そういうときは、やはり身近な人の力を借りなければいけないので、
本当に助かりました。
友人が送ってくれたLINEスタンプ
「無理しないでね」「ゆっくり休んでね」「ごはん食べてる?」といった、体を労わる気遣いにも励まされました。
亡くなったばかりのとき、遺族はとても忙しいし、どんなタイミングで声をかけていいか測りかねるところもあると思うのですが、メールやSNSでかまいません。長文もいりません。LINEのスタンプひとつでもいい。
それだけで、気にかけてもらっていることは十分に伝わります。私たちには子どもがいなかったので、余計にみなさんに心配をかけたと思うのですが、小さなアクションをもらうたびに「ひとりじゃないよ、大丈夫」と背中をさすってもらうような温かさを感じました。
夫がいつも持っていたセカンドバッグや財布、タバコなどの思い出の品たち
大切な人を亡くした人にかける言葉はとても難しいと思いますが、私の場合は「夫の話」をしてもらうことが大きな救いになりました。
葬儀はコロナ禍で執り行われたため、通夜ぶるまいの場では聞けません。その代わりに、いろいろな人がメールやメッセージなどで夫の思い出話を教えてくれました。
「ゴルフに何度も誘ってもらいました」
「今度釣りに行こうって話をしてたんですよ」
そんなプライベートの交友話だったり、外では私のことも話していたようで
「奥さんがライターをしていて、温泉に詳しいんだって言ってましたよ」
「奥さんと旅行に行ったときの話をいつも聞かせてくれました」
なんて、泣きそうになる話も。
もっと聞きたい、もっと、もっと…と思いながら、エピソードをひとつ教えてもらうたびに、そのときの夫の顏や声を想像し、何度も心の中で偲ぶことができました。
お悔みや慰めばかりだと、どうしても悲しみ一色になってしまいます。元気だった頃の楽しい思い出を共有し、みんなの心の中で夫が生きていると実感することも私には必要で、確かな癒しになりました。
アナログな方法で心に残ったのが、遠方で葬儀に来られなかった人や、急逝をあとから知った人にいただく手紙です。
葬儀後にいただいた手紙
お香典やお線香、お花といっしょに、哀悼の言葉や夫との思い出、感謝の気持ちが切々とつづられていて、しみじみとした気持ちに包まれました。
手紙は保存ができますし、お礼を伝える方法やタイミングも自分で選べます。SNSは失礼ではないか、かえって返信を気にするのではないか、といった理由で言葉をかけるのをためらったら、受け取る側の負担の少ない手紙で気持ちを伝えるのもいいかもしれません。
ちなみにパソコンの印字か直筆かは、私は気になりませんでした。直筆の手紙は多かったですが、どのような形でも心に届きました。
買い物すら行く気力がないなか、助けられた差し入れ
心を支えてもらったのが言葉なら、体を支えてくれたのが「食料」の差し入れでした。
葬儀を終えたあと、待ち受けていたのは恐ろしいほどの虚無感。とにかく気力というものが皆無で、買い物をする気も起きず、食欲も湧かない。
口にできるのは、ゼリー食などの栄養補助食品ばかり。正直、倒れないように生きているのがやっとという状況のなか、「おせっかいかもしれないけど」と言いながら、おかずを届けてくれる人やレトルトを宅配で送ってくれる人がどれほどありがたかったことか。
スープやシチューなどの温かい食べ物を口にすると、ほっと心が休まりました。届けてもらった食料は、まさに非常時のライフライン。少しずつ食べるうちにだんだんと気力が戻り、生活を立て直すことができました。
配偶者の死別は、人生に振りかかるストレスで最大級だといわれています。その悲嘆の寄り添い方を、私は多くの人に教えてもらいました。この感謝は、いつかだれかが同じ立場にたったときに、そっと返していけたらと感じています。
生活情報ライター。1968年埼玉県生まれ。編集プロダクションを経て、2011年に女性だけの編集ユニット「シェルト・ゴ」を立ち上げる。料理、片づけ、節約、家事など暮らしまわりに関する情報を中心に、雑誌や書籍で執筆。
ここでは、新型コロナウイルス禍で最初の緊急事態宣言措置が実施されていた、2020年5月に、単身赴任中の夫(当時56歳)が突然死するという経験をされたライターの佐藤由香さん(当時52歳)に、ご自身の経験のなかで実感した「大切な人を亡くした人への接し方」についてつづっていただきました。
夫婦2人だけの家族で夫を突然亡くしたとき、支えになったのは…
LINE、手紙、故人の思い出話…。大切な人を亡くしたとき心の支えになったこと
50歳が見えてきた頃から、身内が亡くなったり、急な訃報に接する機会が増えてきました。そんななか昨年、56歳の夫が単身赴任先で急逝(死因は致死性不整脈の疑い)。自分のベッドで眠ったままの突然死でした。
わが家は夫婦2人家族。人生でこれ以上ない悲しい出来事でしたが、そのさなかに心身の支えになったのは、たくさんの人の気遣いでした。お香典やお悔みの言葉、お供物といった葬儀中のことだけではありません。ある人は仕事を引き受けてくれ、ある人は夫の話をしてくれ、ある人は食べ物を差し入れてくれて。さりげない優しさに、どれほど助けられたかわかりません。
不幸があった人に寄り添うことは、とても難しい。
もし逆の立場だったら、自分はなにをしてあげられるだろうかという思いも込めて、「してもらってうれしかったこと」をまとめてみました。
●仕事やペットのお世話を請け負うというフォロー
倒れたという知らせを受けて、真っ先にどうしようとなったのが仕事とペットの世話です。
私はフリーランスで働いているので忌引きの公休もないし、締めきりのある仕事で納期を厳守しなければいけません。そんな状況を察して、同じフリーランスの編集者やライターが何人も「仕事、手伝えることがあったらするよ」と申し出てくれたのは本当にありがたかった。
抱えていた原稿や撮影の現場を請け負ってくれる方がいて助けられた
当時、書き残した小さな原稿や撮影の現場がいくつかあったのですが、信頼できる人にお願いできたので、仕事上の心配ごとはまったくありませんでした。病気や介護などのピンチのときに、仕事を肩代わりするというのはものすごく大きな力になりますし、頼める信頼関係を普段から築いておくことも、とても大事だと実感しました。
東京の自宅で飼っていたセキセイインコ。一羽は、夫のあとを追うように後日亡くなりました
もうひとつの心配ごとだった、ペットの存在。夫は遠く離れた単身赴任先で倒れ、連絡をもらった直後は何日留守にするかわからない状況でした(私は東京に暮らしていて、実家もありません)。
そんななかで、わが家のペットである、きょうだいセキセイインコのことをよく知っていて、インコの飼育経験がある人に餌やりを頼めたのはなによりの安心でした。
預かってくれた知人が頻繁に送ってくれていたインコたちのLINE
ふだん留守にするときはペットシッターにお願いしていますが、急に頼めるとも限らず、鍵を受け渡す時間もない。そういうときは、やはり身近な人の力を借りなければいけないので、
本当に助かりました。
●LINEのスタンプだけでも支えられていると感じた
友人が送ってくれたLINEスタンプ
「無理しないでね」「ゆっくり休んでね」「ごはん食べてる?」といった、体を労わる気遣いにも励まされました。
亡くなったばかりのとき、遺族はとても忙しいし、どんなタイミングで声をかけていいか測りかねるところもあると思うのですが、メールやSNSでかまいません。長文もいりません。LINEのスタンプひとつでもいい。
それだけで、気にかけてもらっていることは十分に伝わります。私たちには子どもがいなかったので、余計にみなさんに心配をかけたと思うのですが、小さなアクションをもらうたびに「ひとりじゃないよ、大丈夫」と背中をさすってもらうような温かさを感じました。
●思い出話をしてもらうことが救いであり、癒しになった
夫がいつも持っていたセカンドバッグや財布、タバコなどの思い出の品たち
大切な人を亡くした人にかける言葉はとても難しいと思いますが、私の場合は「夫の話」をしてもらうことが大きな救いになりました。
葬儀はコロナ禍で執り行われたため、通夜ぶるまいの場では聞けません。その代わりに、いろいろな人がメールやメッセージなどで夫の思い出話を教えてくれました。
「ゴルフに何度も誘ってもらいました」
「今度釣りに行こうって話をしてたんですよ」
そんなプライベートの交友話だったり、外では私のことも話していたようで
「奥さんがライターをしていて、温泉に詳しいんだって言ってましたよ」
「奥さんと旅行に行ったときの話をいつも聞かせてくれました」
なんて、泣きそうになる話も。
もっと聞きたい、もっと、もっと…と思いながら、エピソードをひとつ教えてもらうたびに、そのときの夫の顏や声を想像し、何度も心の中で偲ぶことができました。
お悔みや慰めばかりだと、どうしても悲しみ一色になってしまいます。元気だった頃の楽しい思い出を共有し、みんなの心の中で夫が生きていると実感することも私には必要で、確かな癒しになりました。
<一方通行の手紙がかえってよい場合も>
アナログな方法で心に残ったのが、遠方で葬儀に来られなかった人や、急逝をあとから知った人にいただく手紙です。
葬儀後にいただいた手紙
お香典やお線香、お花といっしょに、哀悼の言葉や夫との思い出、感謝の気持ちが切々とつづられていて、しみじみとした気持ちに包まれました。
手紙は保存ができますし、お礼を伝える方法やタイミングも自分で選べます。SNSは失礼ではないか、かえって返信を気にするのではないか、といった理由で言葉をかけるのをためらったら、受け取る側の負担の少ない手紙で気持ちを伝えるのもいいかもしれません。
ちなみにパソコンの印字か直筆かは、私は気になりませんでした。直筆の手紙は多かったですが、どのような形でも心に届きました。
●食事の差し入れで気力が戻った
買い物すら行く気力がないなか、助けられた差し入れ
心を支えてもらったのが言葉なら、体を支えてくれたのが「食料」の差し入れでした。
葬儀を終えたあと、待ち受けていたのは恐ろしいほどの虚無感。とにかく気力というものが皆無で、買い物をする気も起きず、食欲も湧かない。
口にできるのは、ゼリー食などの栄養補助食品ばかり。正直、倒れないように生きているのがやっとという状況のなか、「おせっかいかもしれないけど」と言いながら、おかずを届けてくれる人やレトルトを宅配で送ってくれる人がどれほどありがたかったことか。
スープやシチューなどの温かい食べ物を口にすると、ほっと心が休まりました。届けてもらった食料は、まさに非常時のライフライン。少しずつ食べるうちにだんだんと気力が戻り、生活を立て直すことができました。
配偶者の死別は、人生に振りかかるストレスで最大級だといわれています。その悲嘆の寄り添い方を、私は多くの人に教えてもらいました。この感謝は、いつかだれかが同じ立場にたったときに、そっと返していけたらと感じています。
【佐藤由香さん】
生活情報ライター。1968年埼玉県生まれ。編集プロダクションを経て、2011年に女性だけの編集ユニット「シェルト・ゴ」を立ち上げる。料理、片づけ、節約、家事など暮らしまわりに関する情報を中心に、雑誌や書籍で執筆。