核家族化が進む昨今、一人暮らしをする高齢者は増加傾向にあります。働き盛りの子ども世代にとって、年老いた親の一人暮らしは、なにかと心配事が多いもの。

今回は一人暮らしをしていた父親(当時65歳)に有料老人ホームへ入ってもらったというESSEonline読者の主婦・加藤和子さん(仮名・35歳)を取材。実際に入所するまでに起きた問題や、施設での生活の様子や介護サポートの内容などを詳しく伺いました。


一人暮らしの父親。自宅介護か老人ホームか…(※写真はイメージです。以下同じ)

弟が「在宅介護で面倒をみろ!」と父を無理やり退院させてしまった。主婦が直面した介護問題



10年前から実家で一人暮らしをしていた加藤さんの父親は、ある日、持病をこじらせて救急搬送されてしまいました。幸い命に別状はなかったものの、入院時、すでに「炊事、洗濯といった簡単な家事だけでなく、ちょっとした事務手続きをするにも頭が回らず、限界を感じている」と本人が不安を漏らしていたといいます。

「食事や服薬管理もうまくできていなかったために、糖尿病が悪化してしまいました。医師からはすでに認知症の一歩手前にいる状態だという説明を受け、本人も老人ホームへ入所することに同意。すぐに条件に合う施設はないか、病院のケアワーカーにもお願いして探してもらっていたのですが、ある日、弟が『家に戻して在宅介護をすればいい、入院費がかさむから早く退院させる』と言って退院日を早めてしまったのです…」

●地域によっては介護ヘルパーを呼びたくても人手がたりていない



子どもは和子さんと弟の2人。いずれも県外に住んでおり、実家に戻るには車で片道2時間以上。すでに結婚もしていて、それぞれ家庭があるのに、どのように在宅介護をするのか?

加藤さんの弟は、ヘルパーに頼んで週に何度か来てもらい、ヘルパーが来られない日は子どもが様子を見に行けるので問題ないという趣旨の説明を病院の医師にしていたようです。しかし、それまで、年に1度帰省するかどうかの生活だったのに、毎週戻るなんてことは現実的ではありません。

「弟夫婦は、自分たちはオフィスワーカーだから無理だけど、主婦をしている私なら毎週帰れると勝手に考えていたようです。ところが、いざ調べてみると地元は、ヘルパーを頼もうとしても人員がまったくたりておらず、週に1度来てもらえるかどうかも危うい状態でした。このまま在宅介護に移行させたら、確実に私の生活が壊れるなと恐怖を感じました」

最近は、会社の福利厚生などで介護が必要な人への介護ヘルパーの派遣や配食サービスの補助などが整っているところも多く、在宅介護がしやすい環境が整っているかのように見えることもあります。しかし和子さんの地域のように、実際に申し込もうとしたら介護リソースの問題で、お金を払っても希望している頻度でサービスを受けられないケースは少なくありません。

在宅介護を開始するときには、お金で解決できること、そうでないことを整理してから計画を立てる必要があります。

●ケアワーカーの紹介はゼロ。難航した有料老人ホーム探し




病院に常駐していたケアワーカーは、その近隣エリアしか紹介できないということで、結局入居条件に合う施設はひとつも出てきませんでした。和子さんはエリアを広げて、自分でネットを片っ端から探し、電話をかけて、入所状況を問い合わせたそう。

「病院のケアワーカーも、一人の患者のためにそこまで親身にはなってくれないので、少しエリアや条件を柔軟に変えてでも探したいときは、自分でなんとかするしかないのだと思いました」

退院日まで残り3日というところでやっと入所可能な施設を見つけることができ、面接や手続きも施設側の協力もあって大急ぎで進めることができました。

急いで決めた有料老人ホーム。入所後に発生した思わぬ負担とは?



有料老人ホームの料金は当初予定していた金額より高く、毎月5万ほど足が出る状況でしたが、預貯金を切り崩しながらやりくりしていけるので許容範囲でした。

看護士が24時間常駐している施設で、定期的な医師の往診もあり、食事や服薬管理もしてもらえる点も安心感があったといいます。施設の広い庭には喫茶店やパン屋さんがあったり、理容師も毎月訪問してカットしてくれるなど、生活に不自由はない様子だったのですが…。

●施設内に友達ができない。慣れない集団生活に父の不満が爆発!




「施設探しをしているときには、介護サービスの内容のことに夢中であまり気にしていなかったのですが、入居者の平均年齢が、父よりも10歳くらい上でした。普段の生活で、話が合う人がなかなか見つからなかったようで、朝から夜までしょっちゅう文句の電話がかかってくるようになってしまいました」

有料老人ホームは「体験入所」などを実施しているケースも多いです。どんな食事を食べるのか、入居者はどんな人たちなのか、レクリエーションの頻度や生活の様子など、事前に余裕をもって体験してみてから、決められるとよかったのかもしれません。

●父が知人に食事やお茶をおごりまくり、10万円があっという間になくなった



3食+おやつもついていて、お茶やお水も自由に飲める施設でしたが、洗濯代や喫茶費用などはその場で現金支払いが必要でした。毎月数千円程度の出費かと計算していたのですが…。

「父は、とても気風のいい性格でした。施設にはATMもないので、お金に困らないように余裕をもって10万円を渡しておいたら1か月ももたずに、あっという間に使いきってしまって…。いったいなにに使っているのかと思ったら、施設を訪ねて来てくれた友人、知人に食事やお茶をおごりまくっていたようです。いくら父のお金とは言え、大事に使っていきたい介護費用。それを“おこづかい”といって湯水のように使うので困りました。なかには施設に『お金を貸してほしい』と無心にくる怪しい人もいて…」

介護施設によっては、外出制限や面会制限をかけているところもありますが、和子さんのお父さんのように自分の意思で人を招いたり、お金を使ったりしている場合、施設側も無理に止めることは困難だったそう。

しかし「父の散財癖に気がつかぬまま一人暮らしを続けさせていたら、預貯金を使い果たしていたかもしれません。介護費用が残っているうちに父のお金に対する問題がはっきりしたのは、ある意味よかったです」と和子さん。

●まさかの急性心筋梗塞で緊急手術!離れていると緊急性がわかりにくいことを痛感




施設に入所して半年くらい、小さいトラブルはありつつも、生活にやっと慣れてきたある日、施設のケアマネージャーから「お父さんが調子悪そうなので、すぐに救急車を呼ぶことにした」という電話が入りました。

「なんでも、夕方、喫茶店から戻ってきて来てから首の後ろが痛いと訴えて、変な汗をかいていると。電話で父とも少し話しましたが、会話は普通にできているし、正直どのくらいまずい状況なのかわからず、ひとまず施設のスタッフに対応をおまかせすることにしました。搬送先の病院で診てもらった結果は急性心筋梗塞。すぐに大きい病院へ移送され、その日のうちに緊急手術になりました」

二度目の電話で、大学病院の医師から手術の同意を迫られた和子さん。まさに1分1秒を争う事態でした。和子さんが弟と一緒に病院へ到着したときには、すでに手術を終え、お父さんはICUにいたそう。無事に一命をとりとめ、心臓の機能は以前の2/3にまで落ちてしまったものの、一週間も入院すればもとの生活に戻れることになりました。

「主治医からは、心筋梗塞の場合、この病院に到着するまでに4割の人が亡くなってしまうと言われました。首の後ろが痛いという本人の話だけでは、こんな重篤な事態になっているなんて想像もつかなかったですし、施設のスタッフの的確な判断のおかげで命が救われたと思っています」

●入院費用と施設費用がダブルでかかることもある



もうすぐ70代へ差しかかろうとしている和子さんのお父さんは、年1、2回は入退院を繰り返すような状態。入院中も施設費用は(食事代を除いて)かかり続けるため、支払いが二重で発生することもしばしば。

それでも、入退院のつきそいやその後のケアも施設のヘルパーがすべてやってくれているので、最初の入院の時に比べると家族の負担はだいぶ軽減されました。働き盛りの子ども世代にとっては、親の入退院につきそう時間的な負担はとても大きいですよね。

●介護状態が進んでオムツ代もかさむように…




介護度が進むにつれて、オムツ代がかさむようになっていきました。排泄処理費用込で月に7万近く上乗せされることも。

「本人が潔癖症で、すぐにオムツを取り替えたがるので、ヘルパーさんたちのお手間もだいぶおかけしてしまっています。少しふらつきは出てきているものの、歩いたりすることはまだ普通にできているので、なるべく自分でトイレへ行くように説得しています」

排泄処理費用は施設ごとに金額設定がまちまちなので、入所前に調べておけるといいですね。在宅介護と違って、施設でかかるオムツ代は自治体からの補助もでないので、ダイレクトに金額に跳ね返ってきてしまいます。

●コロナ禍における老人ホーム生活の様子は?口だけ出してなにもしない親戚に閉口



新型コロナウイルスが猛威をふるっている今年は、家族の面会に制限をかけている老人ホームは少なくありません。和子さんのお父さんの施設では、オンラインによる面会を実施してくれたり、医師からの診察結果なども、施設のスタッフが今まで以上にこまめに共有してくれたりしているそう。
今では、仲のいい入居者友だちもできて、お父さんも快適に暮らせているといいます。

「早めの施設入所はやっぱり正解だったと思っています。いまだに、娘がいるのに、父親を施設に入れるなんて! と文句をいってくる親戚はいますが、そういう人たちは世間体ばかり気にして、父が入院しても、死にかかっても、なにもしてくれませんでした。口だけ出されても迷惑なので距離を置くようにしました」

現役世代に突然降りかかってくるかもしれない老親の介護問題。いざというときに慌てないように、常日頃から話し合いの機会を持ち、老後の計画を親子で一緒に立てていくことがみんなの幸せに繋がるカギかもしれません。

<取材・文/ESSEonline編集部>