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 今シーズン、青木宣親(ヤクルト)のホームランを見るたび、「グウィンの言ってたとおりだ」と思わず納得してしまう。

 トニー・グウィン(元サンディエゴ・パドレス/享年54歳)は、メジャー通算3141安打、通算打率.338という屈指のヒットメーカーで、彼の言葉に触れる機会に恵まれたのは、イチローがメジャーに衝撃をもたらした2001年のことだった。


38歳にしてキャリアハイとなるペースで本塁打を量産しているヤクルト青木宣親

「僕は打撃に関しては頑固者です。お墓に入るまで、自分の考えが正しいと思っているでしょうね」

 人懐っこい笑顔と独特の甲高い声で、自身の打撃論について余すことなく語ってくれたのだった。

「ホームラン打者はパワーが衰えていくことでパフォーマンスは落ちていきますが、グウィン選手のようなタイプの打者も衰えはあるのでしょうか」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

「ありません。いいコンタクトヒッターは労力を使いませんからね。ピート・ローズ、ロッド・カルー、ポール・モリターらがそうです。自分にしても40歳(当時)の今がいちばんいい打者だと思っています。そしていいコンタクトヒッターには、年齢を重ねるにつれてホームランが増えるというパターンが見られるんです。

 僕たちのような打者は、キャリアの浅い頃はフィールドに打球を散らすことに執着するのでホームランはあまり出ません。しかし、打撃への理解が深まっていくことでホームランが増えていくのです。モリターやウェイド・ボッグスがそうでした。私もそれに当てはまりつつあります」

 そして今シーズン、青木はグウィンが語る「いいコンタクトヒッターに見られるパターン」を見事に体現している。

 メジャーからヤクルトに復帰してからの数字を見れば、それは一目瞭然だ。

2018年/127試合/打率.327/10本塁打
2019年/134試合/打率.297/16本塁打
2020年/73試合/打率.309/15本塁打
※2020年は9月22日現在

 打率3割キープはもちろん、残り試合を考えれば、2007年にマークした20本塁打のキャリアハイ更新も射程圏内で、まさしくグウィンの話していたとおりの活躍を見せている。

 青木は開幕前、「今年はホームランをもう少し打ちたい」と話していたが、「だからといって体を大きくしたり、体のつくり方を変えるようなことはしなかった」と言っていた。

 打撃への理解が深まったことがホームラン増と関係しているかということについては、「トニー・グウィンという偉大な選手と自分が一緒とは(おこがましくて)思いませんが、打撃の技術的なところで言えば合っている気がしています」と語る。

「今年は自分が求めていたものが、ひとつの形になっている感じはあります。対戦するピッチャーによってアプローチの仕方は変わるんですけど、今は初見のピッチャーでも『大体こんなボールじゃないか』と、自分のなかでほぼほぼわかるというか......。

 おそらく今、日本でプレーしている選手のなかでは、自分がいちばんいろいろなボールを見たんじゃないかと思っていて、もちろんコンディションを整えるとともに、これまでの経験による知識も増えています。現代野球ではいろんなボールがありますけど、それに対してのアプローチの仕方は自分でも自信にしているし、今年はそれをより体現できている気がしています。(そのことがホームラン増に?)そうだと思います」

 つづけて青木は「変えたのはバットだけなんですけど」と言った。

「バットは毎年変えますからね(笑)。重さは変わらないのですが、去年よりちょっと長くて、形も違います。今年はそのバットが自分にすごく合っている気がします。そこは日々の体の変化やいろんなことに敏感になってバット選びをしています。やっぱり道具って大切なんです」

 ヤクルトは苦しい戦いが続きリーグ最下位に沈んでいるが、青木は"キャプテン"としてチームを鼓舞。試合が始まれば、レフトのポジションから「いい球きてるよ」「粘って粘って」など、投手への激励の声が球場に響く。

 プレーでも「ひとつのプレーで試合の流れが変わってしまうので」と、重苦しい空気を変えるバッティングや守備を披露している。

 1点入れば、まだ追いつける可能性が残されている展開での狙いすましたようなホームラン。さらに、1点も許されない状況で見せる果敢なダイビングキャッチや好返球。そのたびに、ベンチや球場が「まだいける」という雰囲気になったシーンを何度も見た。

 そうしたキャプテンの気迫あふれるプレーは、「試合はまだ終わっていないぞ」というチームメイトを鼓舞する言葉のようにも思えるのだった。

「そういうことはまったく考えていませんが、そう感じる選手はいるでしょう。ひとりで決めようとか、そういう気持ちではなく、つないでいくという意識です。それが"打線"になると思いますし、そこに意識があったほうが絶対にいい。やっぱり野球はひとりではできないし、チームプレーですから」

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 先日、高津臣吾監督はこんなことを口にした。

「チームは今、苦しい状況ですが絶対に流れはくると思っています。それまでしっかり我慢して、準備して、努力することを絶対に続けていきたい。チームがお祭り騒ぎのなかで野球ができる瞬間を待っています」

 青木に"お祭り騒ぎのなかの野球"のイメージについて聞くと、こんな答えが返ってきた。

「やっぱり勝つとそうなりますよね。これはどこのチームも一緒と思います。あと(今年は)お客さんが少ないことでいつもとちょっと違うかもしれません。応援があると野球をやっている感じがしますし、お客さんが多いほうがうれしい。やっぱり"音"はほしいですね」

 残り試合、青木がいいコンタクトヒッターとしてホームラン数を伸ばし、キャプテンとして"お祭り騒ぎのなかの野球"へとチームを導いてくれることを期待している。