映画『赤い風車』より
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 ポスト印象派として、ゴッホやセザンヌ、ゴーギャンらと並んで1900年代初頭まで活躍した画家で、体に障害を持ったことで数奇な運命をたどった画家アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの生涯を描いた映画『赤い風車』は彼の孤独を映し出す1952年のアメリカ映画だ。

 赤い風車とはフランス語でムーランルージュを意味し、パリのモンマルトルにあるキャバレーの名前でもある。その名のとおり店の外観は大きな風車がシンボルになっている。ロートレックは、このキャバレームーランルージュを拠点に創作活動にいそしみ、踊り子たちをモデルにした版画のポスターは世界的な知名度だ。

 映画『赤い風車』は当時の猥雑だがエネルギッシュなムーランルージュを魅力的に描き出す。踊り子たちの下世話さや、男たちの欲望やさまざまな混沌としたエネルギーがキャバレー中にほとばしり、テクニカラーの鮮やかな色で表現されている。

 ロートレックは時にはテーブルクロスや紙ナプキンなどにスケッチをし、店のポスターを描くことと引き替えに飲み代をチャラにしたりと、この店は彼の生活の一部になっていた。後にアルコール中毒に苦しむことになるのだが、彼のまとう雰囲気は場末ののんだくれではなく、どこか高貴で品がある。それもそのはずロートレック家は伯爵家で彼の生家はかなり裕福だ。しかし、子供のころの事故と遺伝的疾患で彼の身長は150センチ前後で成長が止まり、才能も財産もありながら自分をさげすみ、女性からの愛が本物であっても信じることができず孤独に酒に溺れていく。

 心身共にボロボロになりながらもロートレックは絵画に情熱をかたむけ、「洗濯女」「ディヴァン・ジャポネ」「ムーラン・ルージュにて 」「アンバサドゥールのアリスティード・ブリュアン」など多くの名画、リトグラフを生み出した。特にポスターを芸術の域にまで高めたことで美術史に名を残す。

映画『赤い風車』でロートレックを演じていたホセ・ファーラーの身長は180センチ以上あり、150センチ前後のロートレックを演じるため膝で足をたたみこみひもで結び付け膝に靴を置いて演じたという。

監督は『許されざる者』『マルタの鷹 』『黄金』などで孤独な男性の心の機微を見事に描くことに定評があるジョン・ヒューストン。孤高の画家ロートレックを優しく人間味溢れる人物に描いている。(編集部:下村麻美)

製作年:1952年(120分)カラー
製作国: イギリス、アメリカ
監督:ジョン・ヒューストン
出演:ホセ・ファーラー、コレット・マルシャン 、シュザンヌ・フロン

映画『赤い風車』は金曜レイトショーにて9月11日23:00〜無料配信