アメリカ空軍は2020年9月8日、現行のLGM-30GミニットマンIIIに代わる新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発契約を、ノースロップ・グラマンと締結したと発表しました。契約金額は1330億ドル(約14兆834億円)に及び、8年半の間に設計から評価試験、核兵器運搬能力を認定するまでの開発プロセス全般を終了させる予定としています。

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 SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)と並び、アメリカの核戦力の中核をなすICBM。現在運用についているのは1970年から配備されたLGM-30GミニットマンIIIで、第90ミサイル航空団(ワイオミング州フランシス・E・ワーレン空軍基地)、第91ミサイル航空団(ノースダコタ州マイノット空軍基地)、第341ミサイル航空団(モンタナ州マルムストローム空軍基地)に計400発が配置されています。





 ミニットマンは原型のLGM-30A/B「ミニットマンI」が1960年代初めに配備され、少しずつ性能が高められてきました。後継として、攻撃能力の高いLGM-118ピースキーパーが1986年に就役したのですが、アメリカとロシアとの間で1993年に調印されたSTART II(第2次戦略兵器削減条約)、2002年に調印されたモスクワ条約により、ピースキーパーは過剰な戦略兵器とされ、2005年までに全てが退役してしまったのです(ロケットブースター部分は人工衛星打ち上げ用ロケット「ミノタウロス」として再利用)。

 後継ミサイルが先に退役してしまった結果、ミニットマンIIIは配備からおよそ半世紀が経過しようとしている今も現役にとどまり、地下のミサイルサイロで「アメリカ存亡の危機」に備えています。その間、定期的な整備はもちろんのこと、年に数回は「性能確認」のため、核弾頭を搭載しない状態での発射試験も実施されていますが、基本設計の古さからくる陳腐化は避けられません。


 このため、攻撃能力が過剰になりすぎない程度で、現在及び将来の脅威に対処できる新たなICBMが求められるようになりました。これがGBSDと略称される「地上配備型戦略的抑止力(Ground Based Strategic Deterrent)」計画で、確固たるものでありつつも情勢の変化に柔軟に対応し、応答性の高い戦略的核抑止力の獲得を目指しています。


 マーク・エスパー国防長官は「戦略的核戦力の三本柱(戦略爆撃機・ICBM・SLBM)の近代化は、アメリカ軍にとって喫緊の課題です。これは国土防衛の鍵となる存在で、私たちがこれから何十年にもわたって日々依存する戦略的核抑止力を提供するものです」と、老朽化したミニットマンIIIを更新するGBSD計画の重要性を強調しています。

 アメリカ空軍地球規模攻撃軍団(AFGSC)司令官、ティム・レイ大将は「私はGBSDがもたらす革新的な戦闘効果に全幅の信頼を置いています。私たちは手堅い要求性能に、最新のテクノロジーを活用します。技術的な基盤は確保されており、計画を迅速かつ適切に、そして手頃な予算で実現するためにモジュール設計を採用しました。命中精度の向上、射程の延長、そして信頼性の向上により、予期せぬ不測の事態に幅広く対処できるオプションがアメリカに提供されるとともに、あらゆる敵対勢力と対峙して勝利するため必要な優位性を確保できるでしょう」とコメントを発表し、性能面で背伸びをせず、そこに最近技術を活用することで精度と信頼性を高める、というGBSD計画の目標を説明しています。

 開発を受注したノースロップ・グラマンのケイシー・ワーデンCEOは「我が国は急速に進化する脅威にさらされており、最新の戦略的抑止力で市民の安全を守ることは、より一層重要になっています。すべてのICBMで65年以上もの技術的リーダーシップにより、私たち全国規模のチームは、今後何年も世界の平和と安定に寄与する、安全で信頼性の高い効果的なシステムを提供するため、アメリカ空軍とともに歩み続けられることを誇りに思っています」とのコメントを発表しています。

 ICBMは非常に複雑なシステムであり、ノースロップ・グラマンは開発を担当する共同事業体の幹事社といった存在。今回のGBSD開発チームには、エアロジェット・ロケットダイン、ベクテル、コリンズ・エアロスペース、ゼネラル・ダイナミクス、ハネウェル、ロッキード・マーティンなど各社が名を連ねています。

 アメリカ空軍核兵器センターでは、設計から核兵器運用能力を確認するまでの開発フェーズを8年半と見積もっています。開発スケジュールが順調ならば、新しいICBMは2029年にも初度運用能力を獲得する見込みです。

<出典・引用>
アメリカ国防総省 ニュースリリース
アメリカ空軍 ニュースリリース
ノースロップ・グラマン ニュースリリース
Image:USAF

(咲村珠樹)