フィリピン海で活動する米空母ロナルド・レーガンに着艦するヘリコプター「シーフォーク」(2020年7月29日撮影、米海軍のサイトより)


 2020年7月23日、マイク・ポンペオ米国務長官は、カリフォルニア州のニクソン大統領記念図書館で「共産主義の中国と自由世界の未来」と題した演説を行った。

 そして、「中国共産党政権はマルクス・レーニン主義政権である。習近平総書記は破綻した全体主義イデオロギーの信奉者である。中国の共産主義に基づく覇権への野望を長年抱き続けている」と述べた。

 続けて、「今こそ有志国で、民主主義国による新たな同盟を構築する時である。自由世界が変わらなければ、中国共産党が確実に我々を変える」と中国との対決姿勢を鮮明にした。

 米中対立は、後戻りのできない段階へ進んだ。

 世界は、かつての米ソ冷戦時代のように米国陣営(自由主義)と中国陣営(共産主義)の2つのブロックに分断されるのであろうか。

 あるいは、米中対立は武力衝突に発展するのであろうか。

 さて、米中対立は75%の確率で武力衝突に至るであろう。

 これは筆者の言葉でない。米国の著名な政治学者であり、かつレーガン〜オバマ政権の歴代国防長官の顧問を務めた実務家でもあるグレアム・アリソン氏がその著書『米中戦争前夜』(2017年発刊)において言わんとしていることである。

 新型コロナウイルス感染症への対応や香港情勢などをめぐって激しさを増している米中の対立は、双方の在外公館が閉鎖されるという異例の事態に至っている。

 外交・安保専門家は、この事態をトランプ大統領の大統領選挙を有利にするためのプロパガンダではないかという見方を述べている。

 短期的に見ればそのような側面もなくはないが、長期的に見れば、覇権国・米国と新興国・中国の覇権争いの一環であると筆者は見ている。

 歴史を振り返れば、時代とともに覇権国は変遷してきた。

 グレアム・アリソン氏は、「新興国が覇権国に取って代わろうとするとき、新旧2国間に危険な緊張が生じる。現代の中国と米国の間にも、同じような緊張が存在する。両国が困難かつ痛みを伴う行動を起こさなければ、両国の衝突、すなわち戦争(注1)は避けられないだろう」と述べている。

 現代においても、過去の歴史が示すように、米中武力衝突の蓋然性は高いのであろうか。このようなテーマで本稿を論じる。

 初めに、米国の相対的衰退と中国の台頭について述べ、次に、覇権国と新興国の対立はなぜ武力衝突に至るのかについて、最後に米中武力衝突の蓋然性について述べる。

(注1)戦争という用語には、国際法上の戦争と、比喩法による戦争が混在している。比喩法による戦争には貿易戦争やコロナ戦争などがある。現在は、「国際法上の戦争」が違法化されていることを受けて、各国とも、「戦争」という用語の使用を避け、代わりに「武力紛争」や「武力衝突」などの用語を使用している。ところが、米国では、憲法の条文や法律名にも「戦争」が使用されていることから、「戦争」という用語が官民において広く使用されている。ちなみに、アリソン氏の著書『米中戦争前夜』の原題は『Destined for WAR』である。

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1.米国の相対的衰退と中国の台頭

(1)これまでの米中関係の趨勢

 米国の一極時代が終わったのは、2008年のリーマンショックを契機とした世界的な金融危機であろう。そこにBRICs(Brazil、Russia、India、Chinaの頭字語)の台頭が重なり、米国の「相対的衰退」が指摘されるようになった。

 そして、バラク・オバマ大統領が戦後の米大統領として初めて「アメリカは世界の警察官ではない」と表明したのは2013年9月である。

 その直後の2013年12月、米独立系世論調査機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)は、「米国の世界のリーダーとしての役割と力が10年前と比べて弱まっていると考える人(米国人)が、40年ぶりに多数派(53%)となった」とする調査結果を発表した。

 また、2015年に発表されたPwC(プライスウォーターハウスクーパース)の調査リポート(「2050年の世界」)は、中国は2030年までに世界最大の経済大国になるであろうと予想した。

 実際に、2015年当時、米国の国内総生産(GDP)の世界に占める割合が、大戦直後の2分の1から4分の1に落ち込んでいた。

 ちなみに、国際通貨基金(IMF)の統計によると、2018年の世界のGDPは84,9兆ドル、内訳は世界1位の米国が20.6兆ドル(24%)、2位の中国が13.4兆ドル(16%)、3位の日本が4.9兆ドル(6%)となっている。

 2018年2月、米太平洋軍のハリー・ハリス司令官は、米下院軍事委員会の公聴会で、中国が急速に目を見張るほどの軍備増強を進めており、近く「ほぼすべての領域(陸・海・空・サイバー・宇宙・AI)で米国に並ぶ軍事力を持つ可能性がある」と警を鳴らした。

 他方、中国が、大国意識に目覚めたのは、リーマンショックを各国に先駆けて克服し、2010年にGDPが日本を抜き世界第2位になったころであろう。

 そして、2013年には、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を提唱し、2014年には「一帯一路構想」を提唱するなど影響力をグローバルに拡大する姿勢を鮮明にした。

 2015年、中国政府は、2049年の中華人民共和国建国100周年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標とする「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」を発表した。

 2016年7月12日、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、中国が主権を主張する独自の境界線「九段線」に国際法上の根拠がないと認定した。

 これに対し、習近平総書記は「裁定は受け入れられないと」と述べた。中国は国際法には従わない姿勢を鮮明にした。

 2017年10月18日、中国共産党第19回全国代表大会において、習近平総書記は、21世紀半ばまでに、「総合国力と国際的影響力で世界の先頭に立つ」という目標を明示した。

 2018年3月11日、中国の全人代は、国家主席の任期を2期(10年)までとしていた規定をなくす憲法改正案を可決した。

 中央委員会総書記および中央軍事委員会主席の任期に関する制限規定はないため、これにより「中華民族の偉大な復興の実現」を標榜する習近平総書記が、制度上は党・軍・国家すべての最高指導者の地位を終身維持できることなった。

(2)米中新冷戦時代

 米国は、中国が増大する経済力と増強する軍事力を背景に世界における米国の覇権を急速に侵食しつつある状況を目のあたりにした。

 ほぼ時を同じくして、旧ソ連を崩壊に導いたロナルド・レーガン大統領と同じ「アメリカを再び偉大に」を選挙スローガンとするドナルド・トランプ大統領が就任(2017年1月20日)した。

 そして、2018年10月4日、マイク・ペンス米副大統領は、ワシントンのハドソン研究所でトランプ政権の対中国政策に関して歴史的講演を行い、中国を次のように評した。

「地域的にも世界的にもその影響力を再び主張し、米国の地政学的な優位性に異議を唱え、国際秩序を有利に変えようとしている」

 これを受けて、ニューヨーク・タイムズは「新冷戦への号砲」と評した。

 また、前述したが、2020年7月23日、ポンペオ米国務長官は、中国との対決姿勢を鮮明にした演説を行った。

 ニューヨーク・タイムズは「トランプ政権が米中関係を後戻りのできない地点へと推し進めている(Official Push U.S.-China Relations Toward Point of No Return)」と評した。

2.覇権国と新興国の対立は、なぜ武力衝突に至るのか

 本項では、経済的・軍事的に台頭する新興国と、追われる覇権国の対立が、なぜ武力衝突に至るのか、について考えてみたい。

 グレアム・アリソン氏は、その著書『米中戦争前夜』の中で、「猛烈な勢いで成長を遂げる中国は、米国の圧倒的優位に挑戦状を突きつけている。このままでは米中両国は、古代ギリシャの歴史家トゥキディデスが指摘した致命的な罠に陥る恐れがある」と述べている。

 トゥキディデスは、古代ギリシャ時代に、台頭するアテネと覇権を握るスパルタの間で長年にわたって戦われたペロポネソス戦争を記録し、「アテネの台頭と、それによってスパルタが抱いた不安が、戦争を不可避にした」と書き残した。

 一般に歴史家は、戦争の原因を近因(直接的な引き金)に注目するが、トゥキディデスは、戦争をもたらした構造的要因の方が重要だと考えた。

 そして、新興国が覇権国に取って変わろうとすると、国際関係に構造的ストレスが生じて暴力的な衝突が起こることを明らかにした。

 このような現象が見られるのは、国家間だけではない。

 ビジネスの世界では、新興企業が破壊的な技術を武器に市場に参入してくると、その分野の既存の巨人はビジネスモデルの変更を強いられるか、さもなければ滅びるしかない。

「トゥキディデスの罠」とは、新しい勢力が既存のトップの地位を脅かすときに生じる避けられない混乱のことである。

 上記のように、それはどんな領域でも起こり得るが、最も危険な結果をもたらすのは国家関係である。

 紀元前5世紀のアテネとスパルタ、そして、1941年のドイツと英国の間では、そのストレスが戦争に発展した。

 1950年代と60年代のソ連と米国の間では、戦争になりかけたが回避された。

 次に、古代ギリシャ時代にアテネとスパルタの間に生じたストレスと、現在の米中間に生じているストレスとを比較してみる。

●アテネとスパルタの間に生じたストレス

 アテネは、自分たちの台頭を無害なものと考えていた。だが、その急激な発展はペロポネソスの盟主スパルタを脅かした。

 自信とプライドを高めたアテネは、自分たちに敬意を払うよう求め、既存の序列を変更すべきだと考えた。

 一方、スパルタは、アテネの繁栄は、自分(スパルタ)が安全な環境を与えてやったからこそ得られたものでないか、と考えていた。

 アテネが自信をつけ、大きな発言権と影響力を求めると、スパルタは不安と恐れを抱き、現状を維持する決意を強めた。(出典:『米中戦争前夜』p6))

●米中間に生じているストレス

 中国の為政者たちは「中国は平和的台頭を望んでいるだけだと」と繰り返し主張しているが、軍事能力、とりわけ攻撃能力(対艦弾道ミサイル、対衛星兵器、原子力潜水艦、弾道ミサイルなど)の急速な開発・保有は、覇権国米国を脅かしている。

 また、大国意識を強めた中国は、地域的にも世界的にもその影響力を再び主張し、米国の地政学的な優位性に異議を唱え、国際秩序を有利に変えようとしている。

 一方、米国は、中国の繁栄は、中国がいわゆる「屈辱の世紀」の時代に、米国が中国に米国経済への自由なアクセスを与え、そして米国の支援によりWTO(世界貿易機関)へ加盟したことによるものであると考えている。

 さらに、米国は、中国のハイテク産業の発展は、中国が米国などの先進国から最先端の軍事および民生技術をサイバー諜報活動などにより窃盗することにより達成することができたものであると考えている。

 しかるに、中国は、米国の恩を忘れ、米軍を西太平洋から追い出そうとしている、と米国は見ている。

 そして、2030年代に米国と中国のGDPが逆転するかもしれないことや、早晩、中国軍に対する米軍の優位性が喪失するかもしれないことに不安を感じた米国は、覇権国に留まることを決意し、国防費の増額、核戦力の近代化、そして、中国の軍事力の源泉である経済力を弱体化させることを決意したのである。

 さて、上記のギリシャ時代のアテネの台頭によりスパルタが抱いた不安と、現代の中国の台頭により米国が抱いた不安は、驚くように一致している。

 それは、米中は既に「トゥキディデスの罠」にはまっているということである。

 そして、判断ミスや偶発事件によって、実際に米中武力衝突が生起する蓋然性が大きくなっていると筆者は推測する。

 付言するが、米中対立が米中武力衝突に至っても、筆者は、核戦争には至らず通常兵器による局地戦に留まると見ている。

 なぜなら中国は『核兵器の先制不使用』を宣言している。また、通常兵器で圧倒的に優勢な米国があえて核兵器を使用する必要性は少ないと見ている。

3.米中武力衝突の蓋然性

(1)過去の事例の検証

 前出のアリソン氏は、「トゥキディデスの罠」の仮説を検証するために、ハーバード大学の中に「トゥキディデスの罠プロジェクト」を立ち上げ、過去500年の歴史で新興国が覇権国の地位を脅かしたケース16件について研究した。

 このうち以下の12件では最終的に戦争が起きた。

16世紀前半のフランスとハプスブルク家
16〜17世紀のハプスブルク家とオスマントルコ

17世紀前半のハプスブルク家とスウェーデン
17世紀半ば〜末のオランダと英国

17世紀末〜18世紀半ばのフランスと英国
18世紀末と19世紀初めの英国とフランス

19世紀半ばのフランス・英国とロシア
19世紀半ばのフランスとドイツ

19世紀末と20世紀初めの中国・ロシアと日本;日清戦争と日ロ戦争

20世紀初めの英国とドイツ(フランスとロシアが英国を支援)

20世紀半ばのソ連・フランス・英国とドイツ
20世紀半ばの米国と日本

 残りの4件(以下に示す)では戦争を回避できた。

15世紀のポルトガルとスペイン
20世紀初めの英国と米国

1940年代〜80年代の米国とソ連
1990年代〜現在の英国・フランスとドイツ

 このような研究結果を著書『米中戦争前夜』の中で発表した。

 これが、75%(16件のうち12件)の確率で米中戦争が勃発するという数字の出所である。

(2)ミアシャイマーの理論

 新興勢力と既存の強国との組み合わせがなぜ戦争という結果を招くかという問題について、シカゴ大学教授ジョン・ミアシャイマー氏が説得力あふれる理論を『大国政治の悲劇』の中で展開している。

 ミアシャイマー氏の理論は3つの仮定に基づいている。

●第1の仮定は、「世界体制は無政府状態だ(つまり国家を取り締まる権威をもった組織が存在しない)」というものである。

●第2の仮定は、「すべての国家は軍事力、つまり戦争のための兵器を増強する」というものである。

●第3の仮定は、「他国の真意を知ることはほぼ不可能である」というものである。

 つまり、単に自衛のために軍事力を増強しているのか、征服を目論んでいるのかは判断しがたい。

 現在、アジア諸国および米国が独裁主義的な中国の台頭に対して感じている恐怖の原因はまさに、国家の意図の不透明と、国家間のトラブルを解決する警察官的存在の不在である。

 これらの仮説を現実の世界にあてはめて考えてみる。

 国家を取り締まる権威をもった組織として創設された国連は、常任理事国同士の対立によって、機能不全に陥っている。

 また、相手側が軍事力を増強すると、恐怖を感じた側は自衛能力の増強に努めるようになり、その結果、危険な拡大スパイラルが生じる。

 これがいわゆる「安全保障のジレンマ」である。

 また、人間同士でも、相手の真意を知ることは不可能である。いわんや他国においておやである。

 中国の不透明な軍備増強と海洋進出は、日本を含む地域および国際社会の安全保障上のリスクとなっている。

(3)旧ソ連崩壊の教訓

 北朝鮮は、米国を中心とする国際社会の圧力で核開発を放棄したイラクのサダム・フセイン政権とリビアのカダフィ政権の悲惨な末期を知っている。

 だから核兵器を絶対手放さないであろう。

 これと同じように、中国は旧ソ連崩壊の教訓を学んでいる。

 ハーバード大学のエズラ・F・ヴォーゲル名誉教授は、習近平総書記は、「ゴルバチョフ現象」を極度に恐れていると指摘する。

「ゴルバチョフ現象」とは、ゴルバチョフのように急進的な自由化を推し進める過程で、政権の求心力が低下し、結果的に統治不能に陥ってしまうリスクをいう。

 また、中国国内には官民問わずソ連を崩壊に追いやった“黒幕”は米国であると見ている人間が少なくないという。

 新旧大国間で譲歩と妥協ができれば、武力衝突を回避することができるかもしれない。しかし、お互いを信頼していない米中間では譲歩も妥協もできないであろう。

(4)結論

 さて、上記の過去の事例の検証、ミアシャイマー理論、旧ソ連崩壊の教訓が示すところは、新旧大国の覇権争いが武力衝突に至る蓋然性は極めて高いということである。

 武力衝突にも多くの形態が考えられる。

 南シナ海や東シナ海での武力衝突では、漁船(民兵)や海警局(China Coast Guard)の船艇などの行動が主体となるものから、海軍の艦艇が中心となるものがあり、偶発的な衝突から本格的な国家間の衝突まで考えられるが、本稿では、海軍の艦艇の偶発的な武力衝突以上の蓋然性を対象としている。

 さて、多くの人々は、さすがに武力衝突にはならないだろうと思うだろう。筆者もそうである。

 しかし、アリソン氏は「愚かな選択や望ましくない選択は、あり得ない選択とは違う。戦争は、リーダーたちが絶対に回避しようと思っていても起きる。偶然の出来事や相手方の行動が、選択肢を狭め、こんな状況を受け入れるぐらいなら戦争をした方がましだ、という思考をもたらす」と述べている。

 確かに、かつて、日本が選択肢を狭められ、太平洋戦争に突入した歴史を思い出す。

 また、多くの専門家は、現在の米中経済は極めて相互依存が高いから、双方とも戦争の選択をしないだろうと言う。

 第1次世界大戦前の英国とドイツの経済的結びつきは極めて大きかった。この貿易と投資の依存関係が戦争防止に寄与することが期待されたが、現実は違った。

 そして、戦争が起きたとき、英国とドイツは甚大な経済的打撃を被った。このように漫然と経済的な相互依存関係に頼っていては、戦争は回避できない。

おわりに

 本稿は、覇権国・米国と新興国・中国の武力衝突の蓋然性をテーマに論じてきたが、筆者の結論は、米中武力衝突の蓋然性は高いが、不可避ではないということである。

 蓋然性の高い理由は、現在の米中間にはトゥキディデスが指摘した新興国と覇権国間に生じる構造的ストレスが既に存在することである。

 グレアム・アリソン氏は、『米中戦争前夜』の中で「戦争を回避するために、何よりも大事なことは、両国のリーダーと一般市民の双方が、これまでの態度と行動を根本的に変えることだ」と述べているが、現時点で米中どちらにもそのような気配は全く見らない。

 次に、不可避でない理由は、米中の「経済の依存関係」の強さである。

 中国共産党支配の正当性は経済の持続的な発展である。

 一方、米国では経済指標が米大統領の支持率に大きく影響する。ひとたび武力衝突が生起すれば両国は甚大な経済的打撃を受けるであろう。

 従って、両国の指導者は武力衝突の防止に最大限の努力を傾けるであろう。

 艦艇同士の衝突などの偶発的な事故が生起しても、両国は事態のエスカレーションの防止に動くであろう。

 幸い、米中間に首脳間のホットライン(1998年設置)や軍事ホットライン(2007年設置)などの危機管理メカニズムが構築されている。

 ところで、当然のことだが、筆者は米中武力衝突を望んでいるわけではない。

 現在、米国が仕かけている貿易摩擦(追加関税の応酬)やハイテク摩擦(中国製電気通信機の排除や米国製部品の禁輸措置など)などが奏功して、中国の軍事力増強の基礎である中国の経済力を弱体化し、未然に米国の覇権に挑戦する中国の意欲をそぐことが最善の方法であると筆者は考えている。

 さて、日本の対応であるが、日本は、戦後一貫して、日米安全保障体制に依拠して平和と安全を維持してきた。今後とも日米同盟が日本防衛の機軸であることは自明のことであろう。

 しかし、日本にもジレンマがある。

 日米安保に依存ばかりしていては、憲法改正から自主防衛体制の確立という道筋は容易に見出せない。

 日米安保を機軸としながら、いかに自主防衛体制を構築するかが課題である。

 その際、米国の安全保障にとっての日本の価値をいかに高めるかについての視点も重要である。

筆者:横山 恭三