日本のオノマトペ、英語ネイティブにどれだけ通じるでしょうか?(写真:Fast&Slow/PIXTA(ピクスタ)

先日、雨の中を出社してきた同僚のジョンが、濡れたリュックをふきながら、おもむろに「『びしょびしょ』と『びちゃびちゃ』はどう違いますか」と聞いてきました。朝っぱらから、なぞなぞか何かかと思ったら、真剣な日本語の質問だったよう。


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感覚的に「びちゃびちゃ」のほうが、水しぶきがはねているイメージなのでより「水っぽい」感じがしますが、面倒くさくなって「同じじゃないの?」と言ったら、無言で冷たい視線を送ってきたので、しぶしぶ調べることに……。

日本語の擬音語・擬態語を調べながら、英語のそれについてもあれこれと考えてみました。日本語との類似点や相違点がなかなか興味深かったので、今回は擬音語・擬態語について取り上げてみます。さて、皆さんは英語でヒツジがなんと鳴くかご存じですか。

擬音語と擬態語

日本語には擬音語・擬態語がたくさんあると言われていますが、その数は約2000。でも、実は言語の中で最も多く擬音語・擬態語を有しているのは韓国語のようで、約8000語もあるそうです。

擬音語は「物音や動物の鳴き声などを模倣したもの」、擬態語は「実際には無音であるが、動作や状態などを象徴的に表したもの」を指します。例えば、「店がガヤガヤしている」「スズメがチュンチュン鳴いている」の「ガヤガヤ」や「チュンチュン」は擬音語の例です。


擬態語には、「床がぴかぴかだ」「うっとりしている」の「ぴかぴか」や「うっとり」などがあります。ただし、擬音語と擬態語ははっきりと区別できないものもあるようで、「雨がパラパラと降る」の「パラパラ」は雨音を表した擬音語とも、まばらな様子を表した擬態語ともとらえることができます。

日本語では擬音語と擬態語の両方をあわせて「オノマトペ」と呼びますが、これの英訳語onomatopoeia (/ˌɑnəmætəˈpiə/ アヌマトゥピーア)は通常、擬音語のみを指します。

日本語の「オノマトペ」にあたる、擬音語と擬態語両方をあわせた総称はideophone (/ˈɪdɪəfoʊn/ イディアフォウン)またはmimetic words というのが正しいようです。

ただ、日本語でも英語でも言葉の定義が曖昧なところがあるようで、例えば「擬声語」という単語があるのですが、これは「オノマトペ」の意味で使われたり、「擬音語」の中の「動物や人が発する音を表すもの」の意味で使われたりするそう。英語では、人によってはideophoneを「擬態語」の意味で使うこともあれば、総称として使うこともあるようです。ややこしいですよね。

ゆかいな牧場

まずは擬音語についてお話していきましょう。皆さんは、童謡「ゆかいな牧場」を覚えていますか。「いちろうさんの牧場で、イーアイ、イーアイ、オー、おや鳴いてるのはアヒル、イーアイ、イーアイ、オー」という歌。筆者は小学校のときに歌った記憶があります。

この歌、もともとはアメリカ民謡で、Old MacDonald Had a Farm (マクドナルドじいさんの牧場)というタイトルなんです。日本には、「マクドナルドじいさん飼っている」という別訳のバージョンもあるようですが、そちらもおそらく同じような歌詞でしょう。今回は原曲の英語の歌詞を見てください。


「ゆかいな牧場」では、たしか子ブタとかアヒルとかが出てきた気がします。でも、何番まであったのかも覚えていませんし、当時は動物を入れ替えて歌ったりもしていたので、オリジナルの歌詞にどんな動物が登場しているのかも、いまとなっては……。

実は、英語のほうも、オリジナルの動物がなんだったか、あまり自信がありません。cow(ウシ)が登場していたのは覚えているので、cowで書いてみました。ネットでも調べてみたのですが、バリエーションがたくさんありすぎて、どれが本家本元の歌詞なのか判別できませんでした。

ともあれ、この歌、擬音語である動物の鳴き声を覚えるのには、すごく便利なので、皆さんぜひ歌ってみてください。メロディーは覚えていますよね。不安な方はYouTubeなどで検索してみるといいでしょう。タイトルを入れると、いろいろな動物のバージョンで聞くことができますよ。

英語の歌詞を見てお気づきだと思いますが、英語ではウシはmoo(ムー)と鳴きます。これは日本語の「モー」とかなり類似しているほうでしょう。では、ほかの動物の鳴き声はどうでしょう。さすがに牧場にはカエルやフクロウは微妙ではありますが、興味深いので一緒に書いてしまいました。よかったら覚えておいてください(笑)。


日英で比較してみると、ネコのmeow(ミヤーウ)と「ニャー」も似ていますね。フクロウのhoot(フートゥ)と「ホー」もいい線いってます。逆にまったく異なるのが、ブタのoink(オインク)と「ブー」、ウマのneigh(ネーイ)と「ヒヒーン」。ヒツジのbaa(バー)と「メー」もぜんぜん違いますね。

同じ鳴き声を聞いても、まったく違う擬音語になってしまうこともあるんですね。でも、日英どちらも元の鳴き声をイメージしながら発音してみると、それらしく聞こえるところが面白いと思います。ぜひ、声に出して読んでみてください。

日本語の音の持つイメージ

オノマトペの話でよく耳にするのですが、「音象徴(sound symbolism)」というものがあるそうで、これは特定の音声が象徴的な意味を表すことのようです。日本語で言うと、母音や子音、また清音や濁音、半濁音などに、それぞれ想起される意味やイメージがあるらしいのです。

これらが複雑に絡み合ってオノマトペ全体のイメージを形成しているのかもしれませんね。自分で新しいオノマトペを作り出しても、聞き手にも通じるのはそのせいなのでしょうか。きっと、動物の鳴き声がオノマトペになったときにも、こういったイメージが影響したのでしょうね。

五十音の「い」段にある音には「すばやさ、鋭さ、音の高さ、細さ、線状、緊張」などのイメージがあるそうです。

「あ」段の音は「広さ、大きさ、荒さ、明るさ、動きの速さ」など、「お」段の音は「大きさ、動きの速さ、荒さ、音の鈍さ」などだそう。「う」段の音は「暗い心情、音の柔らかさ、飛び出す動き」などで、「え」段の音は「下品、野卑、否定的」なのだとか。「へらへら」とか「でれでれ」とか、確かに「え」段にはネガティブな感じのもの、ありますね。


清音(濁点や半濁点のつかない音)は「弱さ、小ささ、柔らかさ、もろさ、おだやかさ、細さ、量の少なさ」などのイメージがあり、濁音(「が」「じょ」「べ」などの濁点のつく音)はその逆で「強さ、硬さ、厚さ、荒さ、量の多さ、太さ」などがあるそうです。

半濁音(「ぱ」「ぴ」「ぷ」などの半濁点のつく音)には「弾み、愛らしさ、軽さ、鋭さ、弾力」などのイメージだということです。子音はたくさんあるので今回は割愛しますが、やはりそれぞれに象徴的な意味があるそうです。


英語の音の持つイメージ

英語でも、phonestheme (音表徴素)という「単語の中で一定の意味やイメージを想起させる音素の結合」なるものがあります。

phonesthemeは1930年にイギリスの言語学者John Rupert Firthが作り出した造語のようです。これらの例をいくつか見てみましょう。


もちろんこれらの音が入ったすべての単語に当てはまるわけではないのですが、確かにそれぞれのphonesthemeに共通の意味がある感じがしますね。ちなみに、これは接頭辞(例:sub- 「下」「下位」、pre- 「あらかじめ」「前部の」)や接尾辞(例:-less 「〜のない」「〜を欠く」、-er 「〜する人」「〜するもの」)などとは異なるそうです。

でも、これって学習者視点にしてみると、単語を覚えるときに便利なような混乱するような、複雑な気分ですね。おおまかな意味をつかむときには助けになりそうですが、実際に自分が単語を使うときにはどの単語だったのか迷ってしまいそう。

このphonestheme、面白いことに母音にも当てはまるものがあるそうです。それによると、wee(ほんのちょっと)の母音の/i/や、little(小さい)の母音の/ɪ/など、口の中で前のほうの高い位置で発音する母音には「小さい」という意味があり、all(すべて)の母音の/ɔ/や、lot(たくさん)の母音の/ɑ/などの口の奥のほうの低い位置で発音する母音は「大きい」という意味があるそうです。

オノマトペは言語の壁を越えるのか

そういえば、先ほどの日本語の母音でも「い」の音は「細い、鋭い」という意味で、「あ」や「お」には「大きい」というイメージがありましたよね。学者の中には、このように言語の壁を越えて共通する音象徴があると主張する人たちがいるそうです。ただ、これには否定派の人もいるようで、例えばsmall /smɑl/(小さい)とbig /bɪɡ/(大きい)はそれぞれ真逆の意味になっているという指摘もあるそうです。

これに関して、ネットでおもしろい論文を見つけました。What do English speakers know about gera-gera and yota-yota?: A cross-linguistic investigation of mimetic words for laughing and walking (英語のネイティブスピーカーが「ゲラゲラ」や「よたよた」からわかることは? 笑いと歩行のオノマトペに関する通言語的調査)というもので、日本語を知らない英語のネイティブに、笑いや歩行に関するオノマトペについて、どのような印象を受けるかというのを聞き、日本語のネイティブの回答と比較したようです。おもしろい研究ですね!

その結果、一部の例外を除いて、笑いについてのオノマトペは、日本語ネイティブも英語ネイティブも回答がほぼ一致したというから驚きです! 歩行については、濁音のオノマトペについては「大柄な人が歩く様子」と日英で共通したそうなのですが、それ以外は不一致だったとのこと。どうやら言語を越えて共通の音象徴と、特定の言語にだけ有効な音象徴というのがあるようです。

日本語のオノマトペは日本人同士でしか理解できないものだとばかり思っていましたが、日本語ノンネイティブにも伝わるものがあるのですね。皆さんも外国人の友人や同僚などがいたら、ぜひ日本語のオノマトペについて一緒に話してみてください。何かおもしろい発見があるかもしれません。

筆者もジョンにこの論文を見せて、「びちゃびちゃ」と「びしょびしょ」がどのように違って聞こえるのか、彼の感覚を試してみました。すると「『びちゃびちゃ』のほうが汚い感じで、『びしょびしょ』のほうがきれいな感じがする」との回答。なかなかセンスありますよね。

でも、「結局この2つのオノマトペがどう違うのかはわからなかった」と伝えると、不満げに「ほかの人に聞くからいい」と言うジョン。Well, good luck! (じゃあ、頑張って!)