災害派遣に「オスプレイ」は使えるの? 「お値段以上」になるかもしれない使い方とは?
陸上自衛隊のV-22「オスプレイ」が千葉県の木更津駐屯地に到着しました。離島防衛のイメージが強い「オスプレイ」ですが、今後は災害派遣にも使われます。既存の救難機やヘリコプターなどと比べ、どのような利点があるのでしょう。
「オスプレイ」は果たして災害派遣にも有用なのか
2020年7月、千葉県の木更津駐屯地に、陸上自衛隊仕様のV-22「オスプレイ」2機が相次いで到着しました。国土防衛とともに災害派遣についても運用される予定ですが、実際、災害派遣ではなにができるのでしょうか。
2020年7月16日、陸上自衛隊の木更津駐屯地に着陸した日本仕様のV-22「オスプレイ」(画像:陸上自衛隊)。
V-22「オスプレイ」の特徴は、飛行機(固定翼機)とヘリコプター(回転翼機)の両方の機能を備えているという点です。飛行機はヘリコプターよりも速度と航続距離において優れていますが、離着陸には一定の長さの滑走路が必須です。
一方、ヘリコプターは速度や航続距離は飛行機に劣るものの垂直離着陸が可能で、ホバリングと呼ばれる空中停止も行えます。このため「オスプレイ」も高層ビルなどの屋上に設けられたヘリポートが使えるほか、空母のような特別な装備のある船でなくとも発着できます。
この両者の性能をV-22「オスプレイ」は兼ね備えています。飛行スピードの速さはもちろんのこと、ノンストップで目的地に行くことができる航続距離の長さも、被災地域へ迅速かつ短時間で向かうことに直結します。
また実用上昇限度についてもV-22「オスプレイ」は飛行機並みで、高度約8000mまで可能です。
飛行機並みの高高度性能を有する「オスプレイ」
2010(平成22)年6月、アフガニスタンで大型の輸送ヘリコプターが高地に不時着した際には、32名の乗員を救出するためにアメリカ軍所属のV-22「オスプレイ」2機が高度約4500mを飛行し、山脈を越えて最短距離で救出に向かい、片道約640km以上の行程をわずか4時間で往復しています。
陸上自衛隊のV-22「オスプレイ」。これまでの陸自ヘリコプターとは異なるグレー主体の迷彩塗装が特徴(2020年7月、武若雅哉撮影)。
こうした高地での救助活動の例として、日本では2014(平成26)年9月27日に起きた御嶽山の噴火が挙げられます。標高3067mの御嶽山山頂付近で噴火に巻き込まれた被災者を救出するのに、このときは自衛隊のヘリコプターが出動しました。
陸上自衛隊および航空自衛隊のUH-60J/JAヘリコプターやCH-47J/JA輸送ヘリコプターなどが用いられましたが、運用に際して御嶽山の標高の高さに難儀したそうで、とくに後者はその高度まで飛行するのが大変難しく、積載量を減らすなどの対策がとられたそうです。
V-22「オスプレイ」も、ヘリコプターのようなホバリング時の限界高度は約3100mと低くなります。それでもCH-47JA輸送ヘリコプターの実用上昇限度約2700mよりは高高度飛行が可能であり、また「オスプレイ」は離着陸時以外ではホバリングする必要がないため、空中停止ではなく高地へ着陸する想定の人員および物資輸送であれば高性能を発揮するでしょう。
航続距離が長いから小笠原諸島へもひとっ飛び
また前述した航続距離の長さも、離島の多い日本にとっては有用です。
たとえば、2010(平成22)年10月に起きた奄美大島の豪雨災害や、2013(平成25)年10月に起きた伊豆大島の台風災害などでは、離島で起きた大規模災害のため、初動の救援部隊は本土から空路で被災地入りしています。
木更津駐屯地の滑走路に着陸進入する陸上自衛隊のV-22「オスプレイ」(2020年7月、武若雅哉撮影)。
奄美大島や伊豆大島は本土からヘリコプターが飛べる距離にあり、なおかつ空港も整備されているため、天候が回復したのちは大型の固定翼機も輸送支援にあたりました。しかし、日本のすべての島々がそのような状態であるとは限りません。
空港のない離島というと、東京都の小笠原諸島があげられます。東京から南に約1000km離れた太平洋上に位置し、空路で結ばれていないため、島に行くためには約24時間かかる船便しかありません。空港がなく、なおかつヘリコプターの航続距離ではカバーできない離島のため、急患輸送などは海上自衛隊のUS-2飛行艇が神奈川県厚木基地から向かう形をとっています。
US-2は飛行艇のため海上に離着水しますが、波が高ければ降りることはできません。V-22「オスプレイ」ならば、往復で約2000km以上を飛ぶことが可能で、なおかつ陸地に降りることができます。
実際、2014(平成26)年7月、当時の小野寺防衛大臣が父島にある海上自衛隊基地を視察した際には、アメリカ海兵隊のV-22「オスプレイ」が用いられました。
太平洋上の遭難者も着水せずに救出できるかも
さらにV-22「オスプレイ」は、ヘリコプターと同じくホバリングが可能なため、陸地から遠く離れた太平洋上での遭難者救出にも適しています。
海上自衛隊のUS-1飛行艇や後継のUS-2飛行艇は、日本本土から1100km以上離れた洋上で墜落したアメリカ軍パイロットや、ヨットで遭難した民間人などを救出していますが、それらはパイロットが天候や波の高さなどを見極めて離着水しています。
V-22「オスプレイ」は、ヘリコプターと同様に垂直離着陸やホバリングが可能(2020年7月、武若雅哉撮影)。
同じような事案に対し、V-22「オスプレイ」であれば、ホバリング状態で対応にあたることができ、飛行艇が持つ離着水時の危険性をはらむことなく、また離着水に要する時間をかけずに一刻も早く人命救助を始めることが可能です。
このように、V-22「オスプレイ」は、山岳地帯から離島、さらには遠く離れた洋上まで様々なシーンで人命救助にあたれる性能を兼ね備えているといえるでしょう。
しかし、仮にV-22「オスプレイ」が小笠原諸島や洋上での災害救援に有用性を見出すと、前述したUS-2飛行艇の必要性に疑問符を与える可能性も否定できません。その意味では、V-22「オスプレイ」は日本の飛行艇開発になんらかの影響を与える存在ともいえなくもないのです。