韓国アシアナ航空、「持ってあと2カ月」の土壇場
新型コロナウイルスの感染拡大は韓国の航空会社・アシアナ航空の経営を直撃している(写真:中央日報エコノミスト)
新型コロナウイルスの感染拡大によって世界の航空会社が大きな打撃を受けている。韓国2位の航空会社・アシアナ航空はさらなる苦境に立たされている。
経営危機が続く同社は、2019年に韓国建設業大手のHDC現代産業開発(HDC)がアシアナ航空買収の優先交渉対象者と決まり、買収手続きが進められていたところだった。だが今回、「アシアナ航空は崖っぷち」「自主経営ができるのも、長くてあと2カ月」という悲観的な声が聞こえている。
高まるアシアナ買収断念の可能性
「建設業からモビリティグループへ飛躍する」と主張し、アシアナ航空買収に名乗り出たHDCだが、同社の鄭夢奎(チョン・モンギュ)会長の悩みは深まっている。
航空業界は今回のコロナ危機により、事態がよくなる余地がどこにあるかさえわからない状況だ。そのため、HDC内外では、アシアナ航空を買収すべきか、それとも買収を断念すべきかで意見が分かれ、将来の成長のため買収を進めるべきだという立場と、買収を断念しなければ本業も危うくなるという立場の対立が深まっている。
HDCが買収の優先交渉対象者に選ばれた2019年11月当時と現在の状況は、まったく正反対になってしまった。当時、HDCはその豊富な資金力でアシアナ航空の経営を正常化できるとの期待が一気に高まっていた。
しかし、2019年度のアシアナ航空の業績は想定を下回り、4437億ウォン(約390億円)の営業赤字となってしまった。2020年に入るとコロナ危機によって、世界の航空業界は閉ざされた状況になった。2020年3月第4週の韓国の国際線旅客数は、前年比で95.5%減少している。3月29日から4月4日まで、ソウル・金浦国際空港の国際線利用客(乗り換え客を含む)は1人もいなかったほどだ。
航空産業は、業界内で「現金引出機」と呼ばれるほど、資金の流動性が重要な産業だ。航空機の運航によって確保した毎月の収益で、航空機のリース費用など数千億ウォンに達する固定費を支払わなければならないためだ。
現金が回らなければ借金返済に追い立てられてしまう。世界の航空路線がストップした状況の中で、収益を生み出せなければすぐさま存続の危機に直面する。業界内では「政府による支援がなければ世界の航空会社の90%が破産する」という指摘が出ている。
「自力では2カ月持たない」との声も
「アシアナ航空は、自力ではあと2カ月も持たない」という指摘も業界内で出始めた。同社は4月7日、3000億ウォン(約264億円)を短期で借り入れることを決定し、これまで借入金の返済と運営資金に使われる予定だ。今回の決定は、韓国産業銀行が2019年に同社に融資した1兆6000億ウォン(約1400億円)をすべて使い尽くしたことを意味する。航空業界関係者は「アシアナ航空の資金事情を考えると、1カ月持つかどうか。韓国産業銀行の支援がなければ、持って2カ月かもしれない」と打ち明ける。
HDCの周辺では、アシアナ航空の買収を継続するか断念するかをめぐって意見が対立している。買収を主張する側は「コロナが終息すれば航空市場はいち早い回復を見込める。グループの成長エンジン創出のために買収するべきだ」と主張する。一方、買収反対派は「本業の住宅市場の先行きが不透明さを増している中、アシアナ航空買収で莫大な資金を投入すればグループ全体が危機に陥る」と主張している。
財界では、HDCは韓国産業銀行と買収条件の変更で協議中という見方が広がっている。韓国産業銀行と韓国輸出入銀行に対し、HDCが買収資金返済の延期を求めているとの話もある。HDCの事情に詳しいある関係者は、「HDCと産業銀行がアシアナ航空の買収条件で協議中だ。ただ、仮にHDCの要求を受け入れた場合、何か不正や思惑があったとの疑惑を持たれ、スキャンダルへと発展することを産業銀行側が恐れているようだ」と打ち明ける。
専門家の中には、アシアナ航空の買収条件変更が難しければ、HDCが買収を断念する可能性が高まるという見方がある。韓国航空大学経営学部のホ・ヒヨン教授は「HDCの立場からすれば、2019年に締結した条件ではアシアナ航空の買収は厳しいだろう。政府支援もなく、産業銀行も買収条件を変更しなければ、HDCが買収を断念する可能性が高いと思う」と指摘する。
HDCにとっても、アシアナ航空の買収、断念ともに決断を下すのは難しい状況だ。HDCがアシアナ航空の買収に名乗り出たのは、住宅市場の景況悪化と今後の先行き不透明感に対処するためだった。航空産業という新たな成長エンジンを確保し、航空産業の派生産業であるホテルや免税店などを含め、事業を多角化させる計算だった。
特に、アシアナ航空の買収はHDCの鄭会長が生死を懸けて決断したと財界では受け止められている。鄭会長の経営スタイルは大規模投資を行うよりは、安定した財務管理を行うことで有名だ。そのため、HDCはこれまで無借金経営を続けてきた。
買収しても資金面で「焼け石に水」
そんな鄭会長が、2兆5000億ウォンという巨額資金を動員して国内2位の航空会社買収に名乗り出たこと自体、グループの将来のため果敢な決断を下した結果だと言える。HDC関係者は「鄭会長は普段からこまやかな財務管理で安定した企業経営を行ってきた。無借金経営という道から一度も外れなかった鄭会長がアシアナ航空を買収するということは、鄭会長が買収に生死を懸けたということだ」と打ち明ける。そのため、買収を簡単には断念しないだろうという見方がある。
一方で、現状ではHDCが買収を強行することも厳しい。コロナ危機はいつ終わるのかさえわからない。アシアナ航空に資金を投じることは、韓国のことわざで「底が抜けた瓶に水を注ぐ」、すなわち「焼け石に水」になる可能性が高いためだ。
アシアナ航空の経営を正常化させようと水=金を注いでしまうと、逆にHDCグループ全体の経営が揺らぎかねない。航空業界関係者は「航空業界では、2020年のビジネスは事実上あきらめてしまっている。2021年になっても状況が改善するとは言えない。HDCが政府の支援がないままアシアナ航空を買収すれば、経営改善のための資金投入をいつまでやればいいのか見当もつかないだろう」と指摘する。
HDC側は「アシアナ航空の買収で具体的に話をすることは難しい。買収手続きに沿って買収は進めていく」と述べた。(韓国「中央日報エコノミスト」2020年4月20日号)