「駐輪場に置いていたはずの自転車がない!盗まれた......!」

そんな悲しい体験をしたことがある人は少なくないだろう。

警察庁「平成30年の刑法犯に関する統計資料」によると、2018年の自転車盗の認知件数は18万3879件。そのうち7万2763件は、施錠していたにもかかわらず被害に遭っている。

鍵をかけていても自転車を盗まれてしまうのならば、一体どうすればいい――?

そんな問いに、1人の男性が答えをだした。

自転車を盗まれたくないのならば、泥棒が「盗みたい」とは思わないくらい汚くすればいい。

そう考えた彼は、自転車のサドルに「鳥のうんち」をくっつけることにした。

「鍵を使わない盗難防止策」


プロジェクトページより

ご注目いただきたいのは、一番手前の自転車。サドルに白い物体が付着し、タラリと垂れている。

駐輪場でこんな自転車を見かけたら、「かわいそうに...カラスかハトにやられたのだろうか...」と、持ち主に大いに同情してしまうだろう。鳥のフンが付いたサドルには絶対またがりたくない。きっと自転車泥棒だって、この自転車だけは避けて盗んでいくに違いない。

しかし、実はこの物体、本物の鳥のフンではない。


プロジェクトページより

鳥のフンを模した「鳥のうんちシール」なのだ。

作者は、ツイッターユーザーのもとき れおが(@reoga_motoki)さん(28歳)。自転車泥棒の心理に訴えかけて盗難を防ぐ「鍵を使わない心理的盗難防止策」として、このシールを生み出した。

もときさんによれば、彼が考案した「鳥のうんちシール」は15年に一度商品化されたが、製造上の都合で発売後ほどなく生産終了になった。

この作品を再び世に送り出すため、もときさんは20年3月2日に販売資金を調達するクラウドファンディングを開始。4月20日まで応援購入を受け付けている。前回より丈夫で、粘着面も強力なシールに進化しているという。

ツイッター上ではこのシールについて

「最高のプロジェクト始まった」
「逆転の発想とはまさにこのこと。クリエイティブだなぁ」
「発想が天才のソレすぎて笑ってる」

など称賛のコメントが寄せられている。

本物の鳥のフンよりも「鳥のフンっぽい」

Jタウンネットの取材に応じたもときさんによると、「鳥のうんちシール」を初めて作ったのは大学時代。

通学に使用していた自分の自転車を見て、「こんな汚い自転車誰も盗まないだろうな」と思ったことが発想のもとになったそう。

その自転車には鳥のフンがついていたわけではないが、雨ざらしで、サドルのカバーも破れていた。実際、鍵をかけずに駐輪場に置いていても盗まれることはなかったという。

そんな体験から、誰もが汚いと思うだろう鳥のフンをシールにすることを思いつき、大学の卒業制作として作りあげた。

もときさんが制作のために初めに行ったのは、「鳥の糞を探す旅に出ること」。ムクドリが大量にいる駅前などで、実際の鳥のフンを観察した。

「鳥のフンって、白っていうイメージがあるんですけど、実際そんなに白っぽくなくて。
結構水っぽくて、ぐちゃぐちゃっとしてるんですよね」(もときさん)

もときさんは鳥のフンを探し、写真に収め、トレースし、数種類の試作品を作成した。その中には、実際の鳥のフンを見て作ったものだけではなく、観察前に抱いていたイメージを形にしたフンも含まれていた。

そして、それらの中から最も「鳥のフンっぽい」と思うものを選んでもらうアンケートを行ったところ、実物に似ているものよりも、もときさんがイメージしていたものが最も高く評価されたという。


本物よりも本物っぽい「鳥のうんちシール」(もときさんのツイートより)

こうして生まれた「鳥のうんちシール」。その効果を確かめるために、もときさんは実験も行った。

自転車の盗難件数が年間1000件を超える地域で、シールを貼った自転車に鍵をかけずに、合計5日間放置したのだ。

もときさんによると、使用した自転車は6〜7万円程度のクロスバイク。きれいで、きちんと整備もされていた。すぐに盗まれても良さそうなものだが、自転車は無事だったという。

本当にシールのおかげだったかどうかは、実験の日に同じ場所で自転車を盗んだ泥棒に聞いてみないと分からないが、魅力的な自転車が5日間無事だったということは事実だ。

物理的な鍵をかけるのは当然のこととして、この心理的な鍵も併用すれば、安心感もぐっと増すかもしれない。