兵庫県明石市にある魚の棚商店街に、長蛇の列ができていた。いまどき行列といえば、「あ、あれネ?」「どこも同じだな」と思った読者、ちょっと待って...、早合点しないでいただきたい。行列ができていたのは、ドラッグストアや薬局ではない。

いったい何の行列か? 次のようなツイートが投稿され、話題となっている。

行列ができたのは2020年2月29日午前9時ごろ。この日は、イカナゴ漁の解禁日だった。

写真の行列は、魚の棚商店街にある鮮魚商「魚利」の前で、イカナゴの入荷を待つ人々だ。「私が見てる時に入荷されたイカナゴはとても少なかったです」というコメントも添えられている。

こうした光景を、マスクやトイレットペーパーを求める行列だと早合点してしまった人もいた(?)ようで、ツイッターには次のような反応が。

「マスクの行列かと思たらイカナゴやった」d「スーパーでおばちゃんが店員さんに詰め寄ってて、マスクかトイレットペーパーか?って思ったらイカナゴでした。そうだここは兵庫県だった」
「マスクの行列かトイレットペーパーの行列かイカナゴの行列かわからん」

しかし、イカナゴの入荷を待って行列をつくるって、どういうこと? Jタウンネットは、冒頭のツイートを投稿した明石観光協会に電話して聞いてみた。

春を告げるイカナゴ漁


イカナゴの入荷を待つ人々 明石観光協会(@yokoso_akashi)の公式アカウントより

電話で話してくれたのは、明石観光協会の担当者だ。

「兵庫県の播磨地区、阪神地区では、この時期、水揚げされたばかりの新鮮なイカナゴの幼魚を購入して、自宅に持ち帰り、炊くというのが、古来より風習となっております。
イカナゴというのは春を告げる魚とも言われておりまして、こういった習慣が、いわば春の風物詩として、現代にも伝えられているのです」

イカナゴの幼魚(新子)を平釜で醤油やみりん、砂糖、生姜などで水分がなくなるまで煮込む。炊き上がったイカナゴの幼魚は茶色く曲がっており、その姿が錆びた釘に見えることから、イカナゴの「釘煮」と呼ばれるようになったとされている。


イカナゴの釘煮をのせたご飯(Wikimedia Commonsより)

近年、不漁が続いていたイカナゴ漁だが、今年はさらに漁獲量が少なく、厳しい状況だったようだ。大阪湾では既に3月2日に終漁し、播磨灘でも3月6日に漁を終え、過去最短の漁期となった。来年以降の資源量の保護を優先することが目的だという。

「大切な資源を保護して、イカナゴの釘煮文化を守っていきたいということのようですね」(担当者)