タブレットの次はスマホ、高速大画面の時代にあえてE Inkのモノクロスマホが登場
スマートフォンのディスプレイは年々サイズが大型化し、高度なゲームにも耐えられる高速駆動なものも増えています。表示性能をさらに高める動きも進む一方で、地道に継続販売されているのが電子ペーパーを使ったモノクロディスプレイ搭載スマートフォンです。

YotaPhoneが切り開いたカラー+モノクロの2画面端末は現在ハイセンスが事実上引継ぎ、ニッチな領域を抜け出せていません。それでも電子ペーパーディスプレイを使ったスマートフォンのメリットはゼロではありません。

電子ペーパータブレットを多数展開するONYXも、電子ペーパー搭載のスマートフォンに乗り出します。ONYXの製品は5.8インチのE Inkを搭載、デュアルSIM対応のLTEスマートフォン。現時点ではまだ詳細スペックは決まっていませんが、主に電子書籍利用をターゲットに販売されることになりそうです。

ONYXの電子ペーパータブレットは日本でも販売されており、最新の「MAX Boox 3」は13インチの大型ディスプレイに8コアCPU、Android OS 9.0、RAM4GB+ROM64GB、ワコム製のスタイラスペンで手書き入力も可能という、ブックリーダーだけではなくクリエイティブ用途にも向いた製品です。



一方、電子ペーパースマートフォンのメリットは小型で持ち運びやすいこと、LTEでいつでもデータを受信可能なこと、そして小さい画面ながらも液晶や有機ELより目に優しいことから長時間の読書などに向いていることです。ONYXは自社による電子書籍マーケットを海外展開しているので、スマートフォンでも利用可能になるでしょう。


とはいえWEBページの閲覧や地図検索、動画視聴などには電子ペーパーはあまり向いてはいません。ONYXのタブレットは画面のリフレッシュモードを4通り(「通常」「スピード」「A2」「X」)切り替えることで、画面表示をワンタッチで変えることができます。スマートフォンにもこの機能は載っています。


カラーを減色したモノクロ表示になるわけではないものの、テキストやあまり写真の多くないWEBページの閲覧などはそれなりに使えそうです。


これまでの電子ペーパースマートフォンの歴史を振り返ると、実はONYXが自ら2014年に片面モデルを出していました。「BOOX E43」は4.3インチ800x480ピクセルのE InkディスプレイにCPUはFreescaleのi.MX6(シングルコア1GHz)、RAM512MB/ROM512MB、OSはAndroid 2.3という時代を感じさせるもの。しかも通信方式はGSM/EDGEでした。電子書籍のダウンロードには非力で、スマートフォンではあるものの通信機能は通話用、という割り切りが必要でした。


このときすでに初代YotaPhoneが前年(2013年)に登場しており、スマートフォン+電子ブックリーダーという新しいデバイスに未来を託していました。一方ONYXはそれ以前から電子ブックリーダーを手掛けていたこともあり、E43は低価格かつKindleよりも小型で電話として使えるデバイスとしてYotaPhoneとは異なるターゲット向けに販売されたのです。

しかしその後、片面に電子ペーパーだけを採用したスマートフォンは2019年秋のハイセンス「A5」まで出てきませんでした。やはりモノクロディスプレイだけを搭載した端末はユーザーがかなり限られているということでしょう。ですがハイセンスA5は生産台数が不明ながら、発売するとすぐに完売したほどの人気になりました。価格が低いこともありましたが、スマートフォンをブックリーダーや電話機として使えればいいと考えるユーザーが一定数いるということでもあるのでしょう。そしてアマゾンのKindleもまだモノクロ電子ペーパー端末が継続して販売されています。すなわち電子ペーパー端末の需要はゼロではないのです。

ONYXの電子ペーパースマートフォンは、2020年1月ラスベガス開催のCES 2020の会場で実機を展示し来場者に使い勝手を試してもらったり、用途アイディアを出してもらうなど現時点では市場ニーズを探っている状況です。個人的には出てくれば2台目端末として使っても面白いと思えますが、メーカーとしては商業的にペイできなければ市場に出すことは難しいところです。


電子ペーパーもカラーになれば絵本などの表示も可能になり、活用範囲が広がりそうです。しかもCES 2020でハイセンスが世界初のカラー電子ペーパースマートフォンの試作機を展示。電子ペーパーの老舗メーカーONYXとしては、先を越されてしまいました。

とはいえONYXには長年の電子ペーパーディスプレイ端末ユーザーからの知見があります。また電子書籍ストアを展開していることで、コンテンツ提供のノウハウもあります。電子ペーパースマートフォンも、ただのスマートフォンとして出すのではなく、コンテンツとのセット販売など新しいビジネスモデルも考えられるわけです。

ちなみに初代だったE43と比較して大きな違いはスペックだけではなく、背面のカメラの搭載です。電子ペーパーの画面で写真を見るのは実用的ではありませんが、LTEに対応しているため撮影した写真はクラウドに上げてしまえば、あとはPCで見ることができます。


電子書籍のコンテンツはONYXが自ら提供せずとも、すでにアマゾンなどから多数出ています。電子コミックも今では当たり前になりました。四六時中読書や漫画を楽しみたい人にとって小型の専用機は十分需要があるかもしれません。しかもスマートフォンならばデータのシェアも常時可能です。

価格が2台目として十分購入意欲をそそるリーズナブルなものになれば、意外と成功を収めることができるかもしれません。ONYXがどのような形でこの電子ペーパースマートフォンを市場に送り出すのか気になります。