キャッシュレス決済が普及しつつあるが、政府はマイナンバーカードを使ったポイント還元事業を検討している(編集部撮影)

来年度予算編成と新たな大型経済対策の議論が進む中、2020年9月以降に、マイナンバーカードを持つ人に25%のポイント還元を行うことが検討されている。

予算規模は2500億円という。2020年の東京オリンピック後に景気の落ち込みが心配されることから、その対策として今年10月に始まったキャッシュレス決済のポイント還元事業を継続するかどうか、その検討の中で出てきた案である。ポイント還元事業は2020年6月に終わることになっている。

キャッシュレス決済するとマイナポイントを付与

ポイント還元事業を単純に延長するのではなく、利用が低迷するマイナンバーカードの普及も狙い、マイナンバーカードを活用した消費活性化策が浮上した。カードを持っている人が、キャッシュレス決済を用いて一定額を前払いなどすると、国が「マイナポイント」を付与する形でポイント還元を行う。

マイナポイントとは、マイナンバーカードにひもづけられたポイント制度だ。事前に登録などをすることによって、自分がよく使う電子マネーやQRコードなどのキャッシュレス決済に使うことができる。

今浮上している案では、一定額前払いなどをした額に対して、還元率25%でポイントを付与し、その上限額は1人当たり最大5000円とするという。つまり、最大で2万円を支払えば、国から5000円分のポイントが付与されて買い物などに使うことができる。

ただし、このポイントを受け取るには、まずマイナンバーカードを持たなければならない。その上で、マイナポイントを使えるようにするために、マイナンバーにひもづく「マイキーID」を作成しなければならない。

ポイントを還元してもらうのにわざわざそこまでしなければならないのか、と面倒に思う人も多いだろう。「マイキーID」や「マイナポイント」といった初めて聞く言葉が飛び出し、仕組みはややこしく聞こえる。

ただ、まだマイナンバーカードを持っていない人は、住んでいる自治体で発行手続きをすれば、マイナンバーカードを受け取る窓口でマイキーIDを作成できる体制が今後整えられることになっている。子どものマイキーIDは親が代理で作成できるようにするという。

そして、スマホなどで自分のキャッシュレス決済口座にマイキーIDをひもづける操作をすれば、マイナンバーカードを常時携帯する必要はない。

マイナンバー普及で広がる政策余地

とはいえ、東京オリンピック後の景気対策として、キャッシュレス決済へのポイント還元をするぐらいなら、所得税を減税したほうがよほど簡単だと思う人もいるだろう。マイナンバーカードが普及していない現状からすればそうかもしれないが、所得税の減税で恩恵を受けるのは所得税を払っている人である。所得税を課税されないほどに低所得の人は、所得税減税の恩恵は受けられない。

他方、低所得者向けに限定して給付金を出す政策も、給付する窓口を市町村に担ってもらわなければならず、事務コストも馬鹿にならない。

そう考えると、マイナンバーカードとマイナポイントがもっと普及すれば、政策も工夫の余地が広がっていくと考えられる。今や、所得税を源泉徴収される場合などでは、所得を受け取る人が支払う側にマイナンバーを提供しなければならず、誰がいくら所得を稼いでいるかについて、以前よりも正確に把握できるようになっている。マイナンバーを使うとプライバシーが守れなくなると言おうにも、所得税関係ではすでにマイナンバーがかなり網羅的に付されている。

ただ、それは有効に活用されていない。つまり、所得税や住民税の課税額を計算する際に使われているが、それを他の用途には使っていない。今後、所得格差の是正策として、低所得者にはきちんと給付し、高所得者には給付しないというメリハリをつけたいなら、マイナンバーを用いて捕捉した所得の情報を活用する必要がある。

他方、これまでの給付は現金で渡すか、手続きをとって銀行振込みするしかなかった。それでは給付に多大なコストがかかる。銀行口座にマイナンバーを付番することが法律上認められているが、その体制が整っていない。銀行業界も、口座へのマイナンバー付番に積極的とは言えない。

ベーシックインカムの発想も実現可能に

しかし、マイナポイントがこのほど新設されることになった。多くの人がマイナポイントを使えるようになれば、国から個人に直接給付できるようになる。しかも、銀行口座にマイナンバーが付番されていなくてよい(もちろん、仕組みを今後整えてマイナポイントと銀行口座を個人でひもづけられるようにすることもできよう)。加えて、市町村の窓口に給付業務を委ねる必要はないから、行政の事務コストはかなり減る。

マイナンバーを用いて捕捉した所得情報と、マイナポイントを使った給付という組み合わせなら、所得の多寡に応じてきめ細かく給付する政策もできる。ベーシックインカムの発想も取り入れられるかもしれない。

2020年9月から2021年3月までの7カ月間に、マイナンバーカードを持つ人には25%のポイント還元を行う政策は、残念ながらまだそこまでの体制が整っていない。その結果、高所得者にも最大5000円のポイント還元が行われてしまう。

しかし、この政策を契機に、政策手段のインフラとしてマイナンバーカードとマイナポイントが普及すれば、今後「大化け」するかもしれない。世界的にもベーシックインカムが議論されながら具体化できていないが、行政のICT化後進国といわれた日本で、諸外国に先駆けてそうした政策が実現できる日が来るかもしれない。