消費増税による消費マインドのさらなる低下が懸念されている。国際エコノミストの今井澂氏は「増税が日本経済へのダメージを与えても、財務省は手を緩めず、今後も新・増税で国民の負担を増やすはず。とりやすい人から容赦なく税金をとるのが彼らの常套手段です」という--。

※本稿は、今井 澂『2020の危機 勝つ株・負ける株』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

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消費税増税で懸念される消費マインドの低下

2020年の経済の舵取りはといえば、総選挙を意識したものにならざるを得ず、大きな変化が見込めそうです。

まず問題は、消費税増税の影響がどうでるかという点でしょう。

消費税増税による経済への打撃はかなり大きいという前評判でしたが、反動減による経済の落ち込みは決して大きくありませんでした。これは、増税前の駆け込み需要がそれほど大きく出てこなかったことが理由です。

駆け込みと反動減とをならす政府の対策が奏功したという理由はあるでしょう。しかし、景気はすでに調整局面入りし、消費マインドも冷え込んでいました。そこへきて「老後2000万円問題」も飛び出してきたので、国民は増税前から財布の紐(ひも)をギュッと結んでしまいました。最初から駆け込み需要が出てくるような状況ではなかったのです。

これまで消費税増税が行われたときは、必ず駆け込み需要の盛り上がりを伴いました。それが今回はなかったわけですが、このことをどう解釈すべきでしょうか。

相当に悪いことが起こるのではないかという指摘があちこちで上がっています。

その根拠はいろいろですが、一番わかりやすいのは消費マインドがどんどん低下していることです。

■2019年9月まで12カ月連続で消費者態度指数が前月を下回る

内閣府は、消費マインドを示す代表的な指数である消費者態度指数を毎月発表しています。これによると、2019年9月の最新データで、すでに12カ月連続で前月を下回る状況をつづけています。

増税開始前の1年間で消費者態度指数がどれだけ変化したかを確認すると、1989年4月は1年前の88年6月調査から89年6月調査までで(この時は四半期調査だった)2.2ポイント低下しました。

1997年4月の消費税率引き上げ時(3%⇒5%)には、1年前の96年6月調査から97年6月調査までで4.2ポイント低下しました。

2014年4月の消費税率引き上げ時(5%⇒8%)は1年前の13年4月調査から14年4月調査までに7.4ポイント低下しました。

今回は、1年前の2018年10月調査から足元(19年9月調査)までに、5.9ポイント低下しています。

そして、消費税率引き上げてから消費者態度指数が1年前の水準に回復するまでにかかった期間を調べてみると、1989年4月の消費税導入時は6カ月、1997年4月の消費税率引き上げ時は6年11カ月、2014年4月の消費税率引き上げ時は3年7カ月かかっています。

前回5%を8%に上げたときは、国民への還元分は増税分の20%に過ぎませんでした。政府によると、今回はそれが70%に上るため、増税のダメージはそれほど大きくないということですが、どうなるでしょうか。

たとえダメージが軽かったとしても、過去の例から考えると、最悪の場合は今回も数年から7年近くかかるかもしれません。しかし、経済悲観論者が主張する、とんでもないことになるという話は、私は違うと思います。デフレ脱却が鮮明になった日本経済は、たいへん底堅いからです。

財務省の構想「全世代型社会保障」で新たな国民の負担

消費税増税による日本経済へのダメージがそれなりにあるとしても、手を緩めないのが財務省です。国民の負担増は、おそらくこれからも相次ぎます。

今井 澂『2020の危機 勝つ株・負ける株』(フォレスト出版)

それは社会保障改革の名目で行われる負担増でしょう。

安倍政権は、社会保障改革へ向け新たに会議を新設する意向を示しました。政府は、1億総活躍、働き方改革、人生100年時代とやってきましたが、その総仕上げ的なものとして全世代型社会保障というものを構想しているようです。

私は、こうした試みはよろしかろうと思います。

国民は改革の名のもとに負担を押しつけられますが、日本は世界に先駆けて新しい社会の在り方を示し、世界に新社会モデルを輸出しようとしているのですから、こうしたいわば新規分野はどんどんお金をつけて開拓したほうがいいのです。

■どんどん増税して天下りポストを増やしたい財務省

財務省は、とりやすいところから容赦なく税金をとろうとします。

走行税もそうですし、最近でこそ耳にしなくなりましたが死亡消費税なんていうのもそうです。財務省は、御用学者や御用評論家を使ってテレビで新しい税金の話を広め、国民に対して増税を受け入れさせる地ならしをします。そうやって国民を「日本は借金漬けなのだから仕方がない」と洗脳するわけです。

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なぜ財務省が不断に増税しようとするのかといえば、増税すればその分天下り先が増えるからです。

財務省にとって、なかでも美味しい税金は消費税です。というのは、消費税には例外措置をたくさんつけることができます。軽減税率だ、ポイント還元だなんだと、いろいろな条件をつけることができます。今回にしてもレジスター1台当たり20万円の補助金を出すことになっていますが、そのためにつくられる協会の理事長ポストや専務理事ポストは財務省の新たな指定席になるはずです。

■金科玉条「借金漬けの日本」というプロパガンダ

増税による利権拡大をつづける財務省が、金科玉条(きんかぎょくじょう)のようにして利用しているのが、「借金漬けの日本」というプロパガンダです。

しかし、私がこれまで本書シリーズ(『日本経済 投資のシナリオ』)で何度も指摘してきたように、日本は借金大国ではありません。たしかに巨額の国債を発行している事実はありますが、バランスシート上の負債にはそれに見合う資産があり、赤字国債で賄わなければならない部分はほんのわずかな金額でしかありません。元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一さんが主張しているように、日本はいま、すでに財政再建を果たしているのです。

私は、財務省が進める増税路線に、いつまでも正当性が与えられるとは思いません。

相場がそうであるように、いつまでも一方向にだけ動くものはありません。たとえば、永遠につづくと思われていたグローバリズムでさえ、米中の新冷戦で逆回転することになりました。その伝でいけば、財務省の増税も、いつか必ず巻き戻される日がやってきます。

私は案外、相続税あたりからそれが始まるのではないかと考えています。話がやや逸(そ)れますが、私の考えをほんの少しお伝えしておきましょう。

■日本は重税国家ではないが、おかしな税金がいくつもある

日本のことを重税国家のようにいう人がいますが、OECD加盟34カ国で国民負担率を比較すると、むしろ低いほうです(図表参照)。

このように日本の国民負担率は国際的に見ても標準的といえますが、個別の税制ではおかしな税金がいくつもあります。その代表が相続税です。

死んだ人の資産にたくさんの税金をかける相続税は、ほか先進国には例がありません。

それはそうでしょう。資本主義が生成、発展したヨーロッパおよびアメリカでは、私有財産が認められ、私的所有権の概念が発達しています。簡単にいえば、私的所有権は資本主義の基本概念ですから、国家がそれを制限したり規制したりするということは考えられない話です。

■先進国の中で相続税を徴収する国は日本しかない

その証拠に、主だった先進国の中で相続税を徴収する国は日本しかありません。

ところが、日本ではこのことがほとんど知られていません。

相続税の税負担は、相続財産が少ない場合はほとんどゼロといえるものの、相続財産がある人には重くのしかかります。最高税率は55%で、この税率は課税遺産総額6億円超というそれほど高くない壁を超えると適用されてしまいます。

たとえば、現預金や有価証券のほかに貸しビルや会社を持っていて、資産が10億円に上るような場合、相続税負担は相当にたいへんです。場合によっては、相続税を納めるためにビルなどの資産を売らなければならなくなりますが、不動産は簡単には売れませんから、納税資金に非常に苦しむわけです。

本来、相続とは故人の私有財産を子供や配偶者が引き継ぐだけの話です。

しかし、日本ではそのために相続税という大きな金額の支払い(納税)が発生し、相続のたびに私有財産がどんどん目減りしていきます。これで本当に私有財産が認められている国といえるのかと疑問に思って当然です。

財務省が国民を“洗脳”していることとは

この点について私たちの多くが疑問を感じないのは、日本の財務省が巧妙に私有財産制を否定し、国民にそれが当たり前のことのように思わせているからです。

赤い資本主義の中国では、私有財産制が制限され、たとえば土地を購入する場合、対価を払って50年間の利用権を手に入れるだけで、土地が自分のものになることはありません。

いっぽう、日本では一応、土地を購入することができ、名義もすべて自分のものにできるのですが、固定資産税や相続税が払えなければその土地もいずれ手放すほかなくなります。

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とすれば、中国の利用権と日本の私的所有権の間にそれほど大きな差があるとも思えません。毎年お金を払うことで、また相続のたびにお金を払うことで維持できる権利であるならば、それは私有財産ではなくリース物件というべきでしょう。

私は、安倍首相の登場によって、日本が世界の中で当たり前の国になる道を歩んでいると考えています。それは、自らの力で安全保障を進め、防衛を行い、国際交渉を行い、貿易などの経済活動を行う国のことです。

同時にそれは、世界に冠たる資本主義の国ということでもあります。日本がそういう姿を目指すなら、押しも押されもせぬ私有財産制を確立しなければなりません。

日本はいま、そういう時期にきています。ですから、相続税に対する大きな見直しが行われる日もそう遠くないのではないかと思います。

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今井 澂(いまい・きよし)
国際エコノミスト
1935年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、山一證券入社。山一證券経済研究所、山一投資顧問を経て、日本債券信用銀行顧問、日債銀 投資顧問専務、白鷗大学経営学部教授などを歴任。主な著書に『シェールガス革命で復活するアメリカと日本』(岩波出版サービスセンター)、『経済大動乱下! 定年後の生活を守る方法』(中経出版)、『日本株「超」強気論』(毎日新聞社)、『恐慌化する世界で日本が一人勝ちする』『日経平均3万円 だから日本株は高騰する!』『米中の新冷戦時代 漁夫の利を得る日本株』(以上、フォレスト出版)など多数。公式ウェブサイト
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(国際エコノミスト 今井 澂)