人口減による定員割れが予想できたにもかかわらず、文部科学省がこの30年間、大学の新設を次々と認可してきたのはなぜか? 写真は秋田県の国際教養大学の24時間開館している図書館(写真: Kengo_mi/PIXTA)

2020年の入試改革を目前に控える大学。続く各種改革の根幹には、18歳人口減と、すでに私立大学の4割が入学者数定員割れという悲惨な実態があるとされる。ではなぜこうなることが予想できたのにもかかわらず、平成30年の間、大学は増え続けたのだろうか? 教育ジャーナリストの木村誠さんはそこに「文科省の甘すぎる認識があったのでは」と指摘する。

*本記事は、中公新書ラクレ『「地方国立大学」の時代』より抜粋したものです。

約4割が「入学定員割れ」という悲惨な現状

私立大学の約4割が入学定員割れになっている、という事実は、日本私学事業団の調査を通じて今や広く知られている。そして定員割れの大学は、淘汰されてもやむをえない、という主張も多く目にするようになった。

ただ、大学設立を認可した文部科学省からすれば、次々に大学が潰れるような事態が続いては困るし、在学生への責任もある。そこで大学が破綻しないよう、さまざまな救済スキームを考えてきた。

例えば最近では、東京都心に多い人気私大の定員の抑制と入学定員の厳格化を進め、地方受験生の流入を抑え、地方の私大にとどめようとしている。

しかしそうした施策でいくらか緩和されたとしても、18歳人口減、大学進学率は横ばい傾向という厳しい状況で、大学にとって冬の時代が続くのは間違いない。

それにもかかわらず、文部科学省はこの30年間、大学の新設を次々と認可してきた。それはなぜか。


(画像)『「地方国立大学」の時代』より

「戦後の大学数の推移」を見ると、平成末期になっても、まだ微増傾向が続いていることがわかる。一般企業なら、縮小することが確実なマーケットへ続々と進出することなど、まずありえないことだろう。

18歳人口がまだ増加か横ばいで、大学進学率も伸びていた平成初期なら、大学が増えてもとくにおかしくはなかった。ところが、その急増期を過ぎても認可は続いた。

平成初期ではとくに公立大学の開学が目立つ。国立大学の数が微減傾向なのに対し、その伸びは際立っている。公立大学の場合、地方自治体が設置者で、交付金も総務省の管轄となる。そのため文部科学省での設立認可はかなり甘めで、ある意味でひとごとだったのでは、という見方もある。

進む公私の合流

長く続いた昭和の後期、地方活性化の担い手として地方の大学への期待が高まっていたことも確かだ。地方自治体が既存の学校法人と協力し、財政支援をする「公私協力方式」が、地方私立大学を中心に続出したのはそのためだ。

ただし、実際には地方受験生の地元私立大学志向は期待ほど高まらず、時を追うごとに志願者集めに苦労するケースが目立つようになる。平成に入った頃には、それまでのように地方自治体の要望に応じ、系列校として地方私立大学を新設する学校法人は少なくなった。

そこで生まれたのが、実質的に公設でありながら法的には民営(学校法人)という「公設民営方式」の私立大学だ。地方自治体から見れば、私学並みの学費を確保できて収入面でもプラスになる、という思惑があったのだろう。

しかしこれが裏目に出た。地元進学校の受験生から敬遠されてしまったのである。

そもそも進学校ほど国公立大学の合格実績を重視する。一方で、公設民営方式の大学では、公設とはいっても私立大学のうえ、従来の公立大学よりも学費が高く伝統もない。結果として、思惑どおりに地元の受験生が集まらなかったのである。中には推薦入学の枠を広げ、進学実績のあまりない高校の生徒をどんどん受け入れたところ、むしろ進学校の生徒から敬遠される、という悪循環に陥った大学もある。

こうした結果、地元での評判もだんだん落ち、志願者を減らす大学が増えていく。そして多くが定員割れに直面することになった、というのがここまでの大きな流れだ。

定員割れの大学が増える中、起死回生を狙った策が生まれた。それが「設置者変更」、つまり私大の公立化である。近年だと、公設民営方式で設立された大学だけでなく、公私協力方式をとっていた大学、例えば成美大学が福知山公立大学へ生まれ変わったようなケースもある。

改めて平成に開学した大学を見てみよう。


(画像)『「地方国立大学」の時代』より



(画像)『「地方国立大学」の時代』より

まず全体としてはこの間、やはり公立大学の開学が多かったようだ。なお★の長岡造形大学、名桜大学、高知工科大学、千歳科学技術大学、静岡文化芸術大学、鳥取環境大学は先述した公設民営の私立大学で、後に公立化した大学である。

国立大学が法人化した2004年には、秋田県に公立大学である国際教養大学が開学している。ここは、すべて授業が英語で行われ、全員が1年間海外留学必須というグローバル教育を行い、開設当時から話題を呼んだ。2019年現在でも、(THE)世界大学ランキング日本版で10位にランクイン。今や旧帝大系や早慶並みの高い評価になっている。

とくに学生を自主的に勉強させる教育システムを評価する声が多い。24時間開館というコンビニ並みの大学図書館では、深夜でも勉強している学生の姿を見ることができる。授業では英語で意見交換をしなければならないため、予習も欠かせないのだろう。

同じ東北の福島県の公立会津大学も存在感を高めている。地元だけでなく広く受験生を集め、高校教師からの評価も高かった。2011年の東日本大震災を経て、学内に復興支援センターを設けるなど、専門である情報科学だけでなく、地域貢献などの面でも大いに注目される存在となっている。同様に岡山県立大学も、地域活性化のプロジェクト「COC+」で代表大学になるなど、地元大学群のリーダーとして期待されている存在だ。

平成生まれには「個性派」が多い

平成も後半に入ると、今度は医療系を中心にした新設が目立ってくる。超高齢化社会となり、医療のニーズがますます高まったという背景があるのだろう。例えば2017年に開設された5大学はすべてが医療系私立大学だった。


医療福祉専門職の養成と地位向上を目指し、千葉県成田市に医学部新設の宿願を果たした栃木県の国際医療福祉大学も1995年開設で、平成生まれの大学である。2017年にスタートした新医学部入試では、学費を低く抑えたこともあって人気を集めた。また2000年に開学した立命館アジア太平洋大学には海外留学生がとても多く、日本にいながら国際交流ができると評判だ。

このように、平成生まれの大学には個性派がとても多い。その半面、医療系は別にして、開設早々に定員割れした地方私立大学も少なくない。個性のない旧来型学部の新大学ほどますます厳しい時代を迎えつつあるといえるだろう。