2019年「フランクフルトモーターショー」にて、「世界一黒い」という塗料をまとったBMW「X6」が披露されました。ボディ表面の凹凸も見えないほどの黒さです。

光の99%以上を吸収してしまう「黒」

 2019年9月22日(日)まで開催中の「フランクフルトモーターショー」にて、BMWが一風変わったクルマを展示しています。「世界で最も黒い」という塗料を施した「X6」です。


フランクフルトモーターショーで披露された「世界一黒い」BMW「X6」(2019年9月、鈴木ケンイチ撮影)。

「世界で最も黒い」と聞くと、「いやいや、日本にも黒い色付きクリアを施した漆黒の『センチュリー』がある」と、反発の声が上がるかもしれません。「センチュリー」の場合、通常は透明の塗料が使用される仕上げのクリア塗装にも黒を混ぜるなどして「黒さ」を追求しているのですが、今回は勝手が違います。この「X6」には、通常のクルマ用の塗料ではなく、ベンタブラック(Vantablack VBx2)という宇宙機器にも使われる特殊な物質をクルマに応用したというのです。

 ベンタブラックの「Vanta」は、Vertically Aligned Nano Tube Arrayの略で、直訳すると「垂直に整列したナノチューブ」となります。人間の髪の毛より約5000倍も細い直径20ナノメートル(1ナノメートルは1mの10億分の1)、長さ14マイクロメートル(1マイクロメートルは1mの100万分の1)から50マイクロメートルの黒いチューブが、1cm四方内に約10億本びっしりと並ぶ、というのがベンタブラックの特徴です。

 この物質には、光の99%以上を吸収して熱に変換してしまうという特徴があります。つまり、光のわずか1%以下しか反射されないため、「世界で最も黒く」見えるというわけです。BMWのプレスリリースには「あまりにまっ黒なので、脳が(三次元の物体を)二次元に誤解してしまうほど」とあります。

 では、実車を肉眼で見るとどうなるのかが気になるところ。そこを「フランクフルトモーターショー」で確認してきました。

薄暗い部屋でも十分「異質」!

「フランクフルトモーターショー」でのBMWの展示スペースは、会場内でも屈指の広さを誇ります。その最も端の小部屋に、世界で最も黒い「X6」が展示されていました。

 小部屋のなかは薄暗く、スモークがたきこめられており、まるでお化け屋敷のようです。そこに佇むまっ黒な「X6」は、確かにこれまで目にしたことのない質感で、ボディは金属というより、ベルベットの布が張り付けられたように見えます。もちろんボディのプレスライン(鋼板をプレスした際に付けられたボディの凹凸や線)は判別できません。それが「二次元のように見える」ということでしょう。

 撮影してみると、フラッシュライトの光を強くすればするほど、マットな黒さが際立ちます。光が強いと、ヘッドライトなど塗装の無い部分が明るくなるからです。このクルマを普通の明るいところで見ることはできませんでしたが、暗い部屋のなかでも、異質さは明確でした。


フロントグリルやナンバープレートなど、塗料が塗られていない部分が際立つ(2019年9月、鈴木ケンイチ撮影)。

 今回のクルマは、まったくのショーカーという扱いでしたが、BMWは将来的に量産車への採用も期待しているとか。ただし、まだ日常的に使用できるだけの耐久性はなく、その技術開発が大きな課題となっているようです。また、ボディの塗料だけでなく、いわゆる「自動ブレーキ」などの先進運転支援システム用カメラの内部などにベンタブラックを使用すれば、光の乱反射を防いで、性能をアップさせることも可能になるといいます。

 実際に量産車のボディへこの物質を使用するとなると、プレスラインのデザインがわからなくなるので、カーデザイナーは嫌がるでしょう。また、ほかのクルマからの視認性も悪くなります。さらに言えば、光を熱に変換するというのは、クルマが熱せられることを意味しますから、暑い地域ではおすすめできないはずです。したがって、ボディよりもカメラ内部やメーター、ディスプレイ周りなど、一部で採用するというのが現実的ではないでしょうか。

 ただし、ショーカーとして注目度抜群なのは間違いありません。ほかのショーでも流行るかもしれませんね。