アメリカのハーバード・スミソニアン天体物理学センターは8月15日、2016年に発見された超新星爆発「SN2016iet」に関するSebastian Gomez氏らの研究成果を発表しました。研究内容は論文にまとめられ、同日付でThe Astrophysical Journalに掲載されています。


対不安定型超新星「SN2016iet」の想像図


■ユニークな超新星は大質量星の最期の姿だった

地球からおよそ10億光年先で発生したSN2016ietが最初に観測されたのは、2016年11月14日のこと。発見したのは欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ガイア」です。その後、ハワイのジェミニ北望遠鏡、MMT天文台のマルチミラー望遠鏡(MMT)、チリのラスカンパナス天文台にあるマゼラン望遠鏡などにより、3年間の追跡観測が実施されました。


研究に参加したEdo Berger氏が「一部の特徴がめずらしい超新星は時々見つかりますが、この超新星はあらゆる点でユニークでした」と語るように、SN2016ietは過去に例を見ない超新星爆発だったことが判明します。


太陽の8倍以上重い恒星が引き起こす現象である超新星爆発は、恒星が多く集まる銀河やそのすぐ近くでよく見つかります。SN2016ietを引き起こした恒星は太陽のおよそ200倍という大質量を得て誕生し、数百万年という短い寿命の間に8割以上の物質を放出しつつ、最後には超新星爆発を引き起こしたとみられています。


ところがSN2016ietは、まだカタログ化されていない矮小銀河の中心から5万4000光年も離れた場所で発生しました。Gomez氏は、星々が密集したエリアからこれほど離れた場所でこれだけ大質量の恒星がどのように誕生するのか、その仕組みはいまだ謎に包まれているとコメントしています。


また、これほどまでに巨大な恒星では、内部で大量に発生したガンマ線が引き金となって電子と陽電子(電子の反粒子)の対生成と対消滅が暴走的に繰り返されることで、最終的にコアを含む恒星全体が一度に吹き飛んでしまう「対不安定型超新星」や、一部を失う爆発を繰り返す「脈動性対不安定型超新星」に至ると予想されています。


SN2016ietではほぼ同程度の明るさのピークが2回、100日間隔でキャッチされており、その後に650日ほどかけてゆるやかに減光する様子が観測されています。実際に観測された明るさの変化や推定される質量などから、SN2016ietは対不安定型超新星(あるいは脈動性対不安定型超新星)が実際に観測されたケースではないかと推測されています。


■初期宇宙の理解が深まることを期待

Gomez氏が「データに問題が起きたのかと思った」と表現するほどめずらしい特徴を備えたSN2016iet。その特殊性は今後の研究に大いに役立ってくれるかもしれません


銀河内で発生する一般的な超新星爆発は、暗くなってしまうと銀河の光に埋もれてしまい、それ以上の追跡観測が不可能となります。しかし、SN2016ietは孤立した環境で発生したことから、長期間に渡って変化を観測することができます。


また、対不安定型超新星は、金属元素が乏しい環境で誕生した大質量の恒星によって引き起こされると予想されています。SN2016ietが属する矮小銀河は実際に金属が乏しいことが判明していますが、これは恒星の核融合によって生み出される重元素がまだ少ない初期の宇宙に似た環境でもあります。


「SN2016ietは、初期宇宙における大質量星が迎えた最期の様子を示しています」と語るBerger氏。異例ずくめの超新星爆発は、初期宇宙の理解につながる知見をもたらすものと期待されています。


 


Image Credit: Gemini Observatory/NSF/AURA/ illustration by Joy Pollard
https://www.cfa.harvard.edu/news/2019-19
文/松村武宏