NASAは8月9日、初期宇宙のガスに隠されたクエーサーを発見したとするチリ・カトリック大学のFabio Vito氏らによる研究成果を発表しました。研究内容は論文にまとめられ、8月7日付でAstronomy and Astrophysicsに掲載されています。


クエーサーの想像図(Credit: NASA/ESA)


■成長期の超大質量ブラックホールはガスに隠されていてよく見えない

初期の宇宙で急速に成長したとみられる銀河中心の超大質量ブラックホール周囲では、引き込まれつつある物質によって形成された降着円盤が強力な電磁波を放射することで、銀河中心の狭い領域が銀河全体よりも明るく輝くことがあります。こうした天体はクエーサーとも呼ばれます。


現在の理論では、超大質量ブラックホールは銀河の濃密なガスから物質の供給を受けることで急速に成長するものの、そのガスによってクエーサーの輝きが覆い隠されてしまい、成長中の様子は観測しづらくなっているとみられています。


つまり、国立天文台ハワイ観測所の「すばる」望遠鏡などで光学的に発見されるようなクエーサーは、超大質量ブラックホールが周囲のガスを吸い込み尽くしたことで観測できるようになった、すでに初期の成長期を終えた姿だと考えられるわけです。


■ガスが晴れたあとのクエーサーを観測するはずが……

過去の観測によって、宇宙が誕生してから10億年と経たない時点で、すでに200個ほどのクエーサーが輝いていたことがわかっています。こうしたクエーサーはガスや塵に覆い隠されておらず、超大質量ブラックホールが観測しやすいと見られています。Vito氏らの研究チームがNASAのX線観測衛星「チャンドラ」をこのようなクエーサーに向けたのも、隠されていないブラックホールを観測するのが本来の目的でした。


ところが、「PSO167-13」というクエーサーからは高エネルギーのX線だけがわずかに観測され、低エネルギーのX線は検出されませんでした。このことは、クエーサーがまだガスや塵によって隠されていて、低エネルギーのX線がブロックされていることを示唆しています。


クエーサー「PSO167-13」とその周辺の様子。チャンドラによるX線観測(中央下の青)、アルマによる電波観測(右下の赤)、パンスターズによる光学観測(背景)を合わせたもの


■見つかったのは最も古い「隠された」クエーサーだった

「蛾が見えるのを期待していたのに、実際に見えたのは繭でした」とVito氏が語るように、これは予想外の発見でした。


PSO167-13は、2015年に「パンスターズ(Pan-STARRS)」計画による光学観測で発見されたクエーサーです。光ではすでに見つかっていたクエーサーがX線ではなぜか隠された状態にあることから、パンスターズで発見されてからVito氏らの研究で観測が実施されるまでの3年間に、クエーサーが再びガスや塵に覆われた可能性が指摘されています。


いっぽう、「ハッブル」宇宙望遠鏡や「アルマ」望遠鏡による観測で、PSO167-13はすぐ近くに別の銀河を伴っていることがわかっています。今回のチャンドラによる観測では、X線がPSO167-13のものなのか、それとも伴銀河から届いたものなのかまではわかっていないため、今回Vito氏らは伴銀河のクエーサーを新たに発見したという可能性もあります。


どちらの場合でも、今回観測されたクエーサーはガスや塵に隠されたものとしては最も古く、宇宙誕生から8億5000万年しか経っていません。研究チームは今後の観測によってX線がどこから来たのかをはっきりさせるとともに、他の「隠された」クエーサーを観測することで、超大質量ブラックホールが太陽の10億倍以上の質量まで急速に成長する仕組みを理解することが重要だとしています。


 


Image Credit: X-ray: NASA/CXO/Pontificia Universidad Catolica de Chile/F. Vito; Radio: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); optical: Pan-STARRS
https://www.nasa.gov/mission_pages/chandra/news/cloaked-black-hole-discovered-in-early-universe-using-nasa-s-chandra.html
文/松村武宏