会社を上場させた女性社長2人に、“お金”について、あれこれ質問。毎日の生活のことから将来の展望まで、独自の哲学を語ってくれました。
ネットイヤーグループ社長
石黒不二代(いしぐろ・ふじよ)さん
名古屋大学経済学部卒業。ブラザー工業、スワロフスキー・ジャパンを経て、米国スタンフォード大学でMBA取得。1999年にネットイヤーグループのMBO(マネジメント・バイアウト)に参画し、2000年より現職。

■アメリカ留学で、お金の使い方が変わる

私、派手な顔立ちのせいか、なぜか“お金がかかりそうな女”に思われがちなんです(苦笑)。でも、実際の生活はいたって地味。今着ている服も、古着屋と通販のバーゲンで買ったので、上下で1万円ぐらい。特に夏場は自分で洗えてシワにならないものが好きなので、ポリエステルの素材の洋服を買うことが多いです。デザインよりも機能優先、自分に似合っていればそれでOK。また、美味しいものも好きですが、会食など仕事で外食する以外は家で自炊しています。車も持っていません。

ネットイヤーグループ社長 石黒不二代さん

20代の頃は人並みにブランド品にも興味がありました。お金の使いどころが変わったのは、日本の会社を辞め、当時2歳の息子を連れてアメリカ、スタンフォード大学のビジネススクールに留学した経験が大きく影響していると思います。

スタンフォードはとにかく授業料が高い。当時は生活費を含めて2年間で1500万円ほど必要だったので、借金をして渡米しました。MBAを取得した後、シリコンバレーでハイテク系コンサルティング会社を起業したのですが、ある日気づいたら預金残高が10万円ぐらいしかない! だから新しい洋服を買う余裕がありません。でもシリコンバレーで働いている人たちは身なりに構わない人が多いから、着るものや持ちものを気にしなくてよかったんです。

そのかわり、自分と息子の教育にはとことんお金をかけました。私の留学費用も莫大(ばくだい)だったけれど、息子もシリコンバレーの小中高一貫の私立学校に通い、やはりスタンフォードでコンピュータサイエンスを学んだので、私の稼ぎの多くが教育費に費やされました。

でも、投資した教育費はちゃんとリターンとして返ってきています。スタンフォードは、コア技術(製品の核となる技術)を商用化するのが得意分野だったことが留学の理由。そこで一流の企業戦略や事業戦略を学びたかったからです。そのコア技術の担い手であるエンジニアと、技術のアイデアについて話すのが大好きです。というかエンジニアの存在そのものが好き(笑)。“オタク”の彼らは純粋に技術開発をしているので、売れるものを作りたいわけではありません。だから「その技術をもっとユーザーオリエンテッド(顧客志向)にすれば、さらに売れるものになる!」と思うと、ワクワクしてきます。

息子は息子で、すでに小学生時代に「財産の割合は株・不動産・現金を3分の1ずつで持つのがいい」と教えられたり、擬似株式投資の授業を受けたり。株式を公開する前に買った株が、IPO(新規株式公開)後に価値がグンと上がることも学んだりしました。現在、彼はアメリカでエンジニアとして働いていますが、“一生もの”のお金の教育を受けられたことは、貴重な経験だと思います。

■会社を上場後にリーマン・ショックが到来

IPOといえば、わが社も2008年3月に東証マザーズに上場して、最高益を出しました。でも、その半年後にリーマン・ショックが来て。うちはデジタルマーケティングの会社で、不況になると広告宣伝費が真っ先に削られますから大打撃です。そのときはかなり動揺したけれど、周囲には「大丈夫、大丈夫」と平静を装っていました。会社として、短期的にやるべきこと、長期的にやるべきことを考え、そのときにできる最大限のことを粛々とやり続け、なんとか危機を切り抜けました。

以前から最悪の事態に備えて、リスクマネジメントをきっちりとやっていたこともよかったのでしょう。万が一、何カ月間か売り上げがなくても大丈夫なように現金をストックしておいたり、特にお金が必要ではなくても銀行からお金を借りて良好な関係を結んでおいたり。この“守り”が、重要なポイント。

社員は基本的に前向きなモチベーションを持って働いています。営業ならば、19年の収益が1億円だとしたら、20年は2億円にする。開発なら前よりも必ずいいものを作るなど、目標設定が常に“攻め”。でもいいときも悪いときも会社を“守る”ことが、経営者である私のミッションだと思っています。

自分のプライベートなお金に関しては、増やすことに頓着していません。健康ならば、死ぬ直前まで働き続けたいと思っていますし、そうすれば何らかの稼ぎがあるので、お金に困らないだろうと楽観的。アメリカで10万円しかなかった時代も、「なんとかなる」と思っていました。根がポジティブなんでしょうね。

“お金の有無”は幸せとは関係がないような気がします。繰り返しになりますが、私はエンジニアの素晴らしいアイデアを聞いて、それでお金をもうける仕組みを思いつく瞬間が一番エキサイトできる。つまり自分が“好き”なことは何なのかを、把握していることが大事なんです。好き=得意なことは成功確率が高い。だから、自然にお金がついてきます。そうなると一層仕事を頑張れるので、またお金が入ってくる――。そんないい循環に入ると、理想のお金の稼ぎ方ができるのではないでしょうか。

▼私のマネー3カ条
(1)私的なお金で一番使うべきは自分と子どもの教育費
(2)会社の最悪の事態に備えお金のリスク管理は必須
(3)健康なら死ぬ直前まで働けばいい
夢の街創造委員会社長
中村利江(なかむら・りえ)さん
関西大学文学部卒業。リクルート、ほっかほっか亭総本部のハークスレイを経て、プランニング会社設立。2002年に宅配ポータルサイト「出前館」を運営する、夢の街創造委員会社長に就任。

■両親から受け継いだお金に対する“シビアさ”

私は富山県高岡市の出身です。堅実で、貯蓄率も持ち家率も高い県民性で知られていますが、わが家も当てはまるかもしれません。父が事業をやっていて経済的に余裕があったほうだと思いますが、両親ともにお金に関してシビア。私もその感覚を受け継いでいるようです。

夢の街創造委員会社長 中村利江さん

たとえば、コンビニは無駄遣いの誘惑が非常に多いので、ほとんど足を踏み入れたことがない。必要があれば立ち寄ることもありますが、そんなときは「これって、こんな値段で売っているんだ」とか「新製品が出たんだ」などと市場調査をしています(笑)。大した金額ではないからと、チョコレートやジュースをコンビニで毎回衝動買いしていては、ただの散財。その分を貯蓄に回したら、結構な額になりますよね。

また、移動手段にも無駄なお金は使いません。2〜3時間ぐらいの移動ならば、飛行機はエコノミークラスで十分。もっと時間がかかる場所に出張する際は、エコノミーだと疲れて仕事のパフォーマンスが悪くなるので、ビジネスクラスを使います。ファーストクラスはビジネスクラスと仕様がそんなに変わらない気がするのに、値段が倍ほど高い。追加料金がかからないアップグレードで乗ったこともありましたが、お金を払ってまで乗りたいとは思いません。

無駄を省くという点では、働き方も同じ。常日頃から社員に言っているのは「長い時間をかけて仕事をするのは効率的ではない。やるべきことを集中してやって仕事の効率を上げ、空いた時間でほかのことをやったほうがいい」ということ。同じことを毎日やっていても給料は飛躍的にアップしません。多少手を抜いても、斬新なアイデアや工夫を考え出して新しいビジネスにつなげたほうが収益が大きくなり、結果的に給料が高くなります。

もちろんすべての仕事を効率的にやることは難しく、成功にたどり着くまで長い時間を要することもあります。社長を引き継いだ当初、メイン事業の「出前館」は大赤字だったので、私はほかの誰よりも低い給料で、誰よりもたくさん働くと決意。そこまでして引き受けたのは、フードデリバリーのポータルサイトという事業に大きな可能性があると思っていたからです。

当時、競合他社が何社もあり、赤字を解消するために、あの手この手を考えました。たとえば加盟している飲食店が不便に思っていることや、ユーザーの「こんなものがあったらいいな」という希望を実現していくと、そのサービスにお金を払ってもいいと思ってもらえる。だからクレームは“宝の山”で、そこから大きなヒントを得られました。でも3年間赤字続きで、途中で投げ出したくなったときもあって。私は人に弱みを見せたくないので、トイレでこっそり泣いたことも……。

座右の銘は「艱難汝(かんなんなんじ)を玉(たま)にす」。失敗も苦しみも、乗り越えたあとに必ず成長できます。社員たちの前でも、「必ず成功するから!」と言い続けました。言葉に出していると不思議とその通りになるもので、4年目になったときにやっと黒字転換し、ヘラクレス(当時)に上場できたのです。

■財産は若者支援のために寄付したい

上場後、会社の価値を上げるために一部株式譲渡しているので、私にも利益は出ています。富豪だと思われているのか、クルーザー、プライベートジェット、宝石など、いろんなぜいたく品の勧誘の手紙が来るのですが、封も開けないで即ゴミ箱行き(笑)。休日にスキーやダイビングをするくらいで、高価なものにはほとんど興味がありません。

それよりも、社会に貢献できるようなお金の使い方ができればベスト。現在「全国環境対策機構」という公益社団法人の理事も務めています。親と離れて暮らしている子どもたちの生活や、勉強するための資金をバックアップする仕組みがあり、支援をしています。お金やチャンスがないからといって、若い有能な人たちの資質を生かせないのはもったいない。ベンチャー企業のトップとして、できる限りのことをしたいのです。将来的に私の財産は子どもには譲らず、寄付するつもりです。

仕事では次々にやりたいことが出てくるので、常に企画を温めてリサーチをしている状態。そのうちに「これはイケる!」とアイデアが熟してきたら、週1回の経営会議で「こういうことをやろう」と提案するのが楽しくて! 社員はまた仕事が増えると、嫌がっているかもしれませんが(苦笑)。とはいえ、社長職が長くなったので、そろそろ誰かにバトンタッチしなくてはと思っているところ。新規事業に携わっていたいので、部長に格下げになっても構いません。

まだまだ働きますが、50代半ばなので、老後の生活のための貯蓄はマストです。公的年金はもらえないと思っているほうが気楽でしょう。長い人生を生き抜くためのお金は、社会に頼らず自分の力で貯める。そういうスタンスで今後も生きていきたいのです。

▼私のマネー3カ条
(1)コンビニはモノを買う場所ではなく、マーケティングの場所
(2)ユーザーのクレームは利益を生む“宝の山”
(3)自分の財産は、社会貢献のために使う

(ネットイヤーグループ社長 石黒 不二代、夢の街創造委員会社長 中村 利江 構成=東野りか 撮影=神ノ川智早)